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第33話

「まだ邪魔をするか!容赦せぬと言っておいたはず」


 常に冷静な張遼の顔つきがみるみる険しくなっていく。


「昌輝、逃げよ!」


 態勢を立て直している最中ではあるが昌景が怒鳴った。


 昌輝は張遼に折られた武器を捨て、腰に差してある刀を抜き、立ちふさがっていた。


 張遼の偃月刀との間合いは雲泥の差である。


「勝負を汚した罰を受けよ」


「後ろへ飛べ!」


 張遼は昌景が声をかけると同時に、瞬速とも思える速さで偃月刀を振り抜いた。


 昌輝は昌景の指示に従い後方に跳ねたが、一瞬及ばず、偃月刀の軌跡を胸に受けた。



 それでも直前で跳ねたため、斬られたものの出血は少なく、致命傷までには至らなかった。


「次は逃がさぬ」


 張遼は先ほどよりも踏み込んで偃月刀を振るおうとした。


 だが、立て直した昌景が背後に迫り、昌輝を討つことはかなわなかった。


「おぬしの相手は儂であろう?」


 張遼は背後からの昌景の声に反応し、昌輝を再度捨て置き振り返る。


 ふてぶてしく笑みを浮かべている昌景を、張遼も相好をくずして見返した。


 昌景は時折張遼から視線を逸らし、その奥で傷ついている昌輝を見やり、退けと目で訴える。


 張遼は当然気づいていたが、昌輝には最早興味も何もなく、ただ昌景との戦の邪魔になるため遠ざけて欲しく願い、黙って見過ごした。


 昌輝はまだ戦えると昌景の視線に首を横に振るが、次第に昌景の目尻が上向いていくことに恐れを感じ、やむなく後退していった。


「待たせたな。これで思う存分暴れられよう」


「ふん。負けた時の言い訳ができなくなったが、良いのか」


「そっくりその言葉返しておこう」


 昌景が握手代わりにと槍を張遼に向ける。


 張遼もそれに応じ、偃月刀を昌景の槍に合わせた。


 二人はそのまま距離を少し置き、


「行くぞ!」

「参る!」


と、ほぼ同時にかけ声を発し一気に詰め寄っていった。


 互いの武勇は拮抗しており、そのあまりの激しさに周囲からは兵が離れていった。


 数合打ち合うも互いに譲らず。


 僅かな隙もなければほんの少しの過失もない。


「すごい!」


 曹純は信綱のことを忘れて、二人の闘いに目を奪われていた。


「ずいぶんと余裕じゃないか!」


 そんな曹純に信綱が大刀を振り下ろす。


 曹純はその豪剣をあっさりと見切り、大刀は地を叩きつけるにとどまった。


「貴殿の攻撃は直線的すぎる。当たらなければなんてことはない」


 涼しい顔で語りかける曹純に、信綱が再び大刀で斬りかかる。


「通用しないと言っている」


 曹純は身を翻し大刀の軌道を避ける。


「ちっ!」


 舌打ちをしつつ、何度も何度も大刀を振るう。


 だがその都度、攻撃は空を切るばかり。


「飽きてきたのでそろそろ終わりにさせてもらうぞ」


 信綱の攻撃をかわし続けてきた曹純が反撃の意志を示す。


 曹純は大刀の間合いに恐れもせず入り込み、信綱の腹部を狙った。


 信綱は大刀を地に刺し、それを軸に回転して曹純の剣撃を避けると、無防備な背後を蹴りつけた。

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