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第34話

「大刀を振るうだけが我の戦い方ではないわ」


 蹴られた衝撃でよろける曹純に信綱が吐き捨てた。


 曹純は倒れそうな所を堪え、信綱の方を振り返る。


 信綱は大刀はそのままに、徒手空拳で曹純に歩み寄る。


「素手とて遠慮はせんぞ」


と、曹純は剣を左右に払う。


 何度目かの剣の攻撃を、信綱は見切り、曹純の右手を捕まえた。


 信綱は握る力を一気に強め、曹純はそのために剣を手放してしまった。


 その落とした剣を拾えないように蹴飛ばした信綱は、曹純の腕を絞り上げ、強引に投げた。


 曹純はかろうじて受け身を取り、直撃だけは防ぐ。それでも曹純の危機は続く。


 今度は信綱が曹純に馬乗りになろうと覆い被さってきた。


 それを曹純は咄嗟に横に転がり、うつ伏せになると亀のように丸まり、上には乗せなかった。


 信綱はこれを覆すのは困難と判断し、一旦離れる。


 その隙に曹純も立ち上がり、すぐに仕掛けてくるであろう信綱の次なる攻撃に備えた。


 案の定信綱はすぐさま拳打を乱発し、曹純は手出しを封じられた。


 だがそれも想定内と、曹純は極めて冷静に信綱の拳打をいなし、反撃の機を待った。


 乱打をする信綱に徐々に疲労の色が見え始める。


 防備に徹している武人を破るのは困難。


 信綱の脳裏には以前どこかで見たか聞いたかしたような文句が思い浮かんだ。


 何か奇策を、とも考えたが、こんな急場ではなかなか思いつかない。



 曹純はこの隙を見逃さなかった。


 拳打の力が弱まり、また繰り出す速度も落ちてきている。


 時折、何かしら考える素振りが見えるのも疲労によるもの、と感じ取った。


 曹純はしゃがんで体をかがめると、双手で信綱の膝を抱え込んだ。信綱は体勢を崩され、そのまま尻餅をつく。


 曹純はさらに信綱の顔面に頭突きをくらわせ、上体をのけぞらせると、信綱の上に跨った。


 こうなってしまうと、体格と力に劣ろうとも曹純が圧倒的優位である。


 曹純は今までのお返しとばかりに信綱の頭部を乱打した。


 信綱も致命的な打撃は腕で受け止め、逃げ出そうともがくが、さすがに信綱の怪力でもどうにもできなかった。


 だが優位なはずの曹純から呻き声がもれた。


 見ると曹純の背中に矢が一本突き刺さっている。


 曹純は矢の飛んできた方向とおぼしき場所を睨み見た。


 そこには弓を構え、二の矢を放とうとする昌輝がいた。


「おのれ……!!」


 曹純の怒りが頂点に達する。


 一対一の戦いを先日に引き続き二度まで邪魔されたのだ、怒り心頭となってもおかしくはない。


 そのうちに昌輝の弓が再び引き絞られた。わずかでも外せば兄に当たるかもしれないところを躊躇なく射ってくる。


 信綱もそれを咎めない所か、文句一つ、愚痴一つ零さない。


 曹純は激しい怒りの中にあっても、この兄弟の戦略の師の教えを感じとり戦慄した。


 そうこうしている間に、昌輝が弦をかき鳴らし矢を射た。


 矢は正確に曹純を狙って飛んできている。


 曹純はぎりぎりまで引き付け、せめて信綱に命中することを願いつつ、信綱を解き放ち、矢をかわした。


信綱は身動きが取れるようになるとすかさず身を転がし矢を避ける。

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