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第42話

「そうさせてもらおう」


 張遼の偃月刀が唸る。


 昌景が受け流し反撃する。


 そんな何度も繰り返してきた攻防を続けているうちに、供回り隊は昌景の兵を吸収し、先へと進んでいった。


「兄上、その部隊を止めてくれ!」


 張遼も目を離す隙もないくらいに攻め立てられ、昌景から視線を逸らさずに叫んだ。


「文遠の言っていた部隊とはあれのことだな。皆の者、あの部隊を逃すな!」


 張遼の言葉を受け取り、張汎が信玄隊の進軍を止めるべく攻撃を仕掛けた。


 だが、この信玄が率いる部隊は精強であった。


 総大将自身が率いているためか、士気も戦意も高揚し、たちどころに張汎の部隊を突き崩し、遂には突破してしまった。


 信玄隊は次に昌信の部隊へと迫る。


 信玄は部下を高坂信達の下へ向かわせ、信玄隊に合流するよう指示を与えた。


 当然信玄がこの場にいることに対しては堅く口を閉ざさせる。


 指示が伝わるなり信達は戦っている兵らに後退の合図を出し、自らは信玄隊に率先して合流した。


 信達らに異変を感じた秀満が昌信から距離を取り、自部隊の指揮に戻ろうと試みた。


「我に背を向けた時がおぬしの命の散る時と思え」


 昌信は秀満の一挙手一投足を逃さない。


 それでも秀満は、隙あらば部隊指揮に戻ろうとじりじりと下がっていく。


 だが昌信も同時に秀満ににじり寄り、距離は開いていかない。


 馬が地を一蹴りなりすれば昌信の攻撃が届く距離を保たれているため、秀満としても無造作に動くことはできない。


 そんな二人の脇を信玄隊が通り過ぎていく。秀満の兵たちは大将の指示がないため、信玄率いる部隊を遠巻きに囲みはするが、おろおろと狼狽するのみであった。


 秀満も指揮官不在の軍に戦えとは命じられない。頼りになる副将でもいれば任せることはあるかも知れないが、今現在そのような存在はいない。


 秀満の部隊は信玄隊が近づくと何ら抵抗するでもなく、ただ道を開けた。


 信玄はほぼ無傷で、信春と蘭丸が激突している場所へと到達した。


 信春も他の二人同様に蘭丸を釘付けにすべく動き、信玄隊を進ませた。


 信玄隊の正面では信忠の軍勢と許チョ隊が土屋昌次・馬場信春両隊の兵を挟んでいた。


 信玄は信忠隊攻撃を即刻信達に命じ、自身も信達らの後に続く。



 横からの新手の敵襲に信忠は軍を割り道三を送った。


「ほう。まさか甲斐の虎殿が直接出馬しておるとはのう」


 道三は戦の最中に信玄と遭遇した。目立たないよう一兵卒の格好をしているが、溢れ出る威圧感までは消せはしない。


「蝮殿か。おぬしほどの人物がなぜ織田なんぞに付き従う?たかが娘婿の関係でしかあるまい」


「儂が認めた人物に従っておるだけの話じゃよ」


「なるほどのう。ならば仕えた主が悪かったと後悔しながら死ぬがよい」


 信玄を守る側近中の側近が道三に飛びかかっていく。


「ふん。ぬしのように節操なさすぎるのもどうかと思うがのう」


 道三はぼそっとぼやきながら向かってくる兵を斬り伏せていった。

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