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第44話

 やがて田疇率いる鮮卑兵が続々と上陸し、攻撃を開始する。


 武田方は相変わらず何の命令もないため、陣を堅く閉じて迎撃するよりない。


 鮮卑隊はその間も上陸を続けており、田疇を始めとする指揮官らも陸地にて布陣を開始しだした。


 その頃になり、ようやく一条信龍が先駆けて戻ってきた。


「御屋形様より話は聞いておる。影武者の任、ご苦労であった。もうしばらく頼むぞ」


 信龍は息つく暇もなく一気に言い切ると、すぐさま戦場へと向かっていった。


 信龍の姿を認識した兵たちは懇願するような表情で信龍を見つめる。


「皆の者、長らく待たせた。これより反撃に移る」


 信龍の宣言に兵らは大歓声を上げ、武器をかき鳴らして気分を高めた。


「弓隊は矢尽きるまで射よ。騎兵は我に続け!」


 信龍は本陣北部に騎馬隊を集結させると、長刀を抜き、先頭を切って駆け出した。


「敵陣背後は川だ。押して押して押しまくれい。川に突き落とせい!」


 後続にそう告げると敵陣真っ只中に特攻していった。


 返り血を浴び歓喜する鬼神のような信龍の進撃は、兵を大いに高揚させた。


 曹操の盟約が利に持ってのみ成る鮮卑兵は、危地に陥ると簡単に崩れ、信龍の部隊に押しこまれた。


 なんとか立て直そうと田疇らが督戦する。その度、踏みとどまり反撃するのだが、またすぐに敗走を始める。


 鮮卑兵は川を背負うため、川沿いに南下し逃げていった。


 だがその逃走の流れが次第に緩くなり、やがて完全に止まったかとのように動かなくなった。


 それどころか逆流してくる者まででる始末である。


「敵援軍だ!」

「伏兵だ!」


 逆走の鮮卑兵たちが必死で叫ぶ。遂に内藤昌豊の部隊が援軍として戦場に到着したのであった。


 内藤隊は戦意を失った相手だろうが降伏を求めている者だろうが構わずに片っ端から斬り伏せていく。


 この前後からの容赦ない挟撃と横合いから飛んでくる弓矢の攻撃、またその攻撃から逃れるために川へ飛び込むなどにより鮮卑軍は壊滅した。


 部隊を率いる指揮官も大半以上が討ち取られ、奮闘していた田疇も力尽き捕縛された。


 残党狩りをする必要もないほどの惨敗を喫した鮮卑軍には、再度攻撃を仕掛けてくる余力はないと昌豊と信龍は判断し、本陣にて軍を再編成するべく集合する。。


 その時信玄の影武者もようやく大任から解放され、信龍により後の昇進が約束されることなり、元の任務に戻ることとなった。


「幸隆と儂はこのまま御屋形様の下へ向かおうかと思う。後任を託して良いか?」


「もちろん。御屋形様をお頼み申す」


 信龍はすぐにでも出立すると言う昌豊に深々と頭を下げ、信玄への助力を頼むと、そのまま本陣の守備についた。



「あの部隊は信玄が自ら率いているだと!?」


 あまりにも大胆不敵な信玄の行動に曹操は度胆を抜かれた。


 その曹操自身大胆な戦術や行動を取ることは比較的多いのだが、信玄にはそういった部分があることを感じなかった。


 曹操はすぐ後ろに控える虎豹騎に出陣の指示をし、また側近に甲冑を用意させ自らも出陣することを明示した。

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