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第27話 奇抜な作戦

「冗談はもういいから、そろそろ、本当に治してやってくれないか?」


それにリリスははいはい、と返事をする。


「貸し一つだなからなぁ~」


そして彼女はオルタシアの身体に手をかざし小さく口ずさむ。


すると淡い光が彼女の手から発せられて、オルタシアを右目へと集まっていく。


しばらくすると光は徐々に消えていき何もなかったかのように消えていった。


小刻みに呼吸していたオルタシアだったがその表情は穏やかになっていた。


ゆっくりと息をしている。


汗に濡れた髪が顔に張りついていて、それをシンゲンは優しく手でかき分けていく。


「キレイだ。とても……」


思わず、口に出てしまった。


本当に美しかった。人を大勢殺し、残虐非道の限りを尽くした女性とは思えないほどにだ。


しばらく見惚れてしまっていたが、リリスのジト目にシンゲンはハッと我に返る。


このままではリル、ミナに誤解される可能性もあったため、オルタシアを抱きかかえながら起き上がり、彼女の手を肩に回させて、小屋へと運び込むことにした。



♦♦♦♦♦


数刻の時が経った頃、リル、ミナたちは周辺へ偵察に出かけており、今はオルタシアとシンゲン、そしてシンゲンしか見えないリリスが小屋で休んでいた。


リリスは大あくびをしながら退屈そうに椅子に座り、足をぶらぶらさせながら持ち出した書物を読み漁っていた。


シンゲンが水汲みから戻ると、ちょうどオルタシアも起きたところだったようで、彼女は上半身を起こして、不思議そうに右目を触っていた。


「痛たくない、だと……」


そう小さくつぶやいた。


オルタシアの顔を見ただけでも大分良くなったことがわかったシンゲンは安堵する。


リリスの回復魔法はやはり効果は抜群だったようだ。


シンゲンは汲んで来た水を早速、オルタシアに呑ませるために木製のコップに入れて、渡す。


それを受け取ったオルタシアはこくりと頭を下げたあと、ゴクゴクと水を飲み始めた。


大量の汗をかいていたため、水分が欲しかったのだろう。


オルタシアは一気に飲み干すと満足したような顔をしたあと、口端からこぼれる水を手の甲で拭い取った。


「すまない。助かった」


その言葉を聞いたシンゲンは、笑顔を向ける。


「しかし、一体何がどうなっている。あれだけ苦しかったのに、今は痛みも熱もまったくない」

オルタシアは自分の身体を見ながら信じられないという顔を浮かべている。


前髪をかきあげ、額に手を当ててみるが、やはり自分の体温が正常に戻っていることに驚きを隠せないようであった。


「よかった。一安心したよ」

「それはあたしのおかげなんだけどね~」

リリスが頬杖をつきながら声を漏らす。シンゲンは苦笑いしたあと、オルタシアの方を向く。


彼女はおもむろに立ち上がろうとした。ベッドから足を下ろし、ゆっくりと立ち上がろうとした。


「治ったかもしれないけど、ずっと横になっていたんだからいきなり動くのはよくないと思うぞ」

そんなシンゲンの言葉にオルタシアは無視するように立ち上がる。そして、そのままふらつて、顔面から倒れそうになった。


それをシンゲンが慌てて支える。


腕の中でどこか悔しそうな表情を浮かべるオルタシアを見てシンゲンは大きなため息をつく。そのままベッドに腰を下ろさせた。


オルタシアは視線を落とし、小さくつぶやく。


「……足手まといか」


「ん? なにがだ?」


小さな声だったため、聞き取れなかったので、シンゲンが俯くオルタシアの顔を覗き込んできた。


「なんでもない」


 不機嫌な声音でシンゲンから顔をそむける。その仕草をみて、シンゲンは苦笑した。


そんな時、リルとミナたちが偵察から帰ってきた。


顔を布で、隠し、格好も農民のような服装になっていた。見た目、だいぶん怪しいが。


「オルタシア殿下、ただいま戻りました」

リルが恭しく頭を下げた。ミナも同じく頭を下げる。


視線を上げたリルがオルタシアの顔色が良くなっていることに気が付く。


「殿下? 顔色がよろしいようですけど……」

オルタシアは微笑みを浮かべる。


「もしかして、熱も?」


そういって、シンゲンに視線を向ける。それにシンゲンはこくりと頷いた。すると、リルはほっとした表情になった。


「奇跡的な回復です。本当によかったです」

心底安心しているようだ。


「私ももうダメかと思った。それについてはこの少年に感謝しなければな」


オルタシアの言葉にリル、ミナは改まったようにシンゲンに身体を向けて、頭を下げた。


急に礼を言われて、シンゲンは戸惑った。というより、自分が何かをしたわけではなく、リリスにお願いして、回復魔法を使ったまでだ。


感謝されるようなことをした覚えはない。


リリスは自分に感謝の言葉が向けられないことに少しだけ不貞腐れているように見えた。


リリスのことが見えていない3人にとっては命の恩人はシンゲンになっている。


シンゲンも俺ではなくて、そこにいる魔女のおかげだ、とは言えず、もどかしい思いをしながら頬を人差し指で掻いて誤魔化すように笑みを作った。


「それで、偵察の報告を」


オルタシアに促されて、リルたちはオルタシアへ身体を向けて、姿勢を正す。


「はっ。村を偵察してきました。酒場で得た情報ではフェレン聖騎士団はまだこの付近にはいないそうです」

「わたしは行商人や旅人に尋ねてみましたが、白狼騎士団の団長が戦死したこと、そしてオルタシア殿下が行方不明になっていることは知っているようですが、それ以外のことはよく知らない様子でした」


二人の報告を聞いて、オルタシアは少しだけ安堵する。


まだ本格的に動き出していない、という証拠だ。


「でも、怪しい集団がオルタシア殿下と白狼騎士団について聞きまわっているらしいという情報を得ました」


ミナの報告にオルタシアは眉根を寄せた。リルが答える。


「おそらく、ルナティタスの配下かと」


それにオルタシアは目を細めた。


「まずいわね。ここが、ばれるのも時間の問題だわ」

「急いで移動したいところだな」

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