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第33話 生まれながらの魔女

数日後のこと。


街に侵入したオルタシア一行はちゃんとした医者に彼女を診療してもらうことにした。


医者はオルタシアであることを知り、驚愕していたが、口封じに大量の金貨を渡すことで、なんとか、黙ってくれるそうだ。


痛み止め、それに熱を下げる薬を処方してもらい、高熱に悩まされていた彼女はようやく、体調が良くなっていった。


死ななかったのは正直、リリスのおかげなのだが、ここは医者の薬によって、よくなったことにしておいた。


オルタシアは持っていた風の力も徐々にだが、取り戻しつつあることを実感していた。


なぜなら、彼女の周りに小さな風がまとわりつき、髪を舞い上げたり頬をくすぐったりしているからだ。


まるで、小動物が主にじゃれて甘えているかのように。


シンゲンはオルタシアの部屋に冷たい水を持ってきたのだが、面妖な光景に思ってしまう。


(――――――もしかして………こいつも魔女なのか……?)


シンゲンに気がついたオルタシアは、彼の考えたことを察する。


「私が魔女とわかって驚いたか?」

「い、いや……。そういうわけではないがすこし気になることがあるんだ」


オルタシアにまとわりつく風を見て、言葉を続けた。


「その、この国の王族はみんな魔法をつかえるのかってな……?」

「いや、私だけだな。なぁ?」


 オルタシアは風に問いかえた。


それに応えるかのように、風の塊は波を打ち、音をたてる。


シンゲンは驚きと不思議な光景に見入る。


怖いとは思わなかった。


口を半開きにしているシンゲンの間抜けな顔を見た彼女は笑みを浮かべた。


「この力は生まれつきのものでな。最初は悪魔の申し子とも言われた。魔女と呼ばれても仕方がない」


オルタシアは髪をいじる。


仕草だけはどこにでもいる街娘なのだが、向けてくる眼光だけは違っていた。


蛇に睨まれているかのように思えてしまう。


目が細いというわけではない。


シンゲンは持ってきた水瓶から陶器のコップに水を入れ、オルタシアに渡す。


彼女はそれを会釈したあと受け取り、唇を塗らした。


飲み干したあと、コップを机に置き、近くにあった白い眼帯に視線を送る。


(――――――そろそろ、つけるかな。いつまでも包帯を巻いているわけにもいかんし)


「シンゲン」

「ん、なんだ?」


オルタシアはベッドの上を手の平で二度叩き、ここに座れと無言の合図をする。


シンゲンは首をかしげつつもそこに腰をおろした。


「悪いが、私に眼帯をつけてはくれないか?」

「自分でつければいいじゃないか」

「まぁそういうな。お前は私の使用人だろ? 身の周りの世話はしっかりしないとだめだ。でないと俸給は出さないぞ」

「俺はいつあんたの使用人になったんだよ」


オルタシアはシンゲンをからかいながら一笑いした。


白い眼帯を差し出す。


シンゲンはため息を吐いて、仕方ないな、とつぶやいた。


「ほら、後ろ向けよ」


オルタシアは後ろ髪をシンゲンに見せると、シンゲンは彼女の顔に両手を通し、まずは巻かれた包帯を優しく取った。


当て布に血がついていないことから、大分治ったと感じたシンゲンはホッとする。


それから白い眼帯をつけ、彼女の後ろ髪に紐を蝶のように結んだ。結び終わる。


 「どうだ、似合いそうか?」


楽しそう声音でオルタシアがシンゲンに振り向く。


それと同時にいたずらをしたのか微風が彼女の香りを漂わせシンゲンの鼻腔を刺激する。


王女だからなのか、それとも彼女がなにか香水をつけているのかわからないが、甘い香りがした。


今のはなんだ、と考えているとオルタシアがシンゲンの頬を軽く叩く。


「おい。いつまで私を見ている。私は感想を聞いているのだぞ? 早く答えろ」


オルタシアに目線を合わせる。


「あ、あぁ悪い。とても似合っている」

「本当か?」

「綺麗だ」


真顔でそう告げた。


思わぬ発言にオルタシアの顔が真っ赤になる。


「ば、馬鹿か。このオルタシアを口説くつもりか?」

「いや。そういうわけではないが」


相手が王女だからといってシンゲンは世辞を言ったわけではない。


本当に綺麗だと感じだ。


どこか儚く、今にも壊れてしまいそうな細い身体、そして服の隙間から見える白い肌。


どれも美しいという言葉以外に見当たらない。


てかズボンをはいていない。


目がスラッとした足先にいかないように気をつけながら、まいったな、と頭を掻いた。


そんな彼にオルタシアは人差し指で鼻先を弾く。


「いたっ!」


リアクションがある人と似ていることに気がついたオルタシアは驚きの声を漏らす。


「似ている」

「え、何が?」


再び、鼻を弾く。


「な、なんなんだよ」

「やっぱり似ている」


目を細め、まじまじとオルタシアがシンゲンの顔を見つめる。


そのせいなのか徐々に顔が近づいていき、唇と唇が触れそうなほどに迫って来た。


シンゲンは困った顔で身体を仰け反る。


(――――――こいつの顔、よくみると、マルトアに似ている……。いやそれとも私の好みがこんな顔なのかもしれない……)


「しかし浮気をするわけにはいかない……。あいつと誓った身だ……」


 ぶつぶつ一人言をいうオルタシア。


自分の世界に入っている。


どう声をかければいいのか、と悩んでいたとき、部屋のドアがノックされた。


はっと我に返ったオルタシアは、自分の体勢に気がつき、慌ててシンゲンを突き飛ばした。


それからベッドから飛び上がるとと乱れた服を整え、返事する。


「は、入れ!」

「――殿下、ヨークの偵察から―――って、シンゲン、なにしてんの?」


部屋に入ってきたリルは不思議そうな顔で足元に居るシンゲンに視線を落とす。


彼はベッドから転げ落ちて、床に仰向けになっていた。


最悪なことに、リルは変装のために街娘の姿になっていた。


つまり、今日はフリルがついたスカートを着ているのだ。


金色短髪の彼女がその服装はどうなんだ、とツッコミを入れたいところだが、見てはいけないものをみてしまったシンゲンは急いで目を瞑って、両手で塞ぐ。


しかし、衝撃のあまり、目にしっかりと焼きついていた。


(―――――――まさかの赤いパンツ……)


リルは頬を赤らめるオルタシアと転がっているシンゲンを交互に見たあとはぁ、と察したような声を出し予測した。


「さては、オルタシア殿下に手を出そうとしたな?」

「そんなわけないだろ!」

「大胆だな~前から思っていたけど」

「いやいやいや。てかいいから、早くそこから退けてくれ」


そうか?、と見られたことに気がついていないのか、軽い声音でシンゲンを跨いで、オルタシアに歩み寄ると騎士の敬礼をした。


オルタシアがそれに軽く返礼する。

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