「爆発筒か……懐かしいな」
朝を知らせる小鳥のさえずりを聞きながら、ボクはセツおばあちゃんと一緒に書いた設計図の束を眺めた。
いま、ボクはアイテム作成のための工房としてカナから一部屋借りている。ボクは昨日の出来事で眠れそうもなかったので、この工房にずっと籠り、過去に作った設計図を参考にしながら今後のアイテム生成計画を立てていた。
「セツおばあちゃん元気にしてるかな」
ボクは休憩がてら机に突っ伏し、セツおばあちゃんとの思い出に耽った。
――これは、ボクが15歳の頃くらいの記憶。
「凄いねセツおばあちゃん! この爆発筒、完成したら凄いことになりそう!」
「そうねぇ。強力なスキルを持っていない人でも、このアイテムを投げるだけで強いモンスターを倒してしまうかもしれないね」
アイテム屋の工房の中で、ボクはセツおばあちゃんと二人で爆発筒という完成したら世界を変えてしまうかもしれないほどの代物について話し合っている。
「水と混ざると強い発火現象を起こすB級低レア素材のヘヴィメタルを使うんだよね? でも、油も燃えたら火が出るけど、なんで威力が変わるのかな?」
「それは、たぶん『燃える』という現象が起こるスピードが速いからだと思うわ」
「現象が起こるスピードか……両者を比べた時、水にヘヴィメタルを入れた方は燃えるだけじゃなく、『ドオオオオン!』ってなったよね。ボク達はそれを『爆発』と呼んだけど、魔法でもこういう強い現象は起こるの?」
「そうねえ……聞いたことないわねえ」
「それなら、魔法に打ち勝てるくらい凄いアイテムになるね!」
『魔法』という技術は、スキルによって冒険者に与えられる力。【スキル授与の儀】で与えられるスキルは剣術を底上げしたり、肉体強化をするようなスキルもあれば、火を発生させたり電撃を放ったりと、超常現象を起こすスキルもある。ボク達は、この超常現象のことを『魔法』と呼んでいる。
「そうだ! ねえねえ、セツおばあちゃん。休憩がてら、いつものダンジョンでの冒険譚聞かせて!」
「うんうん、いいわよぉ」
セツおばあちゃんは、いつものようにボクにダンジョンでの冒険の話を聞かせてくれた。
強いモンスターと戦ったり、自作アイテムでパーティメンバーの手助けをしたり、ダンジョンのトラップに引っかかって大変な思いをしたことなど。
その話一つ一つがボクの心をワクワクさせてくれた。
「ダンジョンでの冒険の日々は大変だったけれど、楽しいことや幸せなことも沢山あったのよ」
「ねえねえ、セツおばあちゃん! ずっと気になってたんだけどさ、よくお話してくれる『相棒』の女の子のことなんだけどさ……」
ボクは、セツおばあちゃんがよく名前を出していた、セツおばあちゃんと相棒の話が大好きだった。何か聞いていてとても胸がキュンとときめくものだった。
「セツおばあちゃんは、その相棒のこと好きだったの?」
ボクの問いに対し、セツおばあちゃんは答えてくれた。
「それはね――」
「ポルカ。朝食ができましたわ」
コンコンと工房の扉をノックする音と共に、カナの声が聞こえてきた。
「うん。今行くよ」
ボクは返事をして、持っていた爆発筒の設計図を机の上に置き、立ち上がった。そして扉を開けると、カナの『完璧な』笑顔がそこにあった。
「おはようございます」
「うん……おはよう」
ボクはカナの美しい顔を見つめながら、自分の内部を確かめた。
カナを見ている時の心の動き、そして魔力の流れを。
――そのどちらも、時が止まったかのように静止している。
一晩経てば解決するだろう、と半ばヤケになって放置した問題が何も解消されていないことを確認したボクは、深くため息をついた。