下に降りると、水麗は手のひらに、電球のような丸いものを乗せていた。……いや、電球というよりも光の玉といった方がいいのかもしれない。
水麗の話では重さはまったくなく、本当に空気が丸く光っているという印象らしい。
「なんかね、河童をガシ―って捕まえた瞬間、ピカーって光って、気づいたら手の平にこれが乗ってたの」
「恐ろしく要領を得ない説明ね」
水麗はいつもこんな感じなので僕たちも慣れている。
通常通りに聞き流そうとしたが、水麗は真剣な眼差しで持っている目の前の光の玉の存在感は無視できるものではない。
「なんなのかしら、これ」
「さあ……。見たところ、危険そうなものじゃないけど……。明日、先生とかに見せてみようぜ」
「あっ! 達っちん、写真! わたしの首にかかってるので撮って!」
「そうだった!」
なんだか分からないが、取りあえず不思議なものは目の前に実際にある。
これで新聞の記事としては、なんとか体裁を整えることができそうだ。
僕はさっそく、水麗の首にかかっているカメラの紐を取って、光の玉に向かって構える。
だが……。
突如、光の玉は空に舞い上がったかと思うと、校舎の裏側の方へ飛んでいってしまう。
「あーあー」
悲しそうに光が飛んで行った方向をジッと見つめる水麗。
「なんか、どっと疲れたわね」
布姫がふう、とため息をつく。
それは僕も同じだった。
「わたしも……」
珍しく水麗も肩を落とす。
「記事に掛けそうなことはたくさんあったのに、収穫はゼロよね」
「うーん。絵日記にくらいにしか使えそうにないねー」
「いや、絵日記でもダメだろ。嘘臭すぎる」
「それで? どうするの? まだ、取材する?」
「……やめとく」
記事になりそうな取材結果を得ていないが、さすがにこれ以上動き回る気が起きない。
「なんとか、創作を交えて書いてみるよ。お前らは、帰ってもいいぜ」
「佐藤くんは? 帰って書くのかしら?」
「いや、家だと、絶対に怠ける。元々泊まる気だったし、学校で書くよ」
「それなら、しょうがないわね。私も付き合ってあげるわ」
「わたしもー」
布姫は若干眠そうに目をこすり、水麗はにこにこと笑みを浮かべている。
「無理しなくていいんだぞ?」
「あのねぇ、親には友達の家に泊まるって言っちゃったのよ。ここで帰ったら怪しまれるわ」
「そうそう。そうだよ」
「そっか……」
帰ってもいいと言ったが、正直、残ってくれると言ってくれたのは嬉しかった。
「ありがとな」
「……別に佐藤くんのためじゃないわよ」
「わたしは、佐藤くんのためだよー」
水麗が僕の腕に絡み付くようにして、抱き付いてくる。
それを見て、布姫も逆の腕にしがみついてきた。
「校内に戻るんでしょ? 怖いだろうから、エスコートしてあげるわ」
グイグイと布姫が引っ張ってくる。
なんだろ? こいつらの行動がよく分からなくなってきた。
真夜中の学校。空には薄い雲がかかった月が、幻想的に光っている。
そんな中、僕は両サイドを女の子に捕まれ、連行されているかのような格好で、新聞部の部室へと戻って行ったのだった。