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第10話 次の七不思議

 いつもの放課後。

 部室では布姫と水麗がポーカーをやっていて、プロさながらの心理戦を繰り広げていた。

「勝った方は佐藤くんを一時間、奴隷に出来る。それでどうかしら?」

「受けてたった! 先に相手のコインを全てゲットした方が勝ちだね!」

 なぜか、僕の知らないところで、僕の人生の中の貴重な時間と自由が賭けられている。

「五枚レイズ!」

「あら、いいのかしら? 私にハッタリは通用しないわよ。コール」

 ピンと背筋が寒くなるような空気が部室内に漂う。

 僕は耐え切れなくなり、部室内にある小さな窓から、ふと、外を見る。

 雨。

 七月を目前に梅雨真っ盛りの時期なのだが、今年は例年にも増して異常な降水量らしい。

 さすがに洪水になるほどではないが、こうも毎日毎日雨だと気が滅入ってくる。

 こんな日はあまり書く気が起きない。……起きないが、書かないと布姫の居残り強化メニューという名の拷問が待っている。

 仕方なく、目の前にある原稿用紙に向かい合うことにした。

 なぜ、わざわざ紙に書くかというと、パソコンがないというわけではなく、原稿用紙に筆ペンで書くことで何か文豪になった気分になるからという単純な理由である。

 ……結局、新聞にするときはパソコンに入力するんだけど。

「ぬぬぬぬ! こうなったら、達っちんの三日分の寿命を生贄にホーリードラゴンを召喚! ターンエンド!」

 いつの間にか、勝負の種目が変わっている上に、僕の人生そのものが賭けられている。

 二週間前の河童事件から、新聞部は何となく始動を開始した。

 毎日……とまではいかなくても、三日に一回は必ず記事を掲載している。

 生徒からもそこそこ好評を得ているというのも、書くモチベーションを上げている要因だ。

 最初は一ページ書くのも数時間かかっていたが、今では一時間くらいでかけるようになった。

 こうして、書いていると楽しかったりする。もっと早くやっていればなぁ、なんて思ってしまう反面、布姫や水麗と遊ぶ時間が少なくなったことが寂しい。

 一緒の空間にいながらも、遊びに混じれないのは、なんとも複雑な心境だ。

「佐藤くん、今日の合宿の件なのだけれど」

「ん? ああ、そっか、今日金曜だもんな」

 河童の件以来、金曜は学校に泊まり込んで(先生には内緒で忍び込んでいるだけ)学校の七不思議を調べるというのが習慣になっていた。

 まあ、まだ三回くらいしか泊まってないけど。

「階段が増えるという七不思議を調べてみない?」

「階段が増える……か。それも結構、七不思議としてはありがちだよな」

 チラリと視線を移すと、水麗が机に突っ伏している。どうやら、布姫が勝ったみたいだ。

 ……一体、僕はどのくらいの時間を布姫に支払われることになっているのだろうか。

「でも、最近らしいわよ。その七不思議が出来たの」

「……七不思議って増えていくもんなのか? そうだとしたら『七』じゃなくなりそうだけどな」

「きっと、スタメンをかけて、熾烈な争いがあるのよ。一軍に残るためには相当な努力が必要よ」

「……七不思議がどうやって努力するんだよ」

「冗談よ。でも、七不思議なんて七つ以上あるのが、普通でしょ」

「まあ、そうかもな。それより、どこの階段が増えるかも調べてあるのか? 学校の階段って言っても、すごい数があると思うぜ?」

「……」

 あ、黙っちゃった。

噂を聞いたから、じゃあ、今回のお題はそれでいいんじゃない的な考えだったようだ。

 布姫ってこういう抜けているところがある。それがまた、ちょっと可愛らしい部分だったりする……。

「痛たたた!」

 いきなり布姫に顔面を掴まれ、力を込められる。

「一つ一つ調べればいいだけじゃないかしら? それが取材の醍醐味だと思うのよ」

「そうです! そうです! その通りです!」

「分かればいいわ」

 パッと手を放し、にこりと微笑む布姫。

 前言撤回。全然可愛くない。

「じゃあ、また、いつも通りに八時に校門前集合でいいの?」

 いつの間にか復活した水麗がカメラを構えて、目をキラキラと輝かせている。

 学校には無許可だから、僕たちは一度帰ったと見せかけ、準備をしてから再度集まるという方法をとることにした。

 用務員のお姉さんは六時半に一回、校内を見回った後はずっと部屋で酒盛りしているというのも調査済みなのである。

 学校に泊まるにしても、夕食やシャワーを済ませて、着替えてから来るというのが三人の中で共通のルールとなった。

 三人で一緒に飯を食うというのも楽しそうだが、ゴミや臭いなどが出る上に満足感でグダグダになってしまうからだ。

 毎回買うっていうのも金銭的にキツイし、弁当を作ってもらうのも気が引ける。

 ということで自然とそういうことになったのだ。

 そして、六時を知らせるチャイムが鳴った。

「じゃあ、そろそろ帰ろうかしら。またね」

「わたしも帰るー。じゃあ、達っちん、またねー」

「ああ。気をつけてな」

 布姫と水麗が並んで部屋を出ていく。

 二人は学校から家まで、大体二十分くらいかかる。往復を考えるとそんなに時間はない。

 僕はというと、家から五分というのもあるし、飯を食うのが早いというのもあるので、もう少し書いていくことにしたのだった。

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