『それはね、ミヤちゃんにお願いしたい事があるからだよ』
ハルちゃんはにっこりと私に笑いかけた。
「神様であるハルちゃんが、私に頼み事?」
小学生の頃から仲良くしていたとはいえ、ハルちゃんは神様、私は一般人。私に何を手伝って欲しいのだろう。
『あのね、世界の崩壊を止めて欲しいんだ!』
「世界の崩壊?!」
それは先程ハルちゃんが愚……いや、話していたような事を私がする、という事だろうか。
「私……どこにでもいる一般人よ? そんな私が崩壊を止める事ができるかしら?」
どこにでもいる……少しだけ魔法少女アニメが好きな婆なのだが。
『うん。そこは私が手伝うから大丈夫だよ! 簡単に言うと、地球じゃない……異世界に住んでいる女の子がいるんだけど、その子に転生して世界を救ってほしいんだ。その世界は剣と魔法が使える国……一番近いイメージは、
「もしかしてその異世界とやらも、一人の女の子が祈りで世界を支えてるの?」
あの話は……涙無しでは見られない。あの物語と似たような道を辿っているのだろうか、そう考えていた私だったが、ハルちゃんはそれを否定した。
『ううん。そうじゃないから安心してほしいな。魔法戦士の世界の主人公たちは剣と魔法で戦っていたでしょ? ミヤちゃんがこれから行く世界も剣と魔法を使うよって事』
「確かに主人公たちは火と水と風属性の魔法を、武器は剣を使っていたわね……もしかして……私も魔法が使える、とか?」
『うん、そういう事だね!』
なんと面白そうな世界だろうか。どんな魔法が使えるのだろうか? 俄然楽しみになってきた!
「もしかして、ロボットみたいなやつは、出てくるの?!」
『残念だけど、アレは出てこないかなぁ』
「そう、それは残念ね……」
まあ、あんな大きい機械を動かすのは、私には無理だろうし良かったのかもしれないわね。
……正直、自分が亡くなった事実は悲しいけれど、それに囚われてばかりでは前に進めない。折角第二の生……ハルちゃんが言うには、異世界転生? とやらができるのであれば、楽しく生きていきたいなと思う。
そんな前向きな考えでいる事を見抜いたのか、ハルちゃんは話を続ける。
『今からミヤちゃんが転生する世界は、魔物が闊歩する世界なの』
「魔物?」
『そう。分かりやすく言えば「二人はキラキュン」のオマエフザケルナー、みたいなイメージって言ったら分かるかなぁ?』
確か……キラキュンの「オマエフザケルナー」は、何かに乗り移って主人公達に襲いかかってくる化け物。娘と見ていた時は最初「名前がふざけているわよね」なんて思っていたけど。
「分かるわ。確か敵の幹部が生み出した化け物ね!」
『そうそう! 魔物のイメージはそんな感じなんだ……って、ミヤちゃん、意外と魔法少女アニメ見てるし、覚えてるね……?』
「娘や孫とよく見ていたから、結構覚えているわよ」
むしろ私の方がハマっていたかもしれないわね。ある美少女戦士たちのモチーフの化粧品が売り出された時は、全部購入した事もあるし。
「今から行く世界も、悪役の幹部が魔物を生み出しているの?」
『ううん。あの世界は違うよ。魔物が現れる原因は、厄災を閉じ込めた箱、って言うのがあってね。それの影響なんだ!』
ハルちゃん曰く、厄災を閉じ込めた箱、とやらは世界のある場所に封印されているらしい。ただ数百年以上も封印されていると、厄災が少しずつ箱から漏れ出してしまうのだ。その厄災を動物が取り込む事で凶暴化し、魔物を生み出していると言う。
『再度その封印を施すのが、私に指名された勇者達なんだよねぇ』
なんと、勇者を指名しているのはハルちゃんだったとは。まあ、そうよね……ハルちゃんは神様だし、この世界の管理者だもの。それよりも、指名された人が大変じゃない。頑張ってほしいわね。
「あらまぁ、勇者も大変ねぇ」
他人事のように言っていた私に苦笑いのミヤちゃん。
『いやいや、それをミヤちゃんにお願いしたいんだ』
「あら、そうなの? つまり私が勇者としてその厄災の箱を封印すれば良いのかしら?」
『そうそう! それで合ってるよ! ちなみにミヤちゃんは賢者……魔法使いの事だよ〜。私の神託で勇者と賢者と「聖職者」の三人を指名する予定なの』
そう言えばさっきハルちゃんは『勇者達』と言っていたわ。つまり私はその指名された勇者さん、聖職者さんと共に頑張れば良いということか。『そゆことー!』と話すハルちゃんは微笑んでいる。
『ちなみにミヤちゃんは、クリスティナちゃんに転生するよ! クリスティナ・レーフクヴィスト侯爵令嬢っていう可愛い子』
長い横文字に思わず無表情になる私。
「クリスティナ・レーグフト侯爵令嬢?」
『ミヤちゃん。クリスティナ・レーフクヴィスト侯爵令嬢だよ!』
「クリスティナ・レーフクスト侯爵令嬢かしら? うーん、名前は覚えられたけど、ほんっとに横文字は……」
仕方ないじゃない……最近記憶力が衰えている気がするのだから。覚えようと何度も苗字を繰り返し呟くが、それがことごとく外れてしまい苦戦している私を見て、目の前でハルちゃんが微笑んでいた。
それはハルちゃんが私の目の前でお願いのポーズを取るまで続き、頭を下げた。
『……ミヤちゃん、お願い! 転生して、私を手伝ってくれない?』
「ええ、もちろん良いわ!」
困っているハルちゃんを助けられるなら! と思い私は二つ返事で引き受ける。最初は私の返事に驚いて目を見張っていたハルちゃんだったけれど、最後には私に満面の笑みを向けてくれた。