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第4話 おばあちゃん転生

 ふと目を開けると、これまた見覚えのない天井が目に入る。


『あ、ミヤちゃん。起きた〜?』

「ええ、起きましたよぉ〜……ハルちゃん」


 どうやら私はベッドに寝ているらしい。体を持ち上げて、周囲を見回した。


 どこかの一室なのだろう。クリーム色の壁と天井は、建物が古いのか所々にシミのようなものがついている。

 家具は木製の鏡、ドレッサー、そして今私が寝ているベッドだけ。その調度品全てに飾りなどなく、しかも古ぼけている。ヴィンテージ物、と言えば聞こえは良いが……それにしては飾りっけもないし汚れているような……。

 一番気になったのは、物が無い事だ。


 収納はドレッサーのみ。それを開けてみると、服が一着しかかかっていなかった。そして下には大切そうに置かれている本が一冊。その上にペンが一本丁寧に置かれていた。ドレッサーを閉めて私がベッドに座ると、ハルちゃんの声が聞こえる。


『ミヤちゃん、大丈夫?』

「ええ。大丈夫よ〜」


 にっこりと微笑むと、目の前にいないはずのハルちゃんがなんとなく笑ったような気がした。改めてハルちゃんと話せている事に感動していた私だったが……実はそれよりも、気になる事がいくつかあるのよね。


「そう言えばハルちゃん、私はクリスティナちゃん……クリスちゃんに転生したのよね?」

『そうだよー』

「なんでハルちゃんの声が聞こえるの?」

『ミヤちゃんは私の眷属って形で転生してるからだよ〜。神の使者は神様と言葉が交わせるみたいな?』

「なんとなく分かったような……?」


 まあ、ハルちゃんと言葉が交わせるのなら寂しくないわね。


「なら、ハルちゃん。私……ハルちゃんの事は『神様』って呼んだ方がいいのかしら?」

『えー、私とミヤちゃんの仲じゃん? 特別に「ハルちゃん」って呼んで!』

「……神様がそんな軽くて良いのかしら……?」

『いーんだもーん!』

「まあ、本人がいいと言うなら良いのかしら……なら、変わらずハルちゃん、と呼ぶね」


 そう呟いた後、私は視線を鏡へと送る。自分の容姿を確認しておきたかったからだ。


 鏡の前に立つ。するとそこに映っていたのは、まるでフランス人形のような姿をした女の子。なるほど、この子の中に私が入ったのか、と理解した。顔は小さく、桜色の唇。そして髪色は茶色に金色が混じった……いわゆるダークブロンドという髪色。

 自分でも見惚れるくらい……いや、完全に見惚れてしまった可愛らしい顔立ちに、私は思わず呟く。


「可愛いわねぇ……」

『やっぱりぃ〜? ミヤちゃん、好きだと思った!』


 髪をひとつにまとめてポニーテールをしたら、昔娘がテレビで見ていた「美少女戦士サンシャイン」の登場人物の一人に似ている気がする。


『ああ、緑の女の子?』

「そう。姿は格好良いけど、心は乙女のね」


 一度髪の毛を縛ってみてもいいかもしれない、なんて思っていた私だったけれど、はたと思う。


「ねえ、ハルちゃん」

『なあに? ミヤちゃん』

「クリスちゃんの事なんだけど……思った以上に体が軽い気がするの。それに、十六歳の女の子にしては、部屋が簡素だし……ハルちゃんの話によれば、クリスちゃんは侯爵令嬢でしょう? お貴族様なのにこんな細いなんて……」


 と言うよりも、この子は贅肉がない。骨と皮だけ、と表現しても過言ではない。それを訊ねると、ハルちゃんは無言になった。何となくだけれど、困惑しているような……戸惑っているような気がする。


『クリスティナちゃんはねぇ、魔力量が少ないと虐げられていたんだよ……』

「虐げられていた?」


 声のトーンが落ちて告げられたハルちゃんの言葉を聞いて、私は眉間に皺を寄せた。穏やかではないな、と思う。


「その、魔力? が少ないと何で虐げられるの?」

『……詳しく話すとね』


 ハルちゃん曰く、魔法を使うには魔力、と言うものが必要らしい。体に貯められる魔力の量によって、強い魔法が使えたり、一度に何度も魔法が使えるのだとか。

 何となく魔力というモノが分かったところで、ハルちゃんの話は続く。


『この世界の王侯貴族たちはねぇ。魔力量で序列が決まるんだよ〜。なんでかって言うと、王侯貴族達が魔法で魔物を倒すからね!』

「そう言えば、歴史でもそんな話があったわねぇ」


 日本だって、武士の起源のひとつは自分の領地を守るために力をつけて武装した者たちという説がある。そんな武士が、政治に台頭してきたのが鎌倉時代だ。それと似たようなモノだろう。

 この国の王侯貴族は魔法を使用して民を守護する。守ってもらう対価として、王侯貴族へと従う……という事か。まあ、形骸化している可能性も否めないけれど。


 そこまで考えて、はたと気がつく。


「でも、ハルちゃん、待って? クリスちゃんは魔法使い……賢者なのでしょう? 何故魔力量が少なかったの?」

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