11月の晩秋の、もうすっかり風が冷たいその日。日没時間が早い太陽が西の地面の向こうに落ちてからゆうに数時間は経つ夜の吉祥寺の街は、駅前の喧騒がゆるやかに薄れていく時間帯へと移行していた。
その駅前の喧騒と夜空を照らす電気の灯りをを遠くにし、吉祥寺の駅からやや南にある木々の生い茂る暗がり――街灯の灯りが点在するだけの、薄暗い闇の支配する静かな公園に、ふらふらとした足取りで秋らしい白いブラウスにチェックのスカート、そしてカーディガンという私服コーデをした美少女が――いや、美少女の姿をした少年である
カラオケ店を飛び出してから、
しかし、空手の練習や大会が終われば、またいつものように朝は一緒に登校して、一緒に会話ができる大諦とは違って、レイとはもう二度と会えないことになってしまったという事実に、
そのような、偶然出会って自分に親切にしてくれて、せっかく仲の良い友達になりたいと言ってくれたレイと、むざむざ関係を終わらせることになってしまった絶望と後悔の念と共に、美少女らしい秋服コーデに身を包んだ
つい昨日に姉と一緒に買った、体が貧弱で背が低く四肢も細い
歩きながら、
――レイくん、あんなメッセージ送られてきていきなり
――
「……
――あれだけ優しくしてくれて、ただ変装で美少女に上手く化けていただけの自分のことを、まるで本物の可憐な女の子ように大切に扱ってくれて。
――気を使ってくれて、映画に誘ってくれて、ご飯もカラオケも奢ってくれて……。
それなのに、自分は騙していた。正体がバレて嫌われるのが怖くて、自分が本当は男であることを隠して、まるで“本物”の女の子であるかのように振る舞っていた。
「……レイくん、怒っているよね。きっと、もう会ってくれないよね……」
吉祥寺の公園のすぐ近くにある、落下防止用に池の周囲に取り付けられた柵の近く。その人気のない夜の公園には静寂と虫の声、そしてたまに遠くから聞こえてくる電車の音しかなかった。
その、暗がりの中で
「いや……でも、レイくんも最初は男の子のふりをしていたんだし、お互い様なんじゃ……?」
暗闇の広がる夜の公園で、誰にも聞かれてないにも関わらずそう口に出してしまったことに、
――いや違う! レイくんはお姉ちゃんの大学の学園祭で
――せっかく、新しい友達ができたと思っていたのに……せっかく、仲良くしてくれそうな素敵な人が好意をかけてくれたのに……。
――
そんなことを考え、また再びとぼとぼとその長いロングの黒髪を憂鬱に垂らしながら歩き出そうとすると、グレーのスニーカーを履いている足元から乾いた音がした。
パチン。
紐の切れる音であった。
「あっ……」
昨日、姉と一緒に買った秋物の少女向けコーデに会うような、ユニセクシャルな可愛らしいグレーのスニーカー。その片方、左足の靴の紐が切れ、外側に垂れている。
歩こうとしても、上手く歩けない。踏ん張ろうにも、バランスが崩れる。
「本当についてないや……なんでこんなときに……」
そして、自分で歩けるようになんとか靴紐を結べないかと女子もののチェックのスカートをまくって、まるで本当の少女であるかのような白く細い綺麗な生足を晒し、立てた左の膝向こう側にその手を伸ばす。
その際に、
――もしかして、レイくんを三回も騙したからバチが当たったのかな。
そんな、罪悪感と自己嫌悪に入り混じった感情でその美少女らしい大きな瞳に涙が滲み始めた瞬間、後ろから中年らしき男二人の野太い声がかけられてきた。
「ねえねえお嬢ちゃん、こんなところでなにしてるのかな?」
「こんな時間に悪い子だねー、家出かな? おじさんが補導してホテルで保護しちゃおっかなー」
背後からは、見た目からして酒に酔っているのが明白な、いかにも40代か50代のおじさんらしく腹の出ているだらしない体つきをした、毛髪の薄い中年の男が二人。街灯の灯がかすかに照らす暗がりでもわかるくらいの赤ら顔のまま、ふらふらとした足取りで、にやつきながら近づいてくる。
日曜日の夜の店でしこたま摂取したのであろう、血管を介して脳に回ったアルコールによって理性が飛び、モラルのない発情期の獣同然の欲望を発露した酔漢二人の目的は、このような人気のない公園の暗がりで無防備にも肌を晒してしまっている、美少女にしか見えない
それはまさに、中学生である