いかにも女の子を粗末に扱いそうな、ベロンベロンに酔って赤ら顔になった、体がでっぷりと太った毛髪の薄い中年男性が二人。その足取りがふらついた男らが、群れからはぐれた獲物としての動物のような可憐な美少女を発見し、我が物にしようと見定めつつ近寄ってきている、という危機的な状況に
「ひっ……!」
涙目で、まさに少女であるとしか思えないような変声期前のソプラノ調な高い声を上げる
「なになにー? そんな可愛い声なんか出しちゃって? 怯えなくていいよー?」
「そうそう、おじさんたちはねー、こんな暗がりで寂しそうにしてる女の子のこと気にかけているだけなんだよー?」
先ほど
酔漢二人のその視線は、本当は少年である
――早く逃げなきゃ……!
バタリ
しかし、左足の靴紐が切れている今、瞬時に逃げ出すことなどできるはずもなく、つんのめってその場にうつ伏せの格好で倒れてしまった。
それに、スカートを穿いた女の子の格好のままで走るには、あまりにも足運びが慣れていない。地面に伏した
「ちょっと、やめてください……! 近寄らないで……!」
まだ声変わりをしてないのでまるで本物の少女のように高い、小鳥が怯えるかのような震える声で叫んでも、男たちはその場を離れるどころか、逆に嬉しそうに笑いながら近づいてくる。
――お願い! 神様! 助けてください!
ほんの一週間前にゲームセンターでのレイのとデートでそう思ったように、
赤ら顔の酔漢二人は、目の前で逃げ出そうとしてその場に倒れた美少女に、邪な考えの男性が若い女の子に対してよからぬことをするチャンスが生まれたと考えたことが明白なまでに分かる様子で、更ににやつきながら近づく。
「おじさんたちねー、ちょっと心配しているだけなんだよー? そんな警戒しなくてもいいんだよ?」
片方の酔漢がにやにやと笑いながら近づいてくる。もう一人も、フラつく足取りのまま、
「だめっ……来ないでください……っ」
地面に伏した
――だめだ……このままじゃ……このおじさん二人に乱暴される……!
――
――むしろ、そっちの方が好きな人だっていう可能性もある……!
酔漢二人によりこれから自分の身に降りかかる、ファーストキスもまだの男子中学生にとっては確実に一生忘れられないトラウマになるような災厄的な経験について、
タッタッタッタッタ
ドカッ!
この場に速足で駆けつけ、まるでヒーローか神様の使いのように颯爽と現れた長身の美少年のような様相のレイが、スリムな少女にしてはあまりにも強い力で酔漢一人を押し倒し、その場に横倒しに転ばしてしまった。
――え!? レイくん!?
――なんで
「ぐぁぁぁ」
体をふらつかせてべろんべろんに酔っぱらっていた、でっぷりと腹が出て太った中年男一人の、地面に倒れたその口から空気の抜けたような声が漏れる。
「ああぁー? なんだこのガキ?」
飲み仲間が地面に倒れたのを見て、もうひとりの同じくアルコールが脳に回って足元がふらついている男が血気盛んに、少年のようにしか見えないレイに襲い掛かろうとする。
しかし、いくら先天的に筋肉量が多く力の強い男性といえども、しこたま呑んだアルコールで酔っぱらって千鳥足でしか歩けない不摂生な太った中年の動きを、十代半ばの現役の女子高生で、高校では部活動としてのバスケットボールの厳しい練習を放課後には毎日のようにしているスポーツ少女なレイが躱せないはずがなかった。
レイはその身を軽やかに翻して、酔っぱらった太った中年男の襲撃を受け流して華麗にいなし、つい一週間前にダンスゲームで高得点をたたき出したその身体能力で舞うようにしゃがみこんで、その男のふらつき加減の両足に足払いをかけて転ばせる。
黒髪ロングの美少女姿の
「
「あ……はい、
本当は男の子であるにもかかわらず、先ほどまで男二人に犯されそうになっていたという恐怖で涙を目に浮かばせていた
「話はあと、今はここから逃げるよ。しばらくの間は力を抜いてボクに身を任せておいて」
レイはそう
そして、レイは
夜の灯りが微かに点在する暗がりの広がる空間には、可憐な美少女に不埒な事をしようとした酔っぱらった二人の中年男性の、寝ころんだまま発する言葉にならないクダを巻いたような呻き声が小さく響き、遠くから響く虫の声、街の雑踏の微かな音、そしてどこからともなく聞こえてくる電車の走行音に紛れ、夜の街の中にある公園の闇へとかき消えて行ってしまった。