「で、あの背の高いイケメンの男の子のようにしか見えなかったレイくんって子が、実は
平日の大学の講義が終わってから自宅に戻り、母親の作ってくれた夕食を取ってからリビングのソファーに座っていた姉は、それぞれ葉をつけたオリーブ枝とオーク枝が交差しているような柄が入った、愛用のコーヒーカップを手に持ちつつそんなことを言う。
ダイニングキッチンへと繋がっている、この壁際に小さなオルガンが置いてある
中学生のような小さな体ではあるものの正真正銘の名門私立大学の女子大生であり、利発な成人女性の姉である
半ば信じられないような表情を見せてはいるものの、相変わらず理性的なトーンを崩さない。その予想外な事が起こっても動じない理知的な様子に、やっぱり、お姉ちゃんはどんな信じられないような事が起こっても冷静に対処できるんだな、と
だいたいのことのあらましを示した――とはいっても、夜の公園で
そして、
「ってことは、そのレイくんっていう男の子のように見える女の子……レイちゃんと、女装して女の子のようにしか見えなかったまーちゃんが、改めて友達同士として付き合うようになって――まーちゃんはどう、なの?」
そんな尋ねかけを聞いて、先ほどまで下を向いていた弟の
「……どう、って何が?」
「男の子と女の子の異性同士の友達として付き合うの? それとも、会ってすぐのように、お互いに同性であるかのように相手に接するの? その辺りのまーちゃんの指針を教えてくれない?」
「えーっと……あんまり、そういうのは意識してないかな。
「駄目よ」
「な、なんで?」
「だってさ、お互いに同性同士の友達だったら例えばコミュニケーションのひとつとして相手の体を触るようなスキンシップとか、相手の性別特有のデリケートな部分に関わるような会話とか、流石にゼロじゃないけどそんなに気にしなくてもいい訳じゃない」
あとから考えれば、あれは女の子が女の子に対してする行動だったのだから、なにも後ろめたい様子は見せず自然な流れで肩に触れてきたのは、ある意味当然といえば当然の態度だったということを、
「でも今後は、最初にお互いがそう思ってた”同性同士の友達”じゃなくって“異性としての友達”になるんでしょ? だったら、節度とか距離感とか、ちゃんと異性であるっての弁えた上で意識しなきゃ。お互いに良い関係を保ちあえる友達って、そういう風にお互いに触れても良いところ、踏み込んじゃダメなところをきっちり意識して区別して気遣うもんよ?」
そんな中学生のような小さな外見にもかかわらず、いつものように凛とした顔を見せる成人した姉の含蓄ある言葉に、
そして、エスプレッソを飲み干してテーブルの上の小皿にカップを置いた姉がこんなことを尋ねる。
「っていうかさ、そのレイちゃんも、まーちゃんが男の子だったって知ってから連絡とかは来たの?」
「うん、さっき……これ」
『今度の日曜日、女の子モードのままでバスケの練習試合、見に来てくれない?』
そのメッセージを見て、
「……女の子モードで、って。つまりまーちゃんに、女装をした上で試合を見に来てほしいってことよね?」
「……そうなるよね」
そして、しばしの間の後に
「なるほどねぇ。つまり、あのレイちゃんっていうイケメンの男の子にしか見えない女の子は、男の子の格好をしている普段のまーちゃんとじゃなくって、女の子の格好をしている“
「うん……そういうことになる、かな」
またしばらく
「……もしかして、そのレイちゃんって子、いわゆる百合乙女っていわれている属性の子で……生まれつきの肉体の性別的には女の子だけど恋愛対象としては同じ女の子が好きなんじゃないの?」
「え!?」
あまりにも予想外な姉の言及に、
姉の
「だって、いくら長身でスリムで見た目が男の子っぽいっていっても、正真正銘の女子高生の女の子ならメイクしたり着飾ったりとかしたりして、もっと長身の女の子に似合うような可愛らしいガーリーな感じの格好とかいくらでもできる訳じゃない。女の子だけど、女の子にモテるために敢えてそういう男の子っぽい格好を普段からしているって可能性も存分に考えられるわよ」
「た……たしかに。その可能性は、全然考えなかったけど……」
その動揺がどこから来るものか
しかし、
それでも
そう思った