「こ、こんにちは……」
私がおずおずと花の妖精たちに挨拶を返すと、妖精たちは、水を得た魚のようにいっぺんにしゃべり始めた。
『ねえねえ、名前なんていうのー?』
『何歳ー?』
『どこから来たのー?』
『何の花が好きー?』
『どうしてここに来たのー?』
「え、えっと」
ものすごい勢いの質問攻めに、私は少しうろたえてしまった。
私を観察するように、四方八方をぐるぐると囲って飛び回っているから、誰と目を合わせればいいかわからない。
そして、やはり耳から聞こえる彼らの声は鈴の音なのだが、意味は理解できる。
妖精たちと意思疎通が可能になったのには、彼らの言によると、先ほどの『森の祝福』が関係しているようだ。
「おい、お前たち。いっぺんに質問するな。あと落ち着け。レティが困っているだろう」
ため息を吐きながら助け船をだしてくれたのは、隣で腕組みをして立っているアデルさんだった。
妖精たちは、私の周りをぐるぐる飛び回るのをやめて、私たちの正面に集まる。
『人間、レティっていうのー?』
『よろしくね、レティー』
『困らせてごめんねー』
『あたしたち、おしゃべり大好きなんだー』
『落ち着きがないって、よく注意されるー』
「そ、そうなのね。よろしくね、花の妖精さんたち」
私がそう言うと、妖精たちも、思い思いに挨拶を返してくれた。
『それにしても、人間、珍しいー』
『ぼく、アデルとジーナ以外の人間、初めて見たー』
『レティも、ジーナと一緒で、アデルのきょうだいー?』
「いや、俺のきょうだいは姉のジーナだけだ。レティは姉でも妹でもない」
『じゃあ、アデルの
「「つっ、
私とアデルは同時に、全く同じ反応をしてしまった。ぼふん、と顔が茹で上がる。
妖精たちは、くすくす、きゃはきゃは、と楽しそうに笑っている。
『やっぱりそうかー』
『おんなじ反応-』
『おもしろいー』
『仲良しなんだー』
「ち、違う! 俺たちはそういうのでは」
「そ、そうよ。私たちは
『あ、そっかー』
『人間の場合は、
『そうだったねー』
私とアデルさんは慌てて否定したが、相変わらず妖精たちには何か勘違いをされているような気がする。
ちらと隣を盗み見ると、アデルさんは耳を真っ赤にして目を吊り上げていた。私の方へは視線を寄越さず、腕組みをしたまま妖精たちに凄んだ。
もともと冷たい印象のある美男子だから、こうしていると威圧感がある……のだが、妖精たちは全く意に介していないようだ。
「とにかく、この話は終わりだ。ゆっくり話をするのはまた今度な」
『今度ー?』
『レティ、ここに住むってことー?』
「ああ。これから顔を合わせることもあると思う。よろしくな」
『そっかー』
『よろしくー』
『今日からレティも森の仲間だねー』
『レティは森で何の仕事するのー?』
「仕事? あ、そういえば……」
私は、妖精の言った一言に、目を瞬かせた。
アデルさんが昨晩、何か仕事をすれば森は歓迎してくれる、と言っていたことを思い出す。
『アデルは森の管理してるー』
『働かざる者食うべからずー』
『レティは何するー?』
「そうね……うーん」
「レティは、今、怪我をしているんだ。仕事は、怪我がきちんと治ってからだ」
私が困っていると、腕組みを解いたアデルさんが、またもやフォローを入れてくれた。
『そっかーわかったー』
『怪我、早く治すー』
『お大事にー』
「あ、ありがとう」
どうやら、妖精たちは納得してくれたようだ。
彼らは思い思いに、ひらひらと森の奥へ去っていった。
「うーん、お仕事かあ……」
「まあ、だがそんなに重く考える必要はないぞ。目に見える利益を出す必要があるわけでも、ノルマがあるわけでもないし。何なら俺の補佐という形でも構わないが、君自身は何かやりたいことはあるか?」
「やりたいこと……と言っても、私ができることといったら、泉の水を出すことと、お料理ぐらいです」
アデルさんの質問に、私は自分にできることを思案する。
川があるのだから、今のところ水を出す魔法には、特に価値はない。それに、料理が得意と言っても、人が住まないこの森の中では、あまり意味がないだろう。
アデルさんやドラコに食事を作るぐらいしか、役に立てそうなことは――、と、そこまで考えて、私はあることに思い至った。
「あ……そういえば、ドラコって、妖精ですよね。森に住む妖精さんたちも、ドラコと同じように食事をとるんですか?」
「ああ、もちろん。森にある果実や野菜を食べて暮らしている。好みはそれぞれだが、味覚も俺たちと大差ないようだぞ」
「なら――妖精さんたち相手にレストランを開いたら、喜んでもらえると思いますか?」
私はアデルさんの瞳をまっすぐに覗き込み、彼の答えを待った。