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3-3. 花の妖精たち



「こ、こんにちは……」


 私がおずおずと花の妖精たちに挨拶を返すと、妖精たちは、水を得た魚のようにいっぺんにしゃべり始めた。


『ねえねえ、名前なんていうのー?』

『何歳ー?』

『どこから来たのー?』

『何の花が好きー?』

『どうしてここに来たのー?』


「え、えっと」


 ものすごい勢いの質問攻めに、私は少しうろたえてしまった。

 私を観察するように、四方八方をぐるぐると囲って飛び回っているから、誰と目を合わせればいいかわからない。


 そして、やはり耳から聞こえる彼らの声は鈴の音なのだが、意味は理解できる。

 妖精たちと意思疎通が可能になったのには、彼らの言によると、先ほどの『森の祝福』が関係しているようだ。


「おい、お前たち。いっぺんに質問するな。あと落ち着け。レティが困っているだろう」


 ため息を吐きながら助け船をだしてくれたのは、隣で腕組みをして立っているアデルさんだった。

 妖精たちは、私の周りをぐるぐる飛び回るのをやめて、私たちの正面に集まる。


『人間、レティっていうのー?』

『よろしくね、レティー』

『困らせてごめんねー』

『あたしたち、おしゃべり大好きなんだー』

『落ち着きがないって、よく注意されるー』


「そ、そうなのね。よろしくね、花の妖精さんたち」


 私がそう言うと、妖精たちも、思い思いに挨拶を返してくれた。


『それにしても、人間、珍しいー』

『ぼく、アデルとジーナ以外の人間、初めて見たー』

『レティも、ジーナと一緒で、アデルのきょうだいー?』


「いや、俺のきょうだいは姉のジーナだけだ。レティは姉でも妹でもない」


『じゃあ、アデルのつがいー?』


「「つっ、つがい!?」」


 私とアデルは同時に、全く同じ反応をしてしまった。ぼふん、と顔が茹で上がる。

 妖精たちは、くすくす、きゃはきゃは、と楽しそうに笑っている。


『やっぱりそうかー』

『おんなじ反応-』

『おもしろいー』

『仲良しなんだー』


「ち、違う! 俺たちはそういうのでは」

「そ、そうよ。私たちはつがいじゃなくて」


『あ、そっかー』

『人間の場合は、つがいって言わないんだー』

『そうだったねー』


 私とアデルさんは慌てて否定したが、相変わらず妖精たちには何か勘違いをされているような気がする。


 ちらと隣を盗み見ると、アデルさんは耳を真っ赤にして目を吊り上げていた。私の方へは視線を寄越さず、腕組みをしたまま妖精たちに凄んだ。

 もともと冷たい印象のある美男子だから、こうしていると威圧感がある……のだが、妖精たちは全く意に介していないようだ。


「とにかく、この話は終わりだ。ゆっくり話をするのはまた今度な」


『今度ー?』

『レティ、ここに住むってことー?』


「ああ。これから顔を合わせることもあると思う。よろしくな」


『そっかー』

『よろしくー』

『今日からレティも森の仲間だねー』

『レティは森で何の仕事するのー?』


「仕事? あ、そういえば……」


 私は、妖精の言った一言に、目を瞬かせた。

 アデルさんが昨晩、何か仕事をすれば森は歓迎してくれる、と言っていたことを思い出す。


『アデルは森の管理してるー』

『働かざる者食うべからずー』

『レティは何するー?』


「そうね……うーん」

「レティは、今、怪我をしているんだ。仕事は、怪我がきちんと治ってからだ」


 私が困っていると、腕組みを解いたアデルさんが、またもやフォローを入れてくれた。


『そっかーわかったー』

『怪我、早く治すー』

『お大事にー』


「あ、ありがとう」


 どうやら、妖精たちは納得してくれたようだ。

 彼らは思い思いに、ひらひらと森の奥へ去っていった。


「うーん、お仕事かあ……」

「まあ、だがそんなに重く考える必要はないぞ。目に見える利益を出す必要があるわけでも、ノルマがあるわけでもないし。何なら俺の補佐という形でも構わないが、君自身は何かやりたいことはあるか?」

「やりたいこと……と言っても、私ができることといったら、泉の水を出すことと、お料理ぐらいです」


 アデルさんの質問に、私は自分にできることを思案する。

 川があるのだから、今のところ水を出す魔法には、特に価値はない。それに、料理が得意と言っても、人が住まないこの森の中では、あまり意味がないだろう。

 アデルさんやドラコに食事を作るぐらいしか、役に立てそうなことは――、と、そこまで考えて、私はあることに思い至った。


「あ……そういえば、ドラコって、妖精ですよね。森に住む妖精さんたちも、ドラコと同じように食事をとるんですか?」

「ああ、もちろん。森にある果実や野菜を食べて暮らしている。好みはそれぞれだが、味覚も俺たちと大差ないようだぞ」

「なら――妖精さんたち相手にレストランを開いたら、喜んでもらえると思いますか?」


 私はアデルさんの瞳をまっすぐに覗き込み、彼の答えを待った。


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