ブルース先生は、近衛騎士たちを睨みながら言い放ったあとに、私たち方へ歩み寄り横に立つと、近衛騎士たちの表情が急に険しくなる。そして剣から手を離すと、少しずつ後ろへ下がって距離を取った。
「ブルース隊長! しかし……その平民の女がリオネル殿下に不敬を」
「お前達はグリエル英傑学園出身だったよな? それなら身分に関係なく平等ってことを知ってるんだろう?」
「そ、それは表向きのことです。実際にはそんなことが認められる訳がないでしょう!」
近衛騎士たちは、グリエル英傑学園の卒業生みたいだけど、階級に対する差別意識を持っているようだ。ブルース先生は頭をかきながら、近衛騎士たちに厳しい現実を教える。
「まぁ、実際に平民が入学するのは稀だから、そういう考えを持つこと仕方ないが、結果的に俺はお前たちを守ったんだぞ? あのまま見過ごしていれば、アナスタシアに瞬殺されていたからな? コイツは模擬戦で俺に勝つほどの実力者だからな」
「あ、ありえない。新入生でブルース隊長に勝つなんてことは? 絶対にありえない!」
「お前たちが信じなくても、俺が負けたのは事実だ。おい、リオネル! アリスと話しがしたいのなら、上からではなく対等な者として話しかけろ」
ブルース先生に名指しで注意されたリオネルは『ビクッ』と体を震わせると、強気の発言で返事をした。
「最強国家の王になる我が、人に媚びることなどある訳がないだろうが!」
「お前は力を示してるつもりだろうが、実際は結果が伴わない馬鹿な王子だと、宮廷内で言われているんだよ。その俺様な意識を変えなければ、立派な王には成れないぞ?」
「ふん、気が失せた。帰るぞ」
「御意」
リオネルは的外れな言葉を言い放ってから、その場を去って行った。ブルース先生は私の方を向いて笑顔で話しかけてきた。
「あれは馬鹿なんだよ。誰からも怒られることなく育ってな、だからあんな風になったんだ」
「ははっ、馬鹿なのはよく判ったかな? 助けてくれてありがとう」
「お前を助けたんじゃない。あの馬鹿たちを助けたんだよ。じゃあな」
ブルース先生にお礼を言ってから、正門へと向かって屋敷へと帰ったのだった。
これが初めての【リオネル襲来】で、これから何度となく襲来してくるとは思ってもいなかったの……。
§リオネル視点§
我の妻に迎えてやろうと思い、直々に声を掛けてやったのにアリスは無視をした。近衛の者がそのことを注意すると、従者たちと揉め始めて剣を抜いてしまった。心の中でアリスにだけは手を出すなと祈っていると、ブルースがやってきて事態を収めた。
ただ、そのあと我に対して『上からではなく対等な者として話しかけろ』と言ってきた。我が妻になれば対等な立場を与えてやってもよいが、現時点で我の婚約者でもないのに、対等に扱うなどありえない。話しかけるのは失敗したのだから、次は違う形でアプローチをすることにした。
(アリス、お前は我にこそ相応しいのだ。必ず妃にしてやるかならな!)