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ACT5

 今日の私、すっごい上機嫌、きゃははって感じ!

 ピラピラのドレス着て(これは自前、ナルから借りたんじゃないもん‥‥ジェイレンも気前がいい)、おいしい食べ物が食べ放題。

「‥‥ほう!‥‥こ、これは‥‥」

 私はもうピョコン!て飛びついたわよ。

 大好物の海老サンが皿の上に山盛り!

 パクパクと無心で食べる‥‥ああ、幸せ‥‥。

「‥‥キャロル‥‥おい、何やってんだよ‥‥」

 正装したジェイレンが小声で近寄ってきた。

「‥はえふ?‥‥」

「‥‥ああ、何、言ってんだ?」

 ごくんて飲み込んで‥‥。

「食べる?」

 食べかけの海老サンをジェイレンに向けたけど、ジェイレンたら不満そうな顔。

「あ、あのな‥‥あんまり目立った事はしないでくれよ。今日はこの大使館設立十年の記念パーティーなんだから、ゴタゴタは勘弁してくれよ。俺は今日、親父の名代で来てるんだからな‥‥キャロルの恥は国全体の恥になる」

「‥‥むう!」

 ジェイレンがそんな事言うんで、私はほっぺた膨らませたわよ。

 でも‥‥は、反論出来ないぃぃ‥のよね。確かに無理矢理ついてきて、服までねだったのも、去年の夜会をバリバリどっかん!しちゃったのも私で‥‥ぇぇ。

「‥‥えへへへへ‥‥‥」

 だからとりあえず笑ってみる。そしたらジェイレンため息ついちゃって‥‥。

「ま、今ん所は何事もない様だけど、この国はまだ政情が不安定だからな。だからくれぐれもおかしな行動だけは‥‥ぐぁっ!」

 言葉途中でジェイレンたら器用に目なんか飛び出しちゃって‥‥(どんどん人間離れしてく‥‥これでほんとに王子?)。

 でもその訳が分かって私も驚いたわよ。

「‥‥あぁ‥‥何とジューシーな‥‥」

「ひえぇぇぇぇ!」

 私が話の間、づっと持ってた海老サンにかぶりついたのは、ジュリアス第一王子‥‥な、なんで、テーブルの上の皿の料理の中から顔出してるの?

「桃色髪の美しい人‥‥あなたの唾のついた海老は何と‥‥」

「話をややこしくするんじゃない、この変態が!」

「ぎあぁぁぁ!‥‥貴様、決闘だぁぁぁ‥」

 ジェイレンたら、どっかから取り出した巨大な木槌(思うんだけど、あれって一種の魔法だよね)、で一応、兄さんのジュリアス王子を天井に吹っ飛ばしちゃうし‥‥騒ぐなとか、何とか言ってたけど‥‥いいのかなぁ‥‥。

 ここは結構な高さの塔。三十階建てで、ここは何と十三階。いくらあの兄さんでもちょっと危険かもしれない。

「‥あ‥‥だ駄目だってばァ‥‥」

 抱えていたバスケットがゴトゴト揺れて、そんで上の隙間から真っ白い手がムニュ!って出てきて、しゅっ、しゅって皿の上の食べ物を掴もうとしてる(でもそのお手々じゃ無理だよ)。

 それを隣で見てたおばさん‥。

「ひっ!」

 驚いて青ざめちゃって‥‥。だから私はまた『えへへへ‥‥』って‥‥最近このえへへ笑いが顔に張り付いちゃってるよ‥‥。

 と、さりげ無くごまかした私は、モソモソとテーブルの下に潜る。

 バスケツトの蓋を開けると、すぐにピョコン!って顔が出てきた。

「まだ駄目だよリップ。見つかったら追い出されちゃうんだからぁ‥‥後でごちそう持ってくからしばらくじっとしてて」

 =そんな事、言ってもこんな所に押し込められると暇でさ‥‥=

「いつもみたいに寝てたら?」

 =昨日寝すぎちゃったみたい=

「‥‥うー‥‥」

 リップは相変わらず気楽‥‥うらやまし‥‥‥。

「‥‥あれ?‥」

 何か外(ここはテーブルクロスが被さってて、外が見えないのよね)が騒がしい。会場にいる人達がガヤガヤと‥‥何だろ‥‥?

「‥おっ?」

 何か真上に穴が開いてる‥‥と、思えば、何の事はない、ジュリアス王子が開けた穴‥‥。と、なれば、覗いてみたくなるのが人情ってものでさ、ね、ね、でしょ?

 んで、私はそっから顔出してみたのよ。

「ひえぇぇぇ‥‥‥」

 自分で口を押さえたんで、最後の『ぇ』は小声‥‥。すぐに顔を引っ込めたの。

 =どしたの?=

「‥‥な、なんだか‥‥恐そうな人達がいっぱいいるぅ‥‥」

 =恐そうな人達?‥‥また何かしたのキャロル?=

「‥‥違うもん、私なんにもしてないもん‥‥それより‥‥何あれ?」

 も一回、そおっと、顔を出してみると、辺りは剣を持って、顔の下半分を布で隠した人達が一杯。元々会場にいた人達は縛られて座らせられてる。

 中の代表らしき人(髭ともみあげがつながってて結構顔は渋い)がずずっと前に出てきて‥‥あ、ジェイレン‥‥。

「貴様がジェイレン第二王子か?」

「ま、生まれた時からそうだったから、今もたぶんそうなんじゃないか?」

 ジェイレンたら、顔に剣を突きつけられてるるのに軽口叩いてるし‥‥見てる私の方がハラハラしちゃう。

「大使は逃げたが、その代わりにお前を人質にする。我々の要求を飲まねばここの全 員は‥‥くっくっくっ‥‥‥ふぁっはっはっ!」

「‥‥お頭!」

 途端にそう言った人の頭をパコっと叩く。

「馬鹿野郎、リーダーと呼べと何度言ったら分かるんだ!」

「‥‥す、すいやせん‥‥おか‥‥リーダー、それでこいつらどうしやす?」

「全員、ふんじばったら、上の階の広い部屋に一まとめにして見張っておけ」

「へい!‥‥あたっ!」

 またポカっ!っと‥‥。

「へい‥じゃない、はい!だ。ったく、いつまでも海賊気分が抜けない奴だ‥‥いいか、これからのトレンドはテロリストだ。分かったな‥‥ん?」

 何かそのお頭サン、私の方を見たけど‥‥き、気づかれたのかな?

「ひぇっ!」

 私は慌てて顔を引っ込めたけど‥‥こっちに歩いてくるし。どうしよ、どうしよ‥‥。

「‥‥な、何かごく自然に穴をふさがないと ないと、ないと‥‥うぅ‥‥」

 あたふたあたふた‥‥って‥‥。

「そ、そうだ!」

 =わっ!=

 リップの体を掴んで穴から頭を出したの。それを見たお頭サン‥‥。

「‥‥うっ‥‥」

 呻いてる。顔は見えないけど‥‥驚いてる雰囲気が伝わってくる。

 リップは手足をバタバタさせてる‥‥悪いけどもうちょっと辛抱してね。

「‥‥ひ、ひでぇ‥‥料理の皿の上に猫が盛ってある‥‥」

 お頭サン、リップの頭を泣きながら撫でてる。リップは暴れるのをやめて体が硬直しちゃった(ごめーんねっ!)。

「やはり我々が蜂起して、国のあり方を正さなければならない様だ‥‥こいつらは人間じゃねぇ‥‥いくぞ、一階の守りは大丈 夫だな?」

「‥‥もちろんです、リーダー」

「用心しろ、逃げてった奴等はすぐに兵隊連れてくる‥‥こっちは人質を盾にこの塔で立てこもる‥‥この塔の中では結界が張ってあって魔法は使えないんだからな‥‥強引に踏み込む事もできんさ‥‥ふぁっはっは!」

 ぞろぞろと会場から出ていって‥‥後には私とリップだけ‥‥。

「‥‥魔法が使えない‥‥‥ど、どうしよう ‥」

 何だか知らないけど、リップはスネちゃって答えてくれないし‥‥。

「‥‥どうしよう‥‥ねー、リップ」

 窓の下にへーしさん達がワラワラとたかってるのが見えるけど‥‥人質がいるせいでほんとにワラワラしてるだけ‥‥。私だけは持ち前の知略で無事だったんだけどね‥‥。

 そうこう言ってるうちに、リップの機嫌が治ったみたい。

 =下には魔法使いもいる様だね‥‥でも魔法はこの塔の中には効かないらしいから、人質だけ転送って訳にはいかないみたいだね

「‥‥に、逃げれないかな?」

 =‥‥一人で?、ジェイレンも捕まってるんだよ?=

「‥‥そ、それはその‥‥中の状況を知らせる為に‥‥」

 私は人差し指をツクツクつせて、声が小さくなる。

 =大体、奴等も言ってたじゃないか。出入口はきっちり見張られてるよ。魔法では逃げれないしね=

「‥‥うーん‥‥でも‥‥」

 =キャロルがどうにかするしかないよ‥‥せめて外にいる人達に協力するべきなんじゃない?=

「‥‥そ、そだね‥‥はは‥‥」

 いつもながらリップは正論‥‥私はまた諭されちゃった。

 笑ってたけど、ちょっといじける。

「‥‥具体的にどうしたらいいの?」

 =さあ?=

 リップは話を打ち切ってぺろぺろと毛づくろい始めちゃった。言うだけ言って、やめちうの?‥‥悪い癖だよ!

「そ、そんな事、言わないでさ!、ね、何かいい考えあるでしょ?」

 我ながら、情けないとは思うけど‥‥でも‥‥仕方が無い事なのよ。大人になるって事はね、フっ‥‥いろんな事を受け入れてくって事なのよ。

 =く、苦しい‥‥=

「‥あ、ごめん‥」

 知らずにリップの首を絞めてて、ぱっと手を離した。

 お目々が×状態で、リップは床にボテっ!て落ちる。

 =もぉー、しょーがないなぁ=

 私と付き合って人間づいてるリップは後ろ足二本で立って、腕組みして説教しますぅ~状態?

 =確かこういう塔なんかの結界って、進入者を防ぐ為に屋上にあるんだよ。それを壊せば魔法が使える様になるから、外の人達が入ってこれるよ=

「お、屋上ぉ~」

 どうもヤな予感。

 =どしたのキャロル?=

「‥‥う、ううん、何でもないよ‥‥ははは」

 嫌がるリップをバスケットに入れてから、取ってを腕に通してリュックみたいに背負う。そんでドレスの裾を腰の脇で結んでっと‥‥(フトモモ丸だしだけど、どうせ誰も見てないから‥‥)。

 これで準備万端。

「レッツゴぉー!」

 しゅたたたた‥‥って百メートル、十秒の速さで壁のドアに寄る。ピタっと耳をくっつけて‥‥。

「‥‥うん‥‥誰もいない‥‥」

 そぉっと開けて、横からぬっ!と顔を出して辺りをキョロキョロ‥‥。

 絨毯のひかれた長い廊下‥‥植木鉢の向こうに曲がり角‥‥。

「‥‥うっ‥‥‥」

 =何してるの? 早く行かなきゃ=

 リップが顔だけ出した‥‥。

「階段は向こうだった様な‥‥それとも反対 側だったかな‥‥あ、あれ?」

 =来た時、使ったんじゃないの?=

「‥‥わ、忘れちゃった‥‥えへへへ‥」

 って、後頭部に手を当てていつもの『えへへ』笑いをしてたらね、

「わっ! 何だ貴様は!」

「ひぇっ!」

 いきなし、背後にテロさん(テロさん?‥‥響きが何かでろ~ってバターがとけたみたい‥‥この呼び方変かな?)が立ってる!

「‥この小娘っ!‥‥どっから沸いて出た!」 バッ!って手を伸ばして掴もうとしたんで、私は『おおっと!』って、後ろに仰け反ったのよね。

「抵抗するか!、おい誰か来てくれ、捕虜が逃げたぞぉ!」

 辺りのドアを開けてテロさん達が、わらわらわらと‥‥もう、これって絶体絶命の大ピンチって奴よ!

「ぬっ!」(テロさんその一)

「ひぇっ!」(私)

「おらっ!」(テロさんその二)

「ひえっ!」(私)

「くあっ!」(テロさんその三)

「わっ、わっ!」(私)

「そっちだ!」(テロさんその二)

 その人達ったら、私を捕まえ様と、廊下を右往左往‥‥。私は、ぺたって屈んでよけたり、真上にジャンプしたり、後ろにヒュルヒュルと空中で三回バック転したりで(でも、ちゃんとシュタ!って着地する辺りが私の凄い所)‥‥ああ、ドラゴンなりそこないで良かった(今だけよ、今だけ‥‥)。

「‥‥な、何なんだあのオカッパ頭の小娘は‥本当に人間か?‥」

「そ、そう言えば‥‥あのピンク色の髪は‥‥」

「‥‥ううっ‥‥」

 痛い所を‥‥。だけど皆サン動揺してる。この隙に‥‥。

「せいやぁっ!」

 私はテロさん達の方に猛然とダッシュして‥‥(うーん、舌足らずなかけ声‥‥迫力ないなぁ)。

「‥‥な、何ぃ‥‥」

 私は反動を利用して横になって壁を走って、そのまま逆さまで天井をツタタタ!

 テロさん達の頭の上、抜けて廊下の向こう側に出たのよ。

 ふわっ‥‥って重力そのものの速さで床に足がついて、自由に体が動かせる様になった途端、

「うりゃあっ!」

 その三倍のスピードで走って角を曲がってやり過ごす。それから先を進んでこの先に確か階段が‥‥階段がぁ‥ありゃ?

「‥な、ないぃ!‥‥ひえぇ!‥‥」

 =ひえ‥‥じゃないよ、あいつら下から上がってこれない様に階段を落としたんだ=

「‥‥そ、そか、私が悪かったんじゃないんだ‥‥‥」

 =そこ入れる?=

「‥‥そこって‥‥‥ここ?‥」

 リップが篭から手を伸ばしてピンク色の肉球でピタピタと触ってるのは、壁にくっついてる四角い板。

「‥‥何これ?」

 ネジが四隅に付いてたけど‥‥外す為の道具が‥‥。

 ”‥‥メキ”

「‥‥きゃははは‥‥新築の塔の割に‥‥立て付けが甘いよね」

 =まあ、何でもいいけど‥‥さ、急ごうよ= 

 覗いてみると、中は灰色の壁向きだしで暗い。でも結構広い。広いんだけど‥‥。

「‥‥な、何か‥‥上も下も果てが見えないんだけど‥‥」

 =当然だよ、ここは十三階なんだから。点検と通風孔を兼ねた穴だから真っ直ぐ上から通ってると思うよ=

「‥‥まさか‥‥ここ登ってくの?‥‥」

 =ちゃんと階段付いてるから平気だよ=

「‥‥そ、それは‥‥そうなんだけど」

 垂直に伸びてる鉄の梯子‥‥なんか手がささくれそう‥‥リップは篭の中にいるから楽でいいけどさ‥‥。

「‥‥うー‥‥」

 ごそごそと中に入る。んごー!って、言う音が‥‥まさにひえぇ!

 だけどちゃんと蓋を閉めてったのは、さすがいつも冷静な私。

 カン、カン‥‥って一歩、一歩登ってく。入る時に引っかけたらしくて、服なんかあっちこっち破けてるし‥‥。やっぱし手が痛い‥‥なーんで私、こんな事してんだろ?‥‥なんか根本的な疑問がフツフツと‥‥。

「んぎゃ!」

 スカートが引っかかって奈落の底に落ちそうになって‥‥もう冷や汗‥‥。こうなったら、やけなの!

 裾をビリビリと破ってミニにする。ジェイレンにまた買ってもらお‥‥。

「‥‥んしょ!‥‥ふう、やれやれっと」

 やっと屋上についた。お星様が、『やったね、キャロル!』って言ってくれてる(いいじゃん、別に、私にはそう見えるんだし‥‥あぁ微妙な乙女心ぉ!)。

 まん丸の屋上。辺りには、とりあえず誰もいないみたい。下を覗けば(あー恐い)まだ兵隊サン達が何やかんやと騒いでる。

「‥‥で、どれが結界?」

 =‥‥‥‥=

「むっ!」

 私はそこでとんでもない裏切りに気づいたのよ。

「‥‥もう、リップ! 私がこんなに一生懸命に訳の分かんない事やってんのに、どうして寝てるの!」

 =‥‥ふあ?‥‥‥だってボク、猫だし=

「‥むう!」

 もう、信じらんない!

 =それは置いといて、何処かに星型の魔法陣が描いてあるはずだけど‥‥それが魔封じの結界だよ=

「‥‥え、そうなの?」

 しかし、リップはよく知ってる。

 給水用のでっかい樽が(こういう高い塔って、一回水を上まであげてから下に流していくそうな‥‥)、何個かあるだけで‥‥そんな模様なんて‥‥。

「‥‥無いよ?」

 =じゃ、それだね=

「‥‥これ?」

 三メートル位の金属の四角い出っ張り‥‥。叩くと、カン!って硬い音が響く‥‥。

「‥うりゃあぁぁ‥‥‥‥はあはあ‥」

 むんず、と腕捲くりしてひっぺがそうとしたけど‥‥。

「‥‥きゃははは‥‥‥さあ、帰るかな‥」

 さすがに無理だった。

 =そりゃ、そうだよ‥‥でも結界さえ消えてしまえばいいんだから‥‥他に方法はあるよ=

「‥‥どうやって?‥‥」

 さっきっから聞いてばっかし‥‥リップ様々だよね。

 =黄色と黒の縞模様の入った樽がない?=

「‥‥あーあれ‥‥あったけどそれが?」

 =あの中には、塔で使う油が入ってる‥‥それにこれこれ‥‥=

 リップはバスケットの中からクラッカーを出した。

 =これが使えるよ。紐は導火線に、中の火薬は燃やす時の火種にさ‥‥それにちゃんとマッチも持ってるじゃない=

「‥‥燃やすの?」

 =ちょっと爆発してくれれば、カバーは吹っ飛ぶんでくれると思うけど=

「‥‥ふーん‥‥」

 そんで、リップの指示通りにやってみた。これが何と難しい‥‥実は私は手先が不器用だったりする。

 で、何とか完成!

 =ちゃんと体を結んだ?=

「‥‥ほ、本当にやるの?」

 下の蟻んこみたいな人達を見て、私は思わずゴクって息を飲み込む。

「‥何で私、こんな事に巻き込まれてんのよ‥‥‥」

 言った所で仕方ないけど‥‥。

 =ここにいたらキャロルも吹っ飛ばされちゃうよ=

「‥‥うー‥‥ヤだよぉ」

 紐をキュッてお腹に結んで‥‥。

 マッチをしゅって擦って火を灯す。クラッカーの紐を繋げた導火線に‥‥。

「‥‥うぅ‥‥」

 今一、心の準備が‥‥。

 ”いたぞ! あの小娘だ!”

「ひえっ! み、見つかった!」

 って驚いた瞬間、腹が座っちゃって、火をつけたのよ。

 =キャロル、早く!=

「う、う‥‥‥‥うりゃあぁぁ!」

 両手万歳して私は、屋上から飛び降りたの。そしたらその直後‥‥。

 ”スガーン!”

 背中に爆風を感じたの。

 うまくいきすぎて、屋上は大爆発、上にいた人達は『なー!』なんてずっと叫びながら、大の字になってお星様に消えてく‥‥。

 ちゃんと体結んでた私は、飛び降りてもちゃんと途中で‥‥あれ‥‥どうも‥‥落下時間が‥‥長い様な‥‥。

 =落ちてるよ!、反対側は何処に結んだの! =

「‥‥わ、忘れた‥‥あははは‥‥」

 落ちつつも照れ隠しに頭をかく私って思ったより器用。

 =もう結界の力は無いから、早く魔法で!=

「‥‥そ、そだね!」

 精神集中!

「‥‥かわいい、かわいいキャロルちゃん、私はここにいないもん♪」

 ブンって音がして瞬間移動、やっと魔法使いらしい事ができた。

「うわあっ!」

 現れ出た所は、ちょっとばかしまだ上。だけど膝を丸めて回転させてシュタッ!って綺麗に着地!‥‥うーん、魔法使い。

 ”‥‥ズーン‥‥”

「‥‥?」

 何の地響きかなって振り向いてみれば‥‥後ろには屋上から火をあげて爆発し続ける塔の姿が‥‥。

「‥あわわわわ‥‥‥」

 =何かに引火しちゃったみたいだね=

 塔からは叫び声

 =ふうー=

 リップは二本足で立って後ろをむいた。

 =考えてみれば、あんな弱っちい奴等、キャロル一人で十分やっつけられたよね。それに屋上に出たんだったら、もうそこは外だから魔法は使えたんじゃないかな‥‥=

「‥‥えーっと‥‥その‥‥えへへへ」

 そんな事、今さら言われても‥‥。

 煤て真っ黒になった顔を拭いて笑って‥‥。

「‥‥ジェ、ジェイレン‥‥あと他の人達」

 私に出来る事は、もう祈る事だけ‥‥非力な私を許してね‥‥。

 こうして人は大人になっていくのね。



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