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ACT7

=まだ考えてるの?=

「‥‥‥うん‥‥ちょっとね‥‥」

 上の空で、そう言ったけど、実はちょっと所ではない‥‥。

 私は自分のベットの上で、さっきからゴロゴロしてる。

 角部屋にある私の部屋には、二つの大きな窓がある。両方共、全開したら、今日は風の強い日らしく、たちまちに中は風の通り道になった。

 白いシーツが波の様に、うねってて、私はそれを押さえようと、大の字に寝転んだ。

「‥‥‥‥‥‥‥」

 そのポーズのまま、外を覗くと、景色が上下逆になって見える。

 入道雲が、下を流れてく不思議な景色。

 風に髪をパタパタさせながら、ずっと眺めてると、何だか空でも飛んでる気になる。

=‥‥何でキャロルは、そんなに城に行きたいの?=

 リップの声で、フッと私は現実に戻された。私は、ピョコッとベット(私のベットって、これが良く、弾むのよ)の上に、正座した。

「‥‥つまり、具体的、かつ、論理的に言うとね‥‥」

一‥‥夜会は素晴らしいものに違いない。

 二‥‥夜会には、凄腕の魔法使いが、出席しているはず。だから、私のこの病気も、治してくれるはず。

 三‥‥本当にジェイレンが、王子かどうか確かめる、またとない機会。

「‥‥てな訳なのよ‥‥」

=‥‥‥‥‥‥=

 リップはパカッと口を開けて、私の顔を見てる。

=それのどこが、具体的で論理的な訳? 違いないとか、何とか、全部が推測だよ=

「‥‥‥ぐっ‥‥」

 リップは猫なのに、細かい。

「あはははは‥‥いいの、いいの。要は、私がね、そんだけ、行きたいいいって事が、伝われば‥‥」

=‥‥うーん‥‥そんなものかな‥‥=

 リップはぺろぺろと手をなめてる。猫が顔を洗うと、何か良い事が起こるって言われてるけど‥‥。

=‥‥じゃあ、行けばいいんじゃないかな=

「‥‥それにはね、色ーんな、複雑な問題が あるのよ‥‥」

 私はその重要性をアピールする為に、へなへなと横になった。カーテンが揺れる度に、明かりの強さが変わるので、手で目を隠す。おでこに当たった途端、ペチッと音がした。

=‥‥つまり、出るには足りないものが色々あるって事なんだね‥‥=

「ん、まあ、大ざっぱに言えば‥‥」

=うん、これはあれだよ、確か、おとぎ話で似た様なのがあったよ‥‥=

「え、何、何っ!」

 私はリップに、顔をくっつく程、近づけた。

=昔、ある所に、貧乏だけど気だてが良くて、優しい娘がいて、その貧乏な娘は城の舞踏会に行きたくて、仕方がなかった。そこに、親切な魔法使いのお爺さんが現れて、綺麗 な服と、ガラスの靴、かぼちゃの馬車を与えてくれたんだ=

「そ、それで? ‥‥どうなったの?」

=‥‥ま、話すと長くなるんで、はしょるけど、とにかく城の舞踏会に出る事が出来た、貧乏な娘は、結果的に、幸せを見つける事 が出来ましたとさ、おしまい=

 それじゃ、はしょりすぎじゃ!って、言いたくなったけど、雰囲気だけは伝わったんで、まあいいかってね‥‥。

「‥‥ふーん‥‥そのコって、私とそっくり‥‥」

 リップは、ぴくりとヒゲを動かす。

=そ、そうかな‥‥貧乏には違いないけど=

「何よ‥‥」

 何から、何まで同じじゃない。

 ただ、親切な魔法使いのお爺さんが、いないだけ。

 うちの爺ちゃんはねぇ‥‥意地悪な上に、そんな事、出来ないんじゃないかな。

 最も大きな問題が一つ‥‥。

 よしんば、そのかぼちゃの馬車とやらを入手出来たとしても‥‥。

「ね、リップ、どうしよう、私じゃ、子 供すぎるし‥‥」

=だったら、魔法を使ったらいいじゃないか。 動物魔法を使えるんだったら、人間も動物のうち‥‥何とかなるんじゃないかな‥‥=

「う、うーん‥‥どうなんだろ‥‥」

 考えてもみなかった。それってでも、高度な魔法なんじゃないかな‥‥。

 失敗したらどうしよう‥‥。

「うう‥‥こ、恐‥‥」

=大丈夫なんじゃないの? これ以上‥‥ま、いいか‥‥=

 リップったら、言いたい放題‥‥。でも、今の私の精神状態では、とても言い返す気になんない。

「じゃ、他のアイテムは?」

=呪文書をしまってある部屋で、一度、物質変化の書を見かけた事がある。それで かぼちゃの馬車は大丈夫だね。服に関して は、あの友達に聞いてみたら? 必要なら、ガラスの靴も何とかしてくれると思うよ=

「うーん‥‥でもー」

 私の事を、何のかんの言ってたリップも、憶測でしか、言ってないじゃない‥‥。

 とにかく、やってみるしかないか‥‥。

 私は、両手を握ってリキを入れ、鼻からフン!と、荒い息を出した。

=‥‥気合い、入ってるね=

 もちろんって、私は笑おうとて、顔が引き釣った。

「ははは‥‥は‥‥またナルに頼む事に なるからさぁ‥‥」

 今度は、どんな服を着せられる事やら‥‥。多少、派手になっても構わない訳だけど、妙な服だけは、やめてほしいな‥‥ナルは派手と妙は違うって事、知らないかもしれないけど‥‥。

 心は重いけど、ナルの方はなんとかなりそう。問題は呪文書の方‥‥‥。

「ね、爺ちゃん素直にその呪文書を貸してく れると思う?」

=さあ、かわいい娘の為だったらね。はいは いと、何でも言う事を聞いてくれるんじゃないかな‥‥ =

「‥‥‥うーん‥‥‥‥‥」

リップは後ろ足で、首をかいてる。それに釣られて、私もポリポリと頭をかいた。

 ま、いいでしょう。

 あまり気は進まないけど、とりあえずやってみましょうか‥‥。





「お、じ、い、ちゃん!」

 私はリップに言われた通り、なるべくかわゆい声で、爺ちゃんの部屋にスキップして入った。

 むふふって笑いを浮かべながら、爺ちゃんの目を後ろから隠したの。

「む! くせ者」

 でも、爺ちゃんは失礼な事に、バッと飛びさがっちゃって‥‥失敗しちゃったかなって、少し後悔したりする。

「なんじゃ、キャロルではないか。どうした、変な声を出して? 何処ぞ、体の具 合でも悪いのか?」

「う、うぐ‥‥‥‥‥‥」

 ジェイレンと同じ事を‥‥。

 私は言葉に詰まっちゃって‥‥。でも、いいんだもん。

「おお、だが、丁度良い時に来たの」

「む‥‥」

 私は体を硬直させる。どうせまたろくでもない物を作ったに違いないのだ。

 私を実験台にするのはやめてほしい。今まで何回か、ひどい目にあってる。

「これはたった今、完成したばかりの新作じゃ‥‥」

「‥‥う!‥」

 私は驚いてはみたものの、その物体がなんなのかさっぱり分からない。

 一抱えもある、銀色の金属製の箱。上から針金みたいな棒が何本か飛び出してる。何やら、ボタンの様な物が上に何個かついている。作る度に大げさになってく気が‥‥。

「こ、これは‥‥ま、まさか!‥‥」

「何、キャロル、分かるのか!」

「いや、さっぱり‥‥あははは‥‥」

 爺ちゃんはカクンと頭をうなだれた。

「ま、まあ、よい‥‥これはな、歴史を変える程の発明じゃぞ」

「‥‥へえぇぇぇ‥‥あ、そう‥ふーん‥‥」

 私は気の無い返事。爺ちゃんの言う事を真に受けてたら、人類の歴史はゴム鞠かの様に、ポンポンと、進む方向が変わっちゃってる事になる。

「ふっふふふ‥‥聞いて驚くな、このカラクリはな、何と、明日の天気をピタリと、当てる事が出来るという優れ物じゃ。もうこの朝顔君があれば、天候術士は不要じゃ! かっかっか‥‥」

「へえ‥‥」

 私はちょっと興味の虫がもぞもぞと動きだす。

 それが本当なら、大したもんだ。

 しかしどうでもいいけど、天候術士は不要じゃ‥‥に、何かリキが入ってる。目的はそれか‥‥なるほど。

「ほれ、この様に‥‥」

 爺ちゃんはポチッと、上の赤いボタンを押した。

‥‥アスノテンキ‥‥

 抑揚のない、女の人の声が中から聞こえて来る。

‥‥クモリトキドキ、ハレ。トコロニヨッテ、アメノフルトコロモアルデショウ‥‥ ‥

「ふあっはははは!‥‥‥うごっ!」

 私は、大笑いしてる爺ちゃんの頭をパカンと叩いた。

「で、結局、天気はどうな訳? 晴れ てるか、曇ってるか、雨が降ってるかしかないでしょお!‥‥はあはあ」

 ああ、疲れた。一瞬でも、本気にした私が馬鹿だった。

「ま、待つのじゃ、何ぞ最近、性格が凶 暴になってきたの。やはり、ドラゴンの‥‥」

「え、いやーあははは‥‥そ、そんな事ないよォ‥‥‥」

 ドキッとした私は、重ね合わせた両手をほっぺたにくっつけ、夢見る乙女の顔になる。

「う‥‥‥」

 爺ちゃんは一瞬、怯んだけど‥‥。

「この朝顔君の性能はそれだけではないぞ。何を隠そう、明日の降水確率まで、ばっちし分かってしまうのじゃ」

「‥‥‥ふーん‥」

 もう、信用しない。

爺ちゃんは今度は、青いボタンを押した。

‥‥アスノコウスイカクリツ‥‥50%‥

「ぐわっはは、見ろ見ろ、わしは天才じゃ!」

 自信を回復した爺ちゃんはまた笑い始めたけど‥‥。

「‥‥‥うはははは!‥‥」

「降るか、降らないか、五分、五分だって言 うんなら、最初から何も知らないのと同じじゃないのよお!」

「うははは‥‥‥ぐあぁぁぁ!‥‥」

 運の悪い事に、珍しく窓を開けていたんで、爺ちゃんはそこから、空の彼方へと消えて行った。  

「はあはあ‥‥し、しまった‥‥」

 私は、グーにした手を、前に突きだしたポーズのまま、キラッという光を残して飛んで行く爺ちゃんの姿を、呆然と眺めてた。

 これで、爺ちゃんに、呪文書を借りる事は出来なくなってしまった‥‥。(これってやっぱり、不可抗力って奴かな?)

「なら、しょうがないよね、えへへ‥‥」

 一人で乾いた笑いを浮かべる。

 呪文書はリップに持ってきてもらおう。うん、いい考えだ。

「‥‥‥後は‥‥ガラスの靴か‥‥」

 私が気を取り直して、部屋を出ようと、後ろを振り向いた時‥‥。

「奇妙な事を言うの‥‥なんじゃ、それは?」

「うわあ!」

 下から、ヌッと現れた爺ちゃんを見て、私はドテッとこけた。

「に、人間なの、本当に?」

「その靴なら、わしの魔法で何とかなるぞ」

「え!」

 私はピタッと動作を止めた。

「‥‥‥ほ、本当に?」

「もちろんじゃ。今まで、わしが嘘をついた事があったか?」

 たった今、大嘘こいた事なんて、すっかり忘れちゃってる。私は、余計な事を言いかけた口を、おっとっとっと、閉ざした。

「しかしキャロル、そんな物を一体、何に使おうと言うのじゃ?」

「うん、ちょっとね‥‥」

 城に行く、何て言ったら、爺ちゃんは何て言うだろうか。

 やっぱり、反対するだろうな‥‥だから、何も言わない。沈黙は金なりってね‥‥。

「ふむ‥‥まあ、良い‥‥」

 もったいぶって、ヒゲをこすりながら、爺ちゃんは、エヘンと、咳払いした。

「かの地、時の果ての主よ。今こそ、盟約にもとづいて、奇跡を具現さすべし!」

 爺ちゃんが呪文を唱えて、手を前にかざすと、床の上に、霧に包まれた光る物が現れた。私は、ドキドキしながら、それがはっきりとした形になるのを待った。

「こ、これは!‥‥」

 私の額から、汗が、ツと、流れる。

 モワーンと、霧が晴れた後に、現れた物‥‥‥それは、予想とは反して、黒い物体。

「‥‥しかし、キャロルも妙な物を欲しがる‥‥‥」

「こ、こ、こんなの、いるかあぁ!」

「ぐあー‥‥な、なぜじゃあぁぁ!」

 爺ちゃんは再び、空に消えて行った。

床の上には、あほー、あほー鳴いてる、カラスの靴。

 あんまり、説明したくはないけど、おまるに似てる。靴のつま先にカラスの首が、ニョキッと生えてる。

「‥‥ううっ‥‥‥‥‥」

 私はカラスを無視する事にしたのよ(カラスはね、本当に人を馬鹿にしてるのよ)。

 もう、ガラスの靴はどうでもいいもん。

 てっとり早く、ナルの家に行ってしまおう。

私は、顔を引き締める。

 ナルの家に行く時は、気合いが必要だ。

 いってしまった爺ちゃんの為にも(逝った訳ではない‥‥たぶん‥‥)失敗は許されない。

 私は青空に誓った。


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