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ACT15

「‥な、ならば、自らの力をもって、それを証明してみせろ! その信念が真のものならば、私以上の魔法を見せる事が出来るはずだ」

「は、はいぃ?」

 でも私の予想は大外れ。どうしてそういう結論になっちゃうのよ‥‥。

 そん時、ごわあああん‥‥って、ドラが一回鳴った。

  それはたぶん時間になったって事を知らせる合図。(事前の説明を良く聞いてなかったんで‥‥‥だから、たぶん)

 またザワザワし始めた周りが、静かになった。

 ”これより、第一王子ジュリアスの提言による、第二王子ジェイレンの王族の妥当性を問う、神託試合を始める!”

 そう言ったのは、ドラを叩いたへーしの人。 

 なんてまあ、声のでかい‥‥私には真似できそうもない‥‥爺ちゃんのこの大発明とやらが、ちゃんとしたもんだといいけど‥(また馬鹿なものだったら、許さないから!)。”‥‥‥ジュリアス王子の代理人として、大賢者ラミレス=グレイ!”

 そう紹介された後、ラミレスが両手をあげると、わー!とか、おー!とかいう声がごっちゃに混ざった、わ゛ー!‥‥みたいな喚声があがった。

 すると次はもしかしたら、もしかして‥‥。

「‥ぎくり‥‥」

 また私の顔が暗黒に‥‥。

 ”‥‥‥‥ジェイレン王子の代理人として、動物術師、キャロル=ノエル!”

 そう紹介された後、私は「‥‥へへ‥‥」って、顔を真っ赤にさせて、下を向きながら真似してへなへなと手を振った。すると、何ー!とか、おお!とかいう声が混ざった、ざわわ!‥‥みたいな喚声が‥‥。

「‥うぅ‥‥ジェイレンの馬鹿‥‥‥」

 その馬鹿はどうしてるのかなって、探してみれば、ちゃっかりと正面の貴賓席に座ってる。私と目があうと、ほーい‥‥って感じで、手をあげてきた。

 ”‥‥それでは先行は‥‥賢者ラミレス!”

「‥‥ふぅ‥‥」

 ほっとした様な、がっかりした様な‥‥いっそ、とっとと済ませてしまった方が良かったのかも。後で比べられても何だし‥‥。

 私は、カサカサと隅に寄った。柱の影から、覗いて見る。

「‥‥それでは‥‥」

 ラミレスの声は低くて、静かに話してるのに、良く通ってくる。これも魔法の一つかな‥‥?

「‥‥昔、一人の邪悪な魔法使いがこの国を支配していた。その者が倒される間際、使った魔法を見ていただく‥‥‥」

 ラミレスは目を閉じて杖を空に掲げた。

 辺りもしーんとしちゃてる。かく言う私も、ワクワクしながら、待ってた。

「‥‥‥あれ?」

 何が、あれ?‥‥なのかってね、何もラミレスは呪文を詠唱してないのに、魔法を使った気配が伝わってきたからで‥‥。一流の魔法使いには、呪文なんかいらない様で‥‥。魔力の流れは、全部、空に行ってる。何だろと思って見上げてみたら、あんなに晴れてた空が、真っ黒な雲に覆われてた。(爺ちゃんの天気予想機だと、何て言ってくれるのかなって、すっごく下らない事を、思いだした)細い雲が、蛇みたいにとぐろを巻いてる状態になったら、その時ね‥‥観客席の方から悲鳴が聞こえてきたのよ。

「‥‥へ!」

 雲の渦の真ん中から、何か出てくる。茶色の石‥‥岩‥‥‥と、言うより‥‥。

「ひえぇぇぇ!」

 私はあたふたと、どっか安全で、隠れられる所を探したわよ。

 隕石なんて言う可愛げのあるもんじゃないのよ、それが。‥‥お月様でも落っことしちゃったのかな‥‥でも、まさか‥‥いや、だから今はそんな事、言ってる場合じゃないってば‥‥。

 ごごご‥‥って上下に揺れる地面に、私は頭を抱えてぎゅっと目をつぶってた。

「‥‥‥ん?」

 その揺れがピタッと止まったんで、私はそおーっと、目を開けてみたの。

 すると最初っから、嘘だったみたいに(嘘だったのかな?)、青空が広がってるじゃない!

 平然と立ってるラミレスが、向こうにポツンと黒い点の様に見えた。

「‥‥皆さん、ご安心を!‥‥今のは全て幻‥‥只の幻影です!」

 それを聞いた私は、やっぱり嘘だったんだ‥‥って、ほっとした。

 上で見てる人達のパニックもおさまった様で、そうなるといよいよ‥‥。

「‥‥‥か、帰っちゃおかなあ‥‥」

 なんて事を考えないでもない。‥‥でもさ、やっぱしさ‥‥やる時はやらないとさ‥‥。

「‥‥えぇっと‥‥‥」

 どんな時も全力で‥‥だったかな‥‥。

 私はラミレスの真似して、黙って目をつぶってみる。

 不思議なもんで、こうしてみると人の話声って全然聞こえて来ないのね。

 ヒューていう、風の音だけ‥‥‥。

 瞼の裏に浮かんでくる景色は、土の地面じゃくて、地平線が丸く見える様な、見渡す限りの草原‥‥。風が吹くと、草の上に跡が広がって、風の通り道がはっきりと分かる。

 その風が、私の黒のマントと、髪をなびかせた時、何だか知らないけど覚悟が決まってたんだ。

 よっしゃあ!‥‥って、気合いを入れて目を開けた。

 肩のピンを外すと、マントは風に乗って、あっと言う間に、青空に飲まれてった。

 その瞬間、人々のざわめきが伝わってきて、さすがに私はちょっと恥ずかしくって‥‥。 

 裾にフリルが付いてる、真っ白なスカート‥‥それが二段重ねになってて、丈は大体、膝の辺りまでと、ちょっと短め。腰の所には前からでもはっきり見える、どでかい桃色のリボン、そしてこれは靴についてるちっちゃなリボンとお揃い(私の髪の色とも同じ)。両肩は出ていて、両手には同じく純白の手袋なんかしていたりする。

 更に私は、持ってきた白のカチューシャを頭に付けた。それにも片側だけに肩までくっつく様なリボンがある。

 実はこれ、ナルがこの日の為に作ってくれた特注品。私のサイズにぴったりなのは、お仕立て上がりだから、当たり前。

 ‥‥‥作ってくれた事には感謝してるけどさ‥‥。

「‥‥‥はは‥‥」

 誰だって、王都中の人々(この闘技場って、五万人は入れた気が‥‥)の集まるこんな場所で、こんな格好させられれば、顔が真っ赤になると思うんだけど? しかも、フィールド上には私一人だけでさ‥‥。

「‥‥はは‥‥って、笑ってても仕方ない」

 だから頑張らないとね‥‥。(一人でずっと笑ってると、本当に馬鹿みたいだし)

 もそもそと、爺ちゃんの発明品を取り出す。 棒の上に拳位の大きさの球がくっついてる変な物体。この球の部分に何か喋ると、何倍にも声がでかくなる‥‥らしいという、実に怪しい代物‥‥。

 棒に付いてるボタンを押してみた。

「‥‥‥うー‥‥」

 とりあえず、爆発はしなかったけど、反応無し。何も話してないんだから、当然かな‥。

「あー、あー‥‥‥‥ただ今、テスト中‥‥ ぅわ!」

 驚いたの何のって、そりゃあもう。私のかわいらしい声(舌足らずの声って、聞き様によっては可愛いと思わない?)が、上から降ってくるのよ!

 だから、何人もの私が口を合わせて叫んでるみたいで、気色悪いんだなこれが。

 でもまあ、全くの失敗作でもなかった様で‥‥。

「‥‥‥コホン‥‥」

 だから、呪文の詠唱‥‥この場合はリップ達への合図もちゃんと伝わる訳。

 両手で棒の部分をしっかりと握って、私は歌いだしたんだ‥‥‥。


 わーたしは森の魔法使いィ

 今日も青空、いい天気ィー

 わーたしの心も、だから晴れ!

 猫ちゃん、出てきて、お願いよ!


 ランランラララ‥‥‥

 ラララララ‥‥ハイ!


 緊張してて、ちょっとばかり語尾が震えてたけど、アレンジしたと思えば、それで良きかな‥‥。

 口をモゴモゴさせた後で、視線だけをあっちゃ、こっちゃに飛ばす‥‥‥リップ?

 ウン万の人達はシーンとしてる。これで、猫達が答えてくれなかったら、私ってただの馬鹿?

 三秒経っても、何も起こらない。「‥‥はは‥‥」ってだんだんうつ向いてきて、顔色が青から、黒‥‥赤に変わってったのが、自分で分かったわよ。

 その時さ、私を暗黒の世界から救ってくれる、猫の鳴き声が聞こえて来た。

「リップぅ!」

 私は大体の場所に見当を付けて、バババババ‥‥って手を振ったらさ。

 またざわめき‥‥観客達は皆、後ろを向いてる。一番後ろの一番高い所‥‥‥。

 猫達はそこにいた。

 円状の闘技場の壁の上に、ズララッと猫達が現れた。

 それって、もう感動ものよ!‥‥もちろん、私は最初っから、信じてたけどさ。(‥‥ほんのちょっとだけ、疑ったかもしれない‥‥ごめーんね!)

「ふふふふふ‥‥」

 こうなれば百人‥‥百猫力(うーん、何か頼り無く聞こえるけど‥‥絶対あれは百匹より多いからいいか‥‥)。余裕の笑みを浮かべたりする。


 わーたしは元気なキャロルちゃん

 今日の私は、絶好調ぉー

 いーまの私に、不可能無ーし!

  猫ちゃん、一緒に歌いましょぉ!


 ランランラララ‥‥‥

 ラララララ‥‥ハイ!


 ハイ!って、私が歌い終わった直後、私の口調を真似て、一斉に鳴き始めた。

「‥‥へえ‥‥‥」

 私は驚いて聞いてたけど、他の人間達はもっと驚いてる。貴賓席のジェイレンは‥‥やっぱしね‥‥あんまり大口を開けると、馬鹿丸出しだよーだ! でも、中央にいる国王を挟んで、反対側に座ってるジュリアスも似た様なものか‥‥。こうして見ると、似た者兄弟だな‥‥って私はクスッてね‥‥。

 一匹一匹は、只の、にゃあーでも、それが重なり合うときちんとした歌に聞こえてくる。音階なんかも、きちっとしてるし、私が歌うよりよっぽどうまいじゃないかな?

 感心なんかしてるけど、これだとやっぱり私の立場がないよね。ここは術師として、威厳をみせないとね!

「‥えーっと‥‥‥いた!」

 探してたのは鳥さん、この際、カラス以外だったら何でもいい‥‥な、何と、鳩サンの群れじゃありませんか‥‥ラッキー! でも協力してくれるかな。

 この際、オーバーアクションで何とか‥‥。 私は腰に手を当てて、右、左って、ステップを踏んでみた。うんうん、結構、この衣装に合ってる。このまま歌ってしまえ。


 とーりサン、私のお願い聞いて

 とっても、とっても困っててー

  鳥サン、お願い、力を貸して!

 鳥サン、一緒に踊りましょぉ!


 ランランラララ‥‥‥

 ラララララ‥‥ハイ!


 真っ白な鳩さん達がバサバサと降りてきてくれた時は、歌いながら、やったー!って、飛び跳ねてた。

 空に向かって棒をクルクル回すと、鳩サン達も闘技場の上を飛び回り始めてね、さっきの黒雲に当てつけてるみたい。

 羽がヒラヒラ降ってきたりして、いいかもしんない。

「‥‥‥‥あ、あれれ?」

 猫の大合唱に混じって、楽器の音がポツポツと入ってる‥‥これってどうして?

 って、楽器を鳴らしてるに決まってるから‥‥。

「あ、あの時の‥‥‥」

 雑多な色の混じり合った観客席の中、一カ所だけ、真っ黒で統一されてる場所があったんで、そこに目を凝らしてみれば、夜会で楽団を指揮してたおじさんと、その楽団。

 おじさんは笑いながら、指揮棒を振ってる。やだ、それって、今の私の呪文‥‥‥曲なんか付けちゃってるけど、全部アドリブで言っただけで、よくぞそこまで‥‥。

 何で急にはっきり聞こえる様になったかって言うと、それは爺ちゃんのせい。隣で、大発明(これだけは認めてあげる)の拡声棒を持ってる。

 ヒューヒューって、口笛が飛んできたんで、私はハッとして、他の場所に視線を移した。

「‥‥‥へ、な、何なの!」

 それ見て、思わず、あごがカクンて外れそうになった。

 それがね、私が知らないうち(いや、人生って、本当に驚きの連続よね‥‥へへ)に、勝手に騒ぎが起こり始めてる様でさ‥‥‥。口笛吹いてる人は、一人や、二人じゃない感じ。あっちからもこっちからも聞こえてくる。

 それだけならまだしも、色付きの紙テープなんか投げてる奴が。‥‥紙吹雪なんか作って来た人って誰なのよ?

 ”頑張って!”

 そう叫んだ声の元は後ろ、意外に近い。

「‥‥えーっと‥‥って名前は分かんないけ ど‥‥えーへいサン」

 頼むから、王国の旗振りながら、変な事、言わないでね。

 ”キャロルちゃーん!”

「‥‥‥ぬお‥‥」

 今度は、正面の一団が、私の名前を大声で連呼してる。頭を抱えて、座り込んじゃっていいかな?

「‥‥‥う‥‥なんて事に‥‥‥ま、いいか ‥‥」

 ”キャロルちゃーん!”

「はは‥‥もう好きにして‥‥」

 もう一度、聞こえた時、私は彼ら(なぜか全員、十代から、三十代までの男の人達)にニッコリ笑って、「はあーい!」って、手を振ってあげたの。

 するとさ、そこの一帯が、わーって、異様に盛り上がっちゃって‥‥。ちょっと、ちょっと、何なのよ、それは!

 楽団の演奏と、猫達の合唱‥‥それに合わせて空から、花びらが降ってくる。なぜかって?‥‥それは鳩サン達が口にくわえてきてくれたから‥‥。

 白い花びらを乗せた風は私を中心にして、クルクルと舞い始めて‥‥そん時、なんかこう‥‥視線の様なものを感じたんで、?って顔で見渡してみたら、やっぱり私に集中してた。

「‥‥‥えへへへへ‥‥へ‥‥いえーい!」 照れ隠しにブイサインをすると、

 ”いえぇぇい”

 観客席の人達まで真似しちゃって、もう何がなんだか‥‥。


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