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第29話  元婚約者の狙い ①

 シルフィーのことは置いておいて、お義母様への挨拶も済ませた頃、ライト様がわかった話を教えてくれました。

 詳しい話を聞いてみたところ、シルフィーは何も考えずにパーティーに出席し、アバホカ陛下と出会い、その時になって自分が陛下と会ってはいけないことを思い出したようなのですが、時すでに遅しでした。

 激昂した陛下が、彼女を#人気__ひとけ__#のない所まで連れていったそうです。しばらくして陛下は戻って来たのに、シルフィーは一向に戻ってこないため、彼女を心配した夫が探しに行くと、中庭で倒れているシルフィーを見つけたということでした。

 倒れていたといっても、意識を失っていたわけではなく、平手打ちを何発か食らって痛くて泣いていたそうです。


 男性の平手打ちなんて手も大きいでしょうし、力も強いはずです。女性に叩かれても痛いのに泣きたくなる気持ちはわかります。それにしてもどうしてシルフィーは陛下と会うまで自分が会ってはいけないことを思い出せなかったのかが謎です。

 自分は死んだ者と思われているから気づかれないと思ったのでしょうか。


 もちろん暴力はいけません! 暴力以外に出来ることはあったはずです。彼女を見つけた時点で国へ強制送還して、自分の妻にだって出来たはずなのです。

 ……って、陛下以外は重婚が認められている国ではないので、既婚者のシルフィーは陛下との結婚は無理ですね。

 そういえば、妻という言葉で思い出しましたが、ライト様の元婚約者でもあるフローレンス様はどうしていらっしゃるんでしょうか。

 妊娠は本当だったのかも気になります。もう、お腹も大きくなっている頃でしょうし、そうでなければ騒がれていますよね。私の耳に入らないだけで問題になっているのでしょうか。


 新婚旅行から帰途についている馬車の中で頭を整理していると、向かいに座っていたライト様が口を開きます。


「さっきから一人で色々と考えてるみたいだが、何を考えているんだ?」

「そうですね。色々です」

「色々? シルフィーのことか? それともアホ……、アバホカ陛下のことか?」

「両方です。それからフローレンス様のことも気になっていました」

「フローレンスか」


 思い出したくもないといったような表情をされたあと、ライト様は続けます。


「彼女の妊娠は嘘だったらしい」

「……そうなんですか?」

「ああ。妊娠しないように陛下はしっかり管理していたみたいだな」

「管理?」

「詳しいことは口に出さなくていいだろう?」


 子供ができないようにしていた、という意味で良いのでしょうか? 詳しく聞くと恥ずかしくなってしまいそうなので止めておきます。


「そういえば今回のパーティーには、フローレンス様は一緒に来られていたんですか?」

「いや。陛下が一人で来ていたようだ。それに入国なんてさせないだろう」

「そうですね」


 嘘だとわかったあとのフローレンス様が、アホバカ陛下に酷いことをされていなければ良いのですが……。


 それにしても、シルフィーは本当に馬鹿としか言いようがありません。あの人と私は血が繋がっているのですよね。


 ため息を吐いて肩を落とすと、ライト様が優しく声をかけてくれます。


「家族だからって全ての人間が同じ性格ではないし、考え方だって違う。君はシルフィーとは全く違うタイプだから安心していい」

「では、私がシルフィーみたいな馬鹿になってしまったら何とかしてくださいますか?」

「叱るし、馬鹿なことをする前に止める」

「ありがとうございます!」

「俺は君の味方だが、やって良いこととやってはいけないことはちゃんと伝える。だから、君も同じように俺に伝えてくれ」

「わかりました」


 夫婦というものはやはり支え合って生きていくものですよね。……私たちの場合は仮初めの夫婦に近いので、これが当てはまるとは言えないのが残念です。


 なぜか胸がちくりと痛んだ気がしました。心臓の病気だったら大変なので屋敷に帰ったら、とりあえずお医者様に相談してみようと思ったのでした。



******



 数日後、無事に屋敷に帰り着いたあとも、シルフィーの旦那様からは妻が危篤であるとの電報が届いていました。


 危篤というのは回復の見込みがない場合のことのようですが、そのことをわかっているのでしょうか。

 相手がシルフィーであり、危篤状態ではないとわかっているからか、シルフィーの旦那様はこんな電報を打って何がしたいのかと思ってしまいます。


 何の対応もしないと礼儀がなっていないことになりますので、お見舞いの花を贈っていますし、電報も返しています。

 会いに行けないことを伝えてあるのですが、しつこく送られてくるということは、シルフィーは私に会いたくて仕方がないようです。


 電報代の無駄になりますので、会って終わらせたほうが良いのかと思いましたが、私は今、外に出ることができない状態でした。

 かなり日にちが経っているというのに、アホバカ陛下がこの国の王城に賓客として居座っているそうなのです。しかも、一度は帰ったふりをして、ナハトモ陛下が他国に外遊されている時に乗り込んできたらしく、現在城内にいる人たちの権限では、追い出したくても追い出せない状況なんだそうです。


「ナハトモ陛下は話を聞いて、急いで戻ってこようとしているらしい。アホバカ陛下のことだ。それまでに城からは出るだろうが、陛下はリーシャに会うために繁華街などをウロウロしているそうだ」


 アーミテム公爵邸に来れないのは、私に会いたいと口に出せないからでしょう。偶然を装って会いたいようですが、絶対に繁華街にはいきません!


 本当に迷惑です。


 私に会うまで帰るつもりはないのでしょう。となると、やはり会うしかないのでしょうか。このままでは多くの人に迷惑をかけてしまいますよね。

 あの方が帰らないせいで、仕事のシワ寄せが他の人たちに来ているはずです。


「会ったほうが良いのでしょうか」

「リーシャは気にしなくていい」


 ライト様はそう言ってくれましたが、気にせずにはいられない話が、後日、ライト様から伝えられたのです。

 夕食を一緒にとろうとダイニングルームに行くと、すでに、ライト様は席に着いていました。


「リーシャに話がある」

「……どうかしましたか?」

「最悪なことに、アバホカ陛下が我が家に来たいと言っている」

「そんな! 来なくて良いです!」


 ライト様に言っても仕方がないとわかっていながらも言わずにはいられませんでした。




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