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第33話 金の眼と竜の痣

「留守の間は私がここを守らねば」


 私は遠征中のジュリウス様の代わりに今日は執務室に来て、ソファに座り、書類を広げた。


 しかし、どこから手をつけるべきなのか……勝手が分からない。


 私ことセシーリアはベッドで臥せっていたことが多く、たまに新聞を読んだり本を読んだりしていたけど、領地経営関連より夫人の心得的なものをメインに読んでいた。


 つまり屋敷のメンテや、使用人の雇用、資産管理などの事は学んだけど、他がよく分からない。



 ひとまず直近で起きた事件の中で緊急性がありそうな書類を優先して出してもらうよう文官に頼んだ。



「奥様、これが領地内で直近で起きた事件の報告書です」

「ありがとう……あ! 辺鄙な所にある村にゴブリンが出てるじゃないの! 村長は冒険者に依頼とか出してないの!?」


「冒険者は安い仕事とみて受けてくれなかったから、こちらに嘆願書が来たのでしょう」

「ゴブリンスレイヤーが必要ね! 騎士を少し借りて行くわ!」

「はい!?」 


 文官が驚いて声をあげた。



「騎士を借りて私が行けばスクロールで辺鄙な場所でも最短で行けるし、スクロール代金は持参金から出します!」

「何も奥様が直接行かれなくても!」


 血相を変えた文官は必死で引き止めようとするけど、


「貴重な騎士の戦力をゴブリン程度に!って言われない為に私の護衛と言う名目で連れ出すのよ! こうしてる間にも、主に女性が酷い目にあってるかもしれないの!」



 私は譲らなかった。ゴブリンにはメスが不在で多種族の女性や人間の女性を襲って犯し、子どもまで作る最悪の種族だ。


 子どもサイズのものが多いから、個々の戦闘力はそれほどでもないが、油断できる相手でもない。


 極めて邪悪な存在で、女性を犯さなくても殺して肉を食う事もあるし、ただ、楽しみの為に人や生き物を惨殺もする。


 特に人間の女性は特別すばしっこくもない人が多いし、集団でかかれば襲いやすいから、危険なのだ。



「旦那様の留守中に奥様に何かあれば大変なのですが」

「その為に騎士を連れて行くのよ、うちの騎士はゴブリンに後れをとるのですか?」


「そうではありませんが、外には危険が多く、ゴブリンだけが脅威とは限りません」

「十分に気をつけるから! ゴブリン以外の凄い危険が有れば逃げる事も想定に入れます」


「はぁ……その様子だとお止めしても無駄のようですね」



 そんな訳で、私は騎士を10名、神官一人を引き連れ、転移スクロールで最寄りの神殿まで飛び、辺鄙な所にある、村に向かった。



 ◆ ◆ ◆


 私達が村に着いたら、村長が拝むような勢いで感激してくれた。



「何人か村の娘が攫われましたが、依頼を受けてくれる冒険者がおりませんでした」



 世知辛い世の中である。

 そこは衛兵も駐在してない、小規模な村だった。


 男性は基本的に農夫が多い、畑仕事に出ている間に薪を採りに森に入って襲われる事が度々あるが、ガスコンロなど無いこの辺での煮炊きには薪が必要だった。



「近くの森の中にゴブリンの巣があるのね?」

「おそらくそうです」


「行きますよ」


「森への探索は我々が行きます、奥様は騎士を三人残しますので、村にてお待ちください」

「仕方ないわね……」



 そう答えた矢先に、



「大変だ! ゴブリンの集団が来た!」



 村長が村の見張りに立たせていた男性が走り込んできた。



「え!? そんな堂々と村に!?」

「どうやら通常のゴブリンではなく、進化したゴブリンが率いております!」



 ホブゴブリンとか、ゴブリンチャンピオンとか、ゴブリンエンペラーとかかしら!?


「出ます!」 

「奥様は安全なところへ!」



 騎士達が村長の庭から駆け出した。

 下を確認すると、通常サイズのゴブリンは50匹以上いた。


 その中にオーク並にでかいゴブリンの進化型と思われる者も確認した。



「あっ! 子どもが襲われていいるわ!」

「!!」


 上空からだと発見しやすい。


「弓兵!」

「はい!」


 弓兵の矢が間一髪でゴブリンを倒した。

 しかし、ゴブリンの数が多い! 村の中は騎士とゴブリン達で乱戦となってしまった。


「あっ! あっちにも女性が襲われてる!」

「はい!」



 また弓兵が矢をつがえてゴブリンを一匹仕留めた。 けど、まだまだ数が多い。

 そして足の遅い老人が逃げ遅れ、惨殺される姿を見た。


 私はその瞬間、身体中の血が燃え滾るような怒りを感じた。


『誰か……早く……』


 私が我知らず呟いた、その刹那、太もものドラゴンのあざが熱をもち、森から無数の黒い群れがこちらに飛んで来た。



「何故か鴉の群れが! 奥様! 身を隠してください!」



 弓兵がそう叫んだのが聞こえたけど、鴉はむしろ、人間よりゴブリン達に襲いかかった。



「あれ!? 何故か鴉がゴブリンを襲ってる! これは……あっ!」



 鴉達の上空からの突っつき口撃や爪口撃に翻弄されるゴブリン達を見て、好機とばかりに騎士達が次々と駆逐し、村人の怪我人は神官が治療した。


 そしてついにあの進化型で変異種のでかいゴブリンもカダフィードの騎士に打ち取られていた。



「奥様勝ちました! ゴブリン全て沈黙しました!」

『ええ……』


 弓兵の目が驚き、見開かれている。


「奥様? 瞳の色が……緑のはずが、まるで閣下のような金色に……」


「え?」



 私はさっきまで怒りで、熱に浮かされたような状態だった。その熱が急速に冷えていく。



「金色がなんですって?」

「あれ? 戻りました、緑に」

「?」



 その瞬間、鴉達が一斉に飛び立ち、群れをなして森へ帰って行くようだった。 


 鴉の事は謎だったけど、私はひとまず落着きを取り戻し、レースの代わりにベールをかぶった。

 テンパっていて、さっきまでポシェットに入れ、持って来ているのを忘れていたのだ。


 それから疑問を残しながらも、私は攫われた女性の救出を優先した。


 騎士達がゴブリンの巣を見つけ、残党を倒し、攫われた娘達を二人程救出してきたが、他の二人の女性は既に亡くなった後だった。


「うちの騎士に被害はあった?」


 騎士に怪我人はいたかしら?


「無しです。ほとんどが数だけ多くて手強いのは一体だけでしたので」

「分かったわ」



 それから村長に向き直る。村長の手は未だ恐怖の為かプルプルと震えていた。


「こ、この度はこんな辺鄙なところまでカダフィードの騎士様達に救援に来て頂き、真にありがとうございました」


 村長は深々と頭を下げた。


「……犠牲者はこれで丁重に葬ってあげて」


 私はポシェットから金貨を1枚だした。


「あ、ありがとうございます、このようなお気遣いまで」



 金貨を弔い代にして貰って、犠牲者の冥福を祈りつつ、帰ることにした。



「城に帰ります」

「はい! 奥様!」


 転移スクロールで騎士達と風のように帰城した。








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