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第34話 権能と暗雲

〜 ジュリウス公爵視点 〜


 月の輝く夜。


 緑や青い色の肌を持つ、巨体の異形。

 オークを10体ほど倒した後に、森の中で休憩に入ろうとしていた時。

 夜にも関わらず、上空から鳥の羽ばたく音が聴こえた。



「閣下、火急の知らせですね」

「また留守中に何かあったようだな」



 案の定、上空から白いフクロウの姿をした魔法の伝書鳥が現れた。



『奥様が辺鄙な村まで赴いて、ゴブリン退治をしました。報酬が低く、冒険者にも見捨てられた村や危険に晒された村人達を救う為にです。騎士が同行しましたので、村人には多少犠牲者は出ましたが、騎士の被害はゼロです』


「そうか、さらに詳しい報告を」


『ゴブリンの進化型が一体いて、それがゴブリンの群れを率いて村を襲いに来たのですが、途中で鴉の群れがゴブリンを襲い、その好機に騎士達がゴブリンを一気に掃討しましたが、その際、不思議にも……』


「不思議にも?」


『奥様の瞳の色が緑から金色になっており、鴉達の突然の行動には意味があったのではと、同行した神官が言っておりました』



 ……そうか……。権能だな。

 昔、父に伝え訊いていた通りだ。




「妻には刻印をしたから、権能が発動したのだろう」 


『権能? で、ございますか?』


「ドラゴンは天空を統べる者ゆえ、同じ空を飛ぶ鳥が使役されたんだろう。全ての竜血の者の妻が権能を発現するとは限らないが、稀にならある事らしい」



『なるほど……とにかく奥様は、貴族の奥方にしては風変わりではありますが、窮地にある者を救おうとする、高潔な精神をお持ちの方のようです』


「そして、妻の様子は?」


『怪我もありませんし、身体を休めておられます。そう言えば奥様は騎士の恋愛相談も聞いてくださってました。とても親切な方です』



 恋愛相談? それはどうでもいい。



「分かった、会話を終了する」



 魔法の伝書鳥は夜でも夜目が効かないとかは無く、すぐに羽ばたいて夜の闇に消えて行った。



 帰れば新婚旅行に行けるだろう。

 ベッドの上で海の絵をよく眺めていたらしいから、海へ……。



 ◆ ◆ ◆



〜 ダーレン皇太子サイド 〜



 一方その頃のバルデン帝国のダーレン皇太子は、とあるシーシャサロンにて同じ派閥の者と会合をしていた。


 貴族と言うものは、同じ派閥同士でつるむもの。

 込み入った話ができるのは同じ利益が一致するもの者同士でないと危険であるからだ。


 そして妖しい水タバコ香るサロンが、皇都にてちょうど流行っていて、そこは個室もあり、上流階級の絶好の社交場でもあった。



「いやぁ、公爵夫人セシーリアかぁ、興味深いなぁ」

「ダーリン皇太子殿下、あんな不気味なメイクのダサい女がそんなに気になりますか?」


「いや、しかしサネッティ男爵よ。あれだけ美しい歌声なんだぞ」

「歌声ごときであんな極端なメイクをするような女を」

「紳士たるもの芸術にも気を配らないと」


「そういうものですか」


 ひたすらメンクイで人目を気にする男爵は信じられない思いでいた。


 貴族としては下位である男爵は、その微妙な劣等感から人の射幸心を煽るような、わかりやすく華やかでセンスのよい女を好んでいたからだ。


「それでお茶会に誘ったんだが、体調を崩したとかで断りの手紙が来てな、お見舞いに行きたいのだが……」

「皇太子殿下を断るなんて無礼では」


「いやいや、所謂新婚なのだから、無理にとは言えなくてな」

「そこまで興味があるなら、ちゃんとした夫婦なのか何か企みがあるのか探りを入れますか? ほぼ寝たきりだった病弱令嬢があの竜血に嫁ぐのは不自然ですし」


「そうなんだよ、不思議な組み合わせだ。健康な女でも長生き出来なさそうな所に嫁ぐなど」


「伯爵が金目当てに余命長くなさそうな娘を嫁がせただけかもしれませんがねぇ。ああ、そうだ、公爵はよく遠征に行くでしょう? 帰還にあわせて同行の騎士達へのねぎらいにコルティザンを使うんです」 


 所謂皇帝派と言われる男爵は皇太子の寵愛が欲しかったため、ひとまず気にいられようとして、良からぬ提案をした。

 そしてコルティザンとはいわゆる娼婦の事であった。


「確かに男はベッドの上で女相手だと口が軽くもなるものらしいですし、娼婦なら何かあっても切り捨てるのも問題有りません」 



 それに便乗する、さらに悪い男そのニは皇帝派の子爵令息であった。


「娼婦かぁ」

「良ければ私が手配いたしましょう」

「ふむ……」



 皇太子はまんざらでもないという反応で、酷薄そうな笑みを浮かべた。


 水タバコの煙る一室。

 欲にまみれた特権階級による、不穏な計画が静かに進行しようとしていた……。



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