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第35話 娼婦達と皇太子

 旦那様が、ジュリウス様がそろそろ帰還されると連絡をうけた。


 でも、忙しくしていた騎士達も休ませたいとの事で、新婚旅行は数日間くらいはおあずけになる様子。


 私も病み上がりだから無理はしない。


 そして騎士団達の帰還に合わせるように、何処から聞きつけたのか、流れの娼婦達が城から一番近い村に現れ、城に入れて欲しいと使者をよこして来た。


 最初に対応したのは城の居残り組の騎士だったので、彼等から私は報告を受けた。



「つまり、いつも我々の為に命懸けで戦ってくれる騎士達を癒したいとコルティザンが……」

「さようでございます」


 ジュリウス様がそろそろ帰還するってタイミングではあるけど、現状まだ到着していない。



「旦那様が不在の間は私の裁量で入れるかどうか決められるのよね、女主人だから」

「はい、奥様が不愉快であれば断ってください」



 まー、でも男の人は困るよね。

 三大欲求とやら?


 騎士も武士も近くに女性いないと同性に走ったりもするらしいし。

 すると避妊用ゴムの無い世界だとエイズの心配もある。



「不愉快とかは別にありませんけど、娼婦と見せかけたスパイや賊とかだと困るから、城の中に入れるわけにはまいりません。利用したい騎士団の皆は性病の有無、健康診断をきちんと受けた娼婦と遊ぶ分は構いませんが、最寄りの村に交代で出向いてください、検査する医師の出張費は出します」



「よ、よろしいのですか?」


 騎士達が意外そうな顔をした。


「城に入れなければいいだけの話です。おかしいですか?」

「世の貴族女性は娼婦を忌み嫌うものですから、少し」


「騎士団は非番の日以外は普段、女性と交流できる機会が少ないでしょうし、同性に走って致命的な病気になるよりマシではないかと」


 エイズになればこの世界だと薬がなくて死の病になるのだと思う。


 エイズは私が生きてた地球の医学でも完治することはまだできてなくて、でも抗ウイルス薬を服用することで、HIVの増殖を抑え、免疫力を保つことができ、普通の生活を送ることができるとこまではきてたはずだけどね。



「では医師を同行させれば利用も可能と」  

「ええ、でも医師の診察を受けたがらない娼婦は信用しないで。酷い性病をうつされても自己責任になりますからね」

「かしこまりました」


「おーい! 奥様から村で遊ぶ事の許可がいただけたぞ!!」


 カダフィードの居残り組の騎士が城の窓の外にいる騎士達に大声で報告してる。

 なんというあけすけな……。

 おおらかというか、豪快というか。

 ここが首都の騎士と違うところかしら。


 ふふっ、正直過ぎて面白いわね。



「えっ!? 居残り組の俺達も行ってもいいのか!?」

「城に入れなければ交代でいくのはかまわないとの事だ!」


「やったーーーーっ!! うちの奥様は寛大だな!!」



 職業に貴賤はない。

 身体を売らねば生活できない女性は絶対にいると思ってる。本人の意思なら特に咎めたりもしない。


 しかし……そんなに嬉しいのか。まぁ、元気な男子なら当然か。



「あなたも行くなら気をつけてねー」

「はい!」



 私は報告を終えて謁見室から去っていく騎士の背にヒラヒラと手を振った。



 ◆ ◆ ◆


 〜 その後の皇太子一派の様子 〜


 後日。某シーシャ(水タバコ)店個室にて。

 いつもの同派閥の者達の集い。



「皇太子殿下、ご報告いたします」 

「よし、男爵よ、話せ」

「結果として、城内に娼婦を送り込むことはかないませんでした」


「さもあろう、貴婦人達はコルティザンを忌み嫌うからな」

「ですが、最寄りの村へにて待つ娼婦の所まで、交代で騎士の方から通うのは許可したそうで」

「ほう。して、興味深い話は聞けたかな?」


「カダフィード夫人は親切にも性病検査の為の医師の派遣代も出したそうです」

「ほお、寛大だな」


「騎士の話によれば夫人は普段騎士の恋愛相談にも乗ったり、差し入れをくれたり、気さくで優しい方だと絶賛していたらしいです」


「恋愛相談に? 親切だな。して、肝心の竜血公爵との夫婦仲は?」

「悪くもないようです、体の弱い方なのであまり遠出が出来ないけれど、ちょっとした花畑でデートをされたりもして……」


「ふぅん、仲は悪くはなさそうなのか……」


 皇太子は何故か面白く無さそうな顔をした。


「いかが致しますか?」 

「まぁ、また根気よく茶会かパーティーにでも誘ってみるさ」


「あ、体調を整えてから新婚旅行へも行くらしいです」



 男爵は思い出したように報告した時、皇太子は獲物をみつけたような目をした。



「何処へ?」

「申し訳ありません、そこまでは聞き出せ無かったらしいです」


「ふむ、そうか……」


 皇太子は口角を上げたが、男爵にはその表情の意図は推し量れなかった。

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