鳥も寝床に帰り始める頃、夕焼けの中で騎士達を率いてジュリウス様が帰還した。
マントを颯爽と靡かせ、先頭に雄々しく立つ彼が、出迎に出た私に向って、まっすぐに歩いてくる。
今日はお客様を連れて来ていたらまずいので、念の為にレースの目隠しだけはしてた。
「お帰りなさい。ジュリウス様、無事にお戻りを喜ばしく思います」
「ああ、ゴブリン退治に出たそうだな、我が妻は勇ましい事だ」
「か、勝手をして申し訳ありません……」
周囲を見ると、特に外部の人お客様は連れてない。
私はその件にはホッとして目隠しを外した。
この顔で全てを許す気になってくれたらいいな!などという下心もある。
すると、やはりジュリウス様の金眼が私をまっすぐに見つめていた。
少し細めた瞳が何故か、懐かしい者を見るてる様に感じた。
「今回は怪我も無かったようだからいいが、そなたは豪胆なのか臆病なのか分からんな」
「はい、申し訳ありません」
「セシーリア、そなた鴉を使役したのだろう?」
「え?」
使役……? この私が……鴉を?
「一瞬、そなたが金眼になっていたとの報告があり、急に鴉の群れが飛んで来てそちらの味方するような動きをしたのなら、権能が発動したのだろう。足の刻印は身を守るものであり、そのような効果も稀に出るという」
「な、成る程……そうだったのですね……」
にわかには信じがたいけど、そもそもこんな世界で死に戻りまで経験しているのだ、そんな事もあるのかもしれない……。
「ドラゴンは天空を統べる者ゆえ、同じ空を飛ぶ鳥を使役したのだろう」
鳥を使役する権能……。
強いのか弱いのか分からないけど、なんにもないよりはよかった!!
いざという時に、また身を守る事ができるかもしれないし……。
遠征から帰還した日は、労いの晩餐だ。
いつもより豪華なメニューだったので騎士たちも喜んでいた。
そしてメニューは精がつきそうなものばかりであったけど、その夜に私が寝室へ呼ばれる事は無かった。
ジュリウス様はよほどお疲れだったのか、私の体の弱さを気遣ったのかは……よく……分からない。
それから騎士達に少しの休みを与え、遠征帰還組の彼等の一部は、やはり村で娼婦達と遊んだらしい。
医者もちゃんとつけた。
特に問題なく、私達は数日の癒し期間を過ごした。
◆ ◆ ◆
夏の朝の10時頃。
私達は今、新婚旅行へと来ている。
場所は海だった。
青い空と、青い海、そして広がる砂浜。
時折やや強い潮風が吹いて、爽やかでとても綺麗。
プライベートビーチでも無さそうなのに、人は少ない。
多分貴族は水着もないし、夏に海で泳いだり、肌を焼いたりしないのだろう。
そして海は日本ではたまに遊びに行っていたけど、セシーリアとしては初めてかもしれない……。
私は白いワンピースドレスを着て、夏によく似合っているなと我ながら思った。
よその人とも遭遇するだろうから一応はレースの目隠しはしているのだけど……。
夏をもっと感じる為に、私はサンダルを少しの間脱いで、熱を持つ砂浜を足の裏で久しぶりに感じた。
まだ朝のうちだし、熱すぎる事もなく気持ちいい……。
「セシーリア、レディはそうむやみに人前で靴を脱がないものだぞ」
砂浜にはしゃぐ私を見守っていた彼のいい声が、背後からかけられた。
「はっ!」
「全く……」
ジュリウス様は呆れたようなセリフを発したけれど、瞳は穏やかだった。
でも、また日本人感覚の方が強く出ていた事には反省をしなければ……。
「温かい砂が嬉しくて、ついはしゃぎました。申し訳ありません……」
「そうか、温かい砂が嬉しかったのか……」
ジュリウス様は喉を鳴らす獣の様にくつくつと笑った。
愚かな妻だと怒ってはおられなくて良かったわ。
それから午後は遊覧船で食事をとるらしい。
そちらの方には沢山の観光客がいた。
おそらくは身成がいいから、上流階級が多い。
日傘に華麗な花飾りのついた帽子にドレスを着たエレガントな装いの女性と礼服の紳士が多いから。