「セシーリア、旅行中止の代わりに今度は絶対に皇太子が来ない所に行くぞ」
「はい?」
どんな田舎だろうかと、私は思った。
そして転移スクロールでとある神殿へ向かった後に、何処か知らない森に来た。
「お魔達は先に帰れ、俺達は竜谷へ行く」
騎士達を前に即決で命令を下すジュリウス様。
「た、確かに竜谷となれば只人がおいそれと踏み込めませんが、護衛騎士も付けずに」
「俺が妻一人守れない男だとでも?」
ジュリウス様は眼光鋭く部下を睨んだ。
「いえ、申し訳ありません」
騎士はすぐさま謝罪したけど、その目には怯えの色が見える。
今日は何時にも増してジュリウス様に威圧感があるけど、皇太子のせいで殺気立っているのだろうか?
「そんなに心配なら三日後にこの森へ、着いたら狼煙を上げるから迎えに来い」
「はい! 三日ほどこの近辺で待機しております」
先に帰ってもいいと言われてるのに、律儀な騎士達……。
ジュリウス様は私の手を引いて少し森の中を歩いた。
「あの、ジュリウス様、竜の谷とやらに徒歩で行かれるのですか?」
「騎士達とも離れたし、このへんでいいだろう」
「え?」
ジュリウス様はマントを外してシャツを脱ぐと上半身裸になり、脱いだシャツは腰に巻き付け、マントだけ私に手渡して預けた。
困惑しつつ渡されたマントを抱きしめる私を横目に、彼は背中から急に翼を生やした!!
ド……ドラゴンの翼が……生えた。
「ドラゴンの翼……翼を生やせるとは知りませんでした……」
竜血ってこんな事もできたの!? 凄い!
「人はこの姿を見たら悪魔だの化け物だのと言って怯えるからな、人前では……普段はださない」
かっこいいけど、確かにこれは初見で美しい悪魔と見まごうかも……。
「あっ」
大きな翼に見惚れていると、ジュリウス様は私に預けていたマントを取り返し、それで私の身体を包みこみ、通称お姫さま抱っこで抱き上げた。
「飛ぶぞ、暴れるなよ」
「!?」
ジュリウス様はマントで包んだ私を抱き上げて大きな翼を広げ、ブワッと風を起こして上昇した。
そして急速に地上から遠ざかる。
きゃああああっ!! 私はあまりの事に声にならない悲鳴を脳内でのみ上げた。
そのまま彼は私を抱いたまま、飛行を続け、山脈を超え、谷の美しい花畑に降りた。
ここがつまり竜谷!! 花畑に飛竜が2頭もいる!!
確かに飛竜は竜種だし、戦闘力の高いドラゴンのいるような場所には、人間は近付けない。
けれど、私は……、
「あの、私は大丈夫でしょうか? 襲われませんか?」
餌にされないか、思わず心配をしたけれど、
「俺が側にいるから襲われる事はない、それに刻印もあるからな」
「あ、そうでした……刻印」
そうは言われても、まだ緊張する。
私は翼をしまったジュリウス様の背中側に隠れつつ、ワイバーンの様子を伺った。
「あのワイバーン達はツガイだ、仲がいいだろう」
「あ、確かに……寄り添っていて仲が良さそうです」
こちらへは一瞥しただけで、さして気にしてる様子もない。人がいないので、私は顔隠しのレースも取った。
「俺が側にいてもまだあのワイバーンが怖いなら、巣に行くぞ」
「巣?」
「ドラゴンの洞窟」
「な、何故洞窟へ?」
「そこなら絶対に皇太子は来ない」
「た、確かに……命がけで竜の洞窟になんか来ませんよね」
え? ちょっと待って、もしかして急に三日間の洞窟サバイバル生活が始まる感じですか!?
それならそうとあらかじめ言って欲しいし、もっと装備を整えて来たかった!!
「もう一度洞窟まで飛ぶ」
「きゃあああーーっ!!」
再び翼を出したジュリウス様は問答無用でまたお姫さま抱っこで飛んだ。
そして2度目なので今度は声が出た。
眼下には濃い緑の生い茂る森……!!
そしてファンタジー漫画やゲームで見るような洞窟の入り口まで来た。
「少し歩くが辛いなら抱えてやる」
「だ、大丈夫です、歩けます」
洞窟をソロソロと歩き進めて行くと、なんと金銀財宝のある宝物庫のような眩い場所まで来た。
宝の山! 魔石のはまった魔法のランプが、財宝達をキラキラと照らしている。
「ざ、財宝が沢山ありますけど……」
「竜の守る財宝だ」
「も、もっと奥にドラゴンが、いるってことですか?」
ファンタジー世界でよく見るドラゴンの守る洞窟&お宝!?
「さてな、ここのお宝は来る度に二つまでなら持ち帰りを許されている、好きなお宝を選べ」
謎に言葉を濁されたけど、二つだけならお宝を貰っていいの!?
「え!? ここのお宝を!?」
「ああ、好きなのを二つ選べ」
ティアラ、髪飾り、首飾り、指輪、耳飾り、アクセサリーから、武器防具まである。
「あ、ナイフがあります!」
宝石がついた短剣が目に入った。
「その短剣が欲しいのか?」
「だって三日間、この洞窟でサバイバル生活をするならナイフは必要だと……」
ジュリウス様の腰には剣があるとはいえ、何か食べ物的なものを切るナイフなどはあった方がいいはず。
そう語る私を見て、ジュリウス様はおかしそうに笑ってからぐるりと巻かれていた赤い絨毯を引っ張り出して床に敷いた。
「そのへんで少し待っていろ。獲物は雄が獲って来るものだ」
「え!?」
ジュリウス様は私を置いて、おそらくは狩りに行かれた……。
なので私は急に財宝に囲まれた場所に一人取り残された……。
不安を紛らわす為に、お宝を見る。
大、中、小と、宝箱も複数あって、私は小さな宝箱を一つ手にして、開けてみた。
その箱には鍵はかかっていなかったけど、中には謎の鍵が入っていた。
綺麗な装飾のついたこの鍵……不思議と惹きつけられる……。
どの宝箱の鍵なのかしら?