謎の鍵を見つけた後に、宝石の装飾のついた華麗な本が目についた。
今度はそれを手にして、私は古い本のページをそろりとめくる。するとすぐに抗えない眠気が襲って来た。
……何故…急に……眠気が……。
────しばらく私は寝落ちてしまっていたらしい……。
私を呼ぶジュリウス様の声が聴こえた。
「セシーリア、肉、焼けたぞ」
「んん……肉? 焼けた……?」
私の前髪をそっと動かす誰かの優しい指先の感覚を感じる。
半分寝ぼけながら目を開けると、至近距離に驚くほど優しく、慈しみに満ちたジュリウス様の瞳と目があった。
「食事ができている、肉は冷めないうちに食べた方がいい」
既に血抜きや解体作業どころか調理済みの料理かが眼前に用意されている。
それどころか、デザートのフルーツ、ザクロまであるのだ。
私は、寝ていただけの役立たずだった。
「申し訳ありません、そこにある本を開くと何故か眠くなって」
「いいんだ、少しは休めたようで良かった」
真実であってもしょうもない言い訳をするこんな私相手にも何故かひたすら優しい旦那様。
そういえば新婚旅行だから?。
皇太子を避けたら洞窟生活が始まって驚いたけど。
「お肉はどうやって捌いたのですか?」
「普通にナイフだ」
シンプルで実用的なタイプがジュリウス様のポケットから出てきて、その刃は焚き火の炎を映して煌めいている。
「ナイフも持っておられたのですね」
「無いとは言っていないぞ」
「それは……そうですね、ありがとうございます」
最もだった。彼が備えてないはずなかった。
串に刺されたキツネ色の香ばしい焼きめのついたお肉は、艶のある大きな葉っぱのお皿にのっていた。
私はありがたくソレをいただいた。
「水はこっちだ」
そのへんにあったらしいゴブレットをいつの間にか洗ったのか、水袋からソレに注ぎ、渡してくれた。
至れり尽くせりだった。
でもホテルなどではないので、全部旦那様がやってくださっている。
私は水を飲みながら、申し訳なく思った。
「私、何も役に立ってなくて申し訳ありません」
「お前は生きて俺の側で、機嫌よく笑ったり、たまに歌でも歌ってくれたらそれでいい」
「……歌?」
「ああ、俺もお前の歌声が好きだ」
「……」
遊覧船にいた時とは全く違い、彼の瞳が穏やかに緩んでいる。まるで恋愛結婚の妻を見るかの如くで、妙に気分がソワソワするけど、私は遠い記憶の中でこの瞳を知っている気もした。
何故だかは……分からないけれど。
「わ、私の歌で良ければ……」
私は優しい眼差しと言葉にドキドキする胸を抑えながら食事をした。
香ばしく焼かれ、ハーブや塩などの味付けのされた鳥肉らしきものを食べた。
そしてデザートのザクロのためにさっきのナイフを使った。
ザクロは絶対に皮を食べてはならない。
やっと仕事ができた。
私はジュリウス様にこのデザートをカットしてから、渡すことにした。
真剣にザクロの皮を剥いた。
「どうぞ、ご存知でしょうが、ザクロの皮は絶対に食べないでください」
「ありがたく、一緒に食べよう」
おことばに甘えて、私も一緒に食べる事にした。
ザクロは爽やかな酸味と甘さが、あり、口の中でプチプチした食感が楽しめる。
そしてそのチプチの果実が口の中で弾けてジューシな酸味と甘みが広がる。
「美味しいです」
「この森では何時でも実をつけているザクロの木がある」
「本来の収穫時期じゃなくても実っているということですか?」
「そうだ」
「不思議な場所ですね」
「そうだな」
食事を終えたら、ジュリウス様は再び洞窟内を、私の手を引き進んだ。この洞窟よくみるとアリの巣のように入り組んでいる。
水音が聴こえ始めた時、鍾乳洞のようになっているゾーンに入った。
何処からか水が流れて来ているようで、その水は淀みもなく、とても綺麗に見える。
更に、泉のように水が溜まっている場所があった。
「水浴びをしたいなら、ここで」
「あ、お風呂……」
そう言った後……ジュリウス様はおもむろに自らの服を脱ぎ出した。
腰のベルトを外し始めたのだ。
!! 私はびっくりして後ろを向いてしまった。でも、ここは妻として、背中を流したり、手伝うべき!? と、両手で熱くなる顔を押さえつつぐるぐると考えていたら、背中に向って声をかけられた。
「どうした? 一緒に入らないのか?」
その声は私の耳と心に酷く甘く優しく響いた。
……い、一緒にですか!?