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第41話 水の中

 水浴び……今が夏なので温度的には可能ではある。

 周囲には人間はジュリウス様しかいないし……。


 で、でも普通に恥ずかしい……。

 ここには魔法の灯りを灯すランプと、不思議と発光する岩壁の苔が光源として存在する。


 だけど、洞窟とはいえ一応新婚旅行だし……あー! もうどうとでもなれ!!

 ノリの悪いやつだと離婚されるよりはマシ!!



「あ、でもタオル、身体を拭くものも無いのですが……」

「そこに箱が有るだろう?」



 ジュリウス様が指を差して大きな岩の影に箱があるのを教えてくれた。

 水場の方に気をとられて今まで気がつか無かったけど、ここにも横に長い宝箱があった!


 中を開けたら、服とタオル変わりになりそうな白い布がちゃんとある。しかもそんな古びた感じはないというか、むしろ新しさすら感じられる。



「けれどこれもお宝だとすると、濡らしていけないのでは?」

「これはドラゴンの宝ではなく、先代、父の持ち込んだものだから使っても構わない」

「あ、そうなのですね……」


 ジュリウス様のお父さま、先代公爵様の置土産ですか……。


「では、布を二枚外に出しておきますね」

「ああ」



 彼は今、全裸なので目のやり場に困るけど、下半身は水の中なので、なんとか下を見ないようにして、私は後ろを向いた。



「ふ、服を脱ぎますので、な、なるべくこちらを見ないでください……」

「……」



 ──沈黙、そして水音のみがその場を支配していた。


 ジュリウス様の返事が無いのが心配だけど、そもそも結婚してもらう為には誘惑も必要かもしれないと考えていた私は、覚悟をきめた。


 後ろを向いたまま、そろそろと服を脱ぐ。

 脱いだドレスも箱の上に置かせてもらい、下着は畳んで、ドレスの中に隠すようにした。



「セシーリア、脱いだなら背中を流してくれないか?」

「は、はい、布でこすればいいですか? 身体を拭く用の布は大きすぎるので、私のハンカチとかで」


「その手で」

「す、素手で……!? わ、分かりました……」



 素手であの筋肉を撫で回す許可が降りたのだし、や、やってみよう……。


 足先を水に浸けるとひんやりしていた。


 バクバクと五月蝿い心臓を宥めながら、私は後ろを向いて立っていたジュリウス様の側に行った。


 自分の髪が長くてよかった、並の毛で胸がある程度隠せる。

 ここが銭湯なら髪をまとめるのがマナーだと思うけど、洞窟内の水源だから……。



「では、失礼します……」


 石鹸はないから、ただ水を掛けて撫で回すという事になってしまうけれど。


 鍛えあげられた見事な筋肉……。イケメンは背中すらかっこいい。神様が心を込めて作った芸術品のようだ。


 私は肩甲骨をそっと手のひらで撫でる。

 そして腰の方へと、手を滑らせる。

 ドキドキ……ドキドキ……。


 肌の感触は……滑らか……。

 やっぱりドキドキする! めちゃくちゃドキドキする!


 私は思わず目を閉じて瞠目した。

 少し精神を落ち着かせようとしただけだったのだけど、水音がして、唇を塞がれた。

 ジュリウス様が身体を反転させキスをしてきたのが分かった。



「……!!」



 思わず目を開いたら、彼の金色の瞳が熱を帯びて私を見詰めている……。


 そして、唇を一旦離してから、もう一度深く、口づけた。



「綺麗だな、セシーリア」

「……!!」



 恥ずかしさで私は何も言えずに、思わず腕で胸を隠す。



 すると「やっと俺の番だな」と言った。


 俺の番とは!? と、聞く暇もなく、彼は私の腕をつかみ、胸をさらけ出すように手を外させた……。  

初夜も済ませたとはいえ、やはり恥ずかしい。

 頭に血が登る感覚がある。



「あっあの! 私の事は洗わなくても大丈夫です! 自分でやりますから!」

「洗うとは言ってない」

「えっ」



 実際のところ、やはりそれは愛撫だったのだろう。太ももの竜の刻印が熱く疼き、彼の熱を持った手が私の体に触れる。その行為は……。

 終着点が「営み」のそれだったのだから……。



 そして最中にあろうことか私は気を失っていて、気がつくと赤い絨毯の上で、白い布を巻き付けた状態で寝ていた……。眠っていたのだ。




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