水浴びの後は、私は赤い絨毯の上で寝ていた。
おそらくは気絶した後に運ばれたようで……今、私は白い布を巻き付けた状態で横になり、ジュリウス様は私を後ろから片腕で捕まえて抱き寄せている……。
なにこれ? まるでラブラブな新婚さん。
これ確か愛無き契約結婚だったような?
ジャンルが変わりました?
そして何か……さっきまで切ない夢を見ていた気がするけど、思い出せない。
「セシーリア、起きたのか……」
「は、はい」
「ナイフと……二つめの宝はこの鍵がいいのか?」
脳内でパニックになりながらも、背後から話し掛けられ、目の前に前回私が気にしていた金色の鍵がポトリと落とされた。
「は、はい、何故か気になるので……」
私は横になったまま、手を伸ばして鍵を掴んだ。
「いいものを選んだな、流石だ」
彼は何故か愉快そうにククッと笑う。
「え? ジュリウス様はあの鍵がどの箱を開けるものか、ご存知なのですか?」
「箱と言うよりは……まあ、やった方が早い。何もない空間に鍵を射し込むイメージをしてみろ、横になったままでもできる」
私は横になったまま、というか、後ろからホールドされたまま、言われたとおりにした。
「何もない空間に……鍵を挿し込む……」
「そして回す」
「回す……」
すると、鍵の周辺に魔法陣が出現した。
「魔法陣が出ました!」
「そこは荷物が置ける、持ち歩ける収納場所だ」
インベントリとかアイテムボックスだ!?
「これは便利ですね! 何故ジュリウス様がお持ち帰りのお宝に選んでなかったんですか?」
「……妻が山程ドレスをしまって旅行などをしたいなら、譲るべきだろう」
「え? 妻の為にこんな便利なものを自ら使わずに!? しかも食料でなくドレスを入れろと?」
「入れるものは食料でもドレスでも好きにしろ」
「食料の他は武器防具も入るんじゃないですか?」
戦闘を行う戦士的にめちゃくちゃ有用なのに!?
「武器などなくても俺は戦えるからな」
素手!?
「……な、成る程ですね……?」
この絶対的な自信は竜血のなせるものかな。
「まだ夜中だ、朝までもう少し寝ろ」
昼も夜もよくわからない洞窟内の奥まった所にいるけれど、彼がそう言うならそうなのだろう。
「は、はい……」
どのみち後ろから抱かれていて、身動ができない、寝るくらいしか出来ない。
しかし、寝ろと言いつつ、さっきから片腕で私を抱え、もう一本の腕が、手が、私の胸をしれっと揉んでいる……。
彼の大きな手が、私の胸をやわやわと揉んでいるのだ。
この刺激がある以上、眠れそうにない……。
「あ、あの……」
私は困惑したまま恐る恐る話し掛けた。
「なんだ?」
「そ、そのように……む、胸を揉まれたままでは、眠れません……」
眠って欲しいなら、そんなえっちな動きをしないでください……。
「……ああ、そうか。人間は身体を揉まれたら気持ちよくなってよく寝ると聞いたことがあるのだが」
人間は……?
自分も人間だろうにおかしな言い方をされる……。
「そ、それはマッサージとかで……肩とか腰とか……胸は違うと思います……」
「そうか」
彼はそう言ってから私の胸から手を離し、揉むのをやめた。
……これで、また寝れるかもしれない……。
私は深く息を吐いてから、再び目を閉じた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
一方その頃の皇太子は……。
「占い師よ、此度、セシーリアと竜血は何処へ行った?」
白い煙の中に顔をベールで覆った褐色肌の女性占い師が紫色の絨毯の上に座り、水晶玉でカダフィード夫妻の行方を占っていて、周囲では香も焚かれいる。
香の煙のせいで、そのホテルの一室は、まるで濃霧の中のようだった。
「はい……どうなら竜の谷のようです……危険ですので今回、追うのはやめた方がよろしいです」
海沿いのホテルに宿をとった皇太子は、よく当たると評判の占い師を呼びつけていた。
今回の新婚旅行の行き先もこの占い師に聞いてわざわざやってきていたのだ……。
「チッ、海だの遊覧船ならどうにでもなったが、まさかの谷か……。しかたない。お前はもう下がれ」
「はい、失礼いたします」
「そこのメイド、窓を開けよ」
「はい」
占い師が立ち去ってから、皇太子はメイドに命じて窓を開けて香の煙を逃がした。
窓から逃げた煙は高く、空を目指して昇っていく。
「……私のカナリア……それでもいずれ、君は私が手に入れてみせる……今芝は、自由に飛んでいるがいい」