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第44話 うずらの卵と赤味噌

 ────夢を……見た。

 竜と生贄の少女の夢。

 目覚めたら私は竜の洞窟にいて、夢の中で泣いたのだろう、実際に起きても泣いていた。


 誰かの悲しみに引っ張られたのだろう。

 それが人に恋したドラゴンの方か、先に死んでしまった少女のものか、私にはよく分からなかったけれど……。



「どうした? 何故泣いている?」


 私を抱きしめて眠っていたはずのジュリウス様が声をかけてきた。

 私は彼の胸元を涙で濡らしてしまったらしい。



「申し訳ありません、悲しい夢を見たようです」


 彼の胸に落ちた涙を指でそっと拭う。


「夢は夢だ、あまり気にするな」


 彼は優しい声で、私の頭を撫でて慰めてくれたので、私はまた夢見心地になってしまう。


「はい……」


 ◆ ◆ ◆


 そして竜窟での蜜月が終わる朝。

 ジュリウス様が作ってくれた燻製肉などをありがたく食べつつ、帰ったら領地の為に色々動かねばと、決意をした。


 せっかくナイフを選んだのに、私は何もしていないのだ……。

 夜の相手のみなのである。

 契約結婚なのだし、やはり領地に何かいいことをもたらさなければ、と思う。


 ただでさえ皇太子の動きが怪しい。

 私はカダフィードの領地にとって、ただの疫病神にはなりたくない。


 ◆ ◆ ◆


 森の入り口付近で狼煙を上げ、しばらくすると騎士達のお迎えが来た。



「お帰りなさいませ、閣下」

「出迎えご苦労」

「鳥の知らせですが、屋敷の方の温室が完全に仕上がり、完成したそうです」


「まあ、素敵!」

「見に行くか?」

「はい!」


 そして安全と時短の為に転移スクロールを使い、皆で城に帰る前に温泉のある方の別邸へ向かった。



「ご主人様、奥様、お帰りなさいませ」 

「ただいま。ジュリウス様、早速温室を見てもよいですか?」

「ああ」


 私は足早に温室へと向かった。

 それは立派な温室だった。中に入って見てもガラスの天井はかなり高く、かなりのお金を使ったようだった。


「わぁ……」


 思わず息を飲んだけど、流石公爵家である。


 温かい温室の中では既に魔法使いが薬草や野菜を育てたりしていて、収穫できるベビーリーフもあった。


「何か必要なものがあればいいつけてください」

「じゃあ昼食分だけベビーリーフを厨房へ」

「かしこまりました」



 私は高揚した気分で温室内をぐるりと散策したけれど、遊んでばかりもいられないので、私は仕事をすることにした。


 ◆ ◆ ◆


「え? 奥様、新婚旅行から戻ってもう仕事をなさるのですか?」


 紙とペンと本を用意して私は別邸の自室にて机に向っている。まずは農業関連から。食は大事なので。


 この世界の農業の本を読んでみても、二毛作 (にもうさく)や二期作とかの概念的もないみたいだし。


 ちなみに同じ耕地で1年の間に2種類の異なる作物を栽培することを二毛作、1年の間に2回同じ作物を作る場合は二期作(にきさく)というので、コレも書物として書き記した。


 カダフィードのような寒冷地だと二毛作は無理だけど、魔物の退治の謝礼の土地は寒冷地ではないので使えるかもしれない。


 後は寒冷地でじゃがいもや砂糖の原料となるテン菜を栽培するコツとか……適した品種の選定、土壌の管理、病害虫の対策の仕方なども書いておこう。


「セシーリア様、昼食のリクエストなどありますか? と、厨房から問い合わせがありましたが」

「ああ、もうそろそろそんな時間ね、じゃあ厨房に何があるか見に行くわ」


 私は厨房に向かった。

 厨房では料理人達がそれぞれ何がしかの作業をしていた。


「あ、奥様、お帰りなさいませ」

「ただいま、料理長。今ある食材を見せてくれるかしら?」


「こちらです」  


 テーブルの上にさまざまな食材が並べられた。


 えーと、これはさっき見た温室で育てていたベビーリーフと小ネギ、マスタード、それと鶏肉に、うずらの卵に、え? 味噌!? この壺に入った小豆色のペースト状ものは味噌では!?


 スプーンで少し取って舐めてみた。やはり赤味噌の味!



「こ、これはやっぱり味噌よね!? そしてうずらの卵が沢山あるわね!?」



「はい、公爵様が珍しい調味料があれば奥様の為に買い取っておけと仰っておられたので、よくわからないままですが買っておきました。そしてうずらの卵は既に水で煮ております」


「ではこれを使いましょう! 簡単にフライパンでできる料理よ。フライパンのし鶏」

「はい、フライパンを用意いたします」


「まず材料は鶏ひき肉、卵、パン粉、ミルク、小ネギ、赤味噌、オリーブオリーブ、うずら卵水煮、ベビーリーフよ」

「はい」


 次に作り方の説明をする。


「ボウルに鶏ひき肉、卵、パン粉、パン粉はそこの固くなったパンをおろし金で削り、赤味噌を入れ、パン粉の上にミルクをかける」

「はい!」


 言われた通りに動く料理人達。

 まな板の上でひき肉を凄い速さで作っていく。

 ひき肉製造器がないから手作業。



「ボウルの上で小ネギをハサミで小指の爪程の幅に切って加え、練る」

「はい!!」


「粘りが出るまで練り混ぜたら、ひとまず二人分、フライパンで焼く、オリーブオイルを弱火で熱し、肉ダネの二分の一量弱を直径14センチ程に広げる、えーと、このくらい」


 私は手の動きで長さを説明した。


「はい」

「それにうずらの卵をのせ、残りの肉ダネをかぶせる」

「はい」

「蓋をして5、6分ほど蒸し焼きにする」


 私は五分くらい分の砂時計をひっくり返した。


「……はい! 砂が落ちきりました!」

「そうしたらね、ほどよく火が通ったくらいでひっくりかえし、再び蓋をして、2、3分焼き、あら熱がとれたら一口大の角切りにし、器に盛ってベビーリーフミックスを添えて完成よ、後は適当にバゲットでも添えて」


「かしこまりました」

「完成するとうずらの卵の断面が見えてちょっとかわいいの」

「なるほど! 白身に包まれた黄色い黄身の部分が確かに!」



 そんな訳でランチはうずらの卵とフライパンを使った簡単料理を作って貰った。


 ジュリウス様は仕事があるらしいので、ランチは自室にて一人で食べた。


 ボッチ飯でも美味しいから満足。

 この後は温泉にゆったり浸かってから、城の方に戻る予定。







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