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第48話 密談

 冬の間、私達はカダフィードの別邸に移動した。

体の為に私はまた温泉に通ってる。


 そしてカダフィードには狩猟大会の不手際の詫び金と品が届いた。


 旦那様はそのお金などで軍需品の増強などを考えているようだった…、帳簿を見れば分かる。


 つまりジュリウス様は戦争を視野に入れているのだろうか?

 あの皇太子のイカレ具合を見ると私への執着は強い……ため息が出る。



 私が先に温泉に入っていたら、ジュリウス様が入って来てしまわれた。

 相手が夫である以上、きゃーっ! とも言えない。


 そして密談をするには人がいなくて都合がいいとも言える。

 私はさりげなく後ろを向きながら問いかけてみた。



「ジュリウス様、備えは必要であると思いますけれど、目に見えて軍備増強をすると謀反を疑われるのではないでしょうか?」


 その行為は戦争の火種になりかねない……。



「春にある社交パーティーの招待状が既に来ている。どうせ狩猟大会で守護の魔石にあんな小細工をするのだから、よほどお前に執着をしているのだ、何としても手に入れようとすると見た」

「……っ!」


「皇太子は俺を新たな戦地に送ってでもお前を手に入れようとするだろう」


!!


「ジュリウス様を戦場に送って、私が未亡人になる事を期待するってことですか?」


「だろうな。権力者が欲しい人妻を多少の外聞も気にしつつも手に入れるなら、そうするだろ」


「そんな……戦争になるなんて」



 私はただ、平穏に生きて美味しいものを食べて領地を潤したいだけなのに、なんでこんな事になるの……。

 領地を潤すどころか戦争では……。

 私はこの地において災いにしかならない……。



「戦争の火種などそこかしこにあるからな」

「戦争に、行けと言われたら、行かれるのですか? 断れませんか?」

「断る必要はない」


「でも危険が……」

「軍備を揃えつつ……矛先を変えるという手がある、俺は自分の女をくれてやる気はないからな」

「え?」



 ジュリウス様は低い声でくつくつと笑った。



「言われた通りにどこぞの蛮族だの魔物を狩るとは限らないという事だ……」


 私は思わずジュリウス様を振り返り、その瞳を垣間見た。彼の金色の瞳が獲物を見つけた捕食者のように、爛々と輝いている……。



「あなたは……現皇家を打倒し、皇帝の座をお望みですか?」


「ははっ、皇帝の座などに俺は興味はない。ただ目障りな人間は消してしまう方が早いではないか」


 また、ジュリウス様の一人称が俺だ。多分この方、人格が二つある。

 おそらく今は好戦的な方。   

 私の情報で、領民が雪崩で死ぬかもしれない時に迅速に動き、被害を最小限にとどめようとした優しい方とは多分……違うと思う。



「しかし、それをすると反逆罪となりますし、後で国をまとめる者が必要になります。反皇帝派の貴族とつながりがないとその後が大変かと……地盤が盤石でないと……」


「ならば王弟を担ぎ上げるか?」



 王弟殿下!! そう言えば、そんな方がいたわ。前世でその存在を垣間見た事がある。

 パーティーにも滅多に出て来られない人だけど。



「王弟殿下、確か辺境伯として国境の守りにつかれておられますよね」


「あれは現皇帝より性格がマシだとアカデミーで聞いた」


「あ、そう言えばジュリウス様も公爵家の嫡男ですし、アカデミーには行かれたんですね。人脈はできておられたんですか? 失礼ですが、あまり交流をされているように見えませんでしたが」



 どなたかに招かれた茶会にもパーティーにもほぼ出ている様子がないから。



「冷たくあしらっても面白がって構ってくるやつは多少いたな。そして地方領主には皇帝に美しい妻を奪われた気の毒なやつもいた……」



 そう言えば私以外にも……あの皇帝はたいそう色を好むので、地方視察の際に気にいった領主の妻を奪って手籠めにもしていた。


 その後、地方領主の妻はすぐ自殺したので、恨みはいろんなところでかっているはず。



 そのあたりの人脈を現行の反皇帝派とし、固め……王弟殿下を新しい皇帝にすれば今より国もマシになるだろう……と思う。


 そして、攻撃は……最大の防御……ではある。

 何度も何度も夫が相手の希望通りに死ぬまで危険な戦場に送られたら……こちらは気が気ではない。


 しかも戦争に行かせる理由として、皇族が欲しいと思う女……人妻がいるからだなんて、許せない。

 よその土地や財貨目当てでも浅ましいと思うのに……。


 あるものだけで、どうして満足出来ないのだろう……人の欲望には限りがない……。



「くらくらしてきました……」

「長湯になってしまったか」


 そう言うなり、ジュリウス様の手が私に伸びて来て、抱きかかえられた。



「きゃあ! 待ってください! 私は今、全裸です!」

「風呂だからな」



 そう言ってジュリウス様は気にも止めず、脱衣場の方までお姫様抱っこで私を運ぶのも止めない!


 私は全裸なので必死で体を隠そうとする。己の手とか髪とかで!



「既に全部見て知っているのに、隠す必要があるのか?」

「そ、それとこれとは……っ!!」



 私は脱衣場で降ろされて、布を肩から被された。

 タオル代わりの布だ。



「それで体を拭いたら俺の寝室に来い」

「!!」

「いや、やはり寒いだろうから、俺がそちらの寝室に行く」

「!!」



 ど、どちらにせよ、この後に何をされるのが予想がつく!


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