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第52話 魔法使い、ミケース・ファンリエル・エッセン

 未だ冬ではあるけれど、春の社交界用のパーティー用のドレスの発注をしたら、


「セシーリア様、衣装室からの伝言ですが、最新の寸法を知りたいそうですので私がお測りいたしますね」


 今回はジュリウス様の乳母のオリエッタが、私のスリーサイズなどの採寸をしてくれるらしい。

 私は暖かい暖炉の側で服を脱いで、下着姿になった。



「ええ、お願いね、オリエッタ」


「……あら、身長と胸と腰回りが成長されていますね、大変女性らしくおなりで」

「あ、ありがとう……」



 別に太った訳ではない、背が少し伸びて胸がサイズアップして、お尻も女性らしく官能的なラインになってきているのだ。おそらく夫婦の営みのせいだと思う……。


 そして、新しいサイズに合わせて春までに一着ではなく、数着のドレスを作る。もちろん、ジュリウス様の新しい礼服も。



 ◆ ◆ ◆



 寒風吹きすさぶ。

 カダフィードの冬は厳しい。

 故に、ここによその人を呼び出すのはしのびない。


 スクロールを使い、王都の外れの山際にある魔法使いの工房にて、先んじて魔法使いに会うことにした。

 相談したい事がある故に、春を待たずにジュリウス様と護衛騎士10名と一緒に。


 今回は己の目にレースの目隠しをしてきた。正確には顔を隠してるのだけど。

 ちなみに護衛騎士は工房の外で待機して貰った。



「カダフィード夫妻、ようこそおいでくださいました、青の塔の魔法使いミケース・ファンリエル・エッセンの工房へ」



 魔法使いが笑顔で出迎えてくれた。


 工房内の棚には数多くの魔石があり、薬草、ハーブの束が沢山天井から吊るされていたり、瓶の中には色んなものが詰められ、いかにも魔法使いの工房といった雰囲気だ。



「エッセン殿、こちらこそ社交シーズンの春より前に面会の機会をいただき、ありがとうございます」


「私の事はミケで良いですよ、それで、わざわざ王都の外れの工房まで来て、相談というのは?」



 ミケ……猫みたいだけど、本人がそれでいいなら。



「では、ミケ、ご相談したいのは亜空間収納についてです」

「とても難しい術です」


「それについては私が賢者の残した魔法の鍵の所有者となったおかげで収納魔法自体は既にございます」

「なんと!」



 魔法使いは驚いた顔を隠そうともしなかった。

 よほど凄いことらしい。



「今回は、その収納場所に雪崩のように短時間で素早く物資を収納する魔法がないかどうか、無ければ作れるのかどうか、お聞きしたく……」

「そんなに急いで収納しなければならないのですか?」


「はい、命がかかっていますので、是が非でも」


「命とは穏やかではありませんね」

「私、実は皇太子に目をつけられていまして……」


 私はそう語りつつ目隠しのレースを解いて、魔法使いに素顔を晒した。



「これは……美しい……ですね、成る程……」



 ミケは私の素顔を見て、息を飲んだ。



「私は以前からこのようにレースで目元を隠したり、わざと変なメイクでごまかしたりしていましたが、狩猟大会の罠ですっかりバレてしまいました……人の妻になっても諦めていただけなくて」 


「うーん、人のものだと余計欲しくなる男もいますからね」



 ミケは己の顎を触りつつ、複雑そうな顔をした。



「相手が……悪すぎるのです」

「腐っても皇太子……おっと、失言」



 彼は皇族に対する不敬な発言をし、しかも冗談めかして笑った。

 こういう人だと、あらかじめジュリウス様に聞いていたから私も正直に話して、素顔も晒したのだ。



「皇太子、いえ、皇室は旦那様を出征させるつもりでいます、おそらく戦死してほしいのでしょう」


「美しい未亡人が欲しいからって……とんでもないアホ……ゴホン、けしからん奴らだ! やつら、竜血無くして北部の守りをこれからどうするつもりなのか」


「後先考えられなくなるほど、俺の妻に懸想しているらしい、それで俺は奴らと戦おうと思う」



 ジュリウス様はそう言って工房内の椅子にどかっと座った。いえ、今はヒューゴ様ね。



「勅命をうけた土地への侵攻ではなく、皇室に矛先を変えると?」

「そういうことだ」


「面白い、奴らの周囲はもはや腐り過ぎていて、鼻が曲がりそうだったんだ」

「くっ、お前ならそう言うと思った」


 ヒューゴ様は笑った。


「カダフィード公爵、君、ちょっと雰囲気変わったね?」



 流石魔法使い、鋭い観察眼。



「結婚して妻ももったからな、多少は変わるだろうよ」

「まぁ、そういうことにしておこうか」


 ジュリウス様(ヒューゴ様)と魔法使いはニヤリと笑いあった。気が合うみたい。



「さて、亜空間収納の術式の件に話を戻そうか」

「はい」

「雪崩のように一気に収納する、ね、面白い発想だ。出来るか否かで言えば、ものが揃えば可能ではある」

「ものとは?」



 ジュリウス様が魔法使いを促した。



「ドラゴンの心臓からなる魔石の高エネルギーがあれば」


 !?


「竜谷にある……」



 ジュリウス様ことヒューゴはそう答えた。



「お、お仲間の、ご遺体から取ってくるということですか?」

「俺の親の遺体からだ」

「……」


「妻と領地の危機ゆえ、許されるだろ」

「直近で狙われているのはジュリウス様のお命ですよね……」

「同じことだ、俺が死ねば北部から死が広がるだろう」


 確かに。





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