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第53話 つとめて冷酷に

龍谷りゅうこくへ行ってエナジーストーンを取ってくる、セシーリア、留守を任せていいか?」


「はい、ジュリウス様。お手数をおかけしますが、石の方は……お願い致します」

「ああ、全ての権限を委ねるゆえ、好きに采配せよ」



 私はジュリウス様から当主の印鑑を預かった。


 かつての親ドラゴンの心臓からなる石を遺体から取ってくるのは辛いだろうから、本当は同行したいけど、領主権限のある者が二人もまた居なくなるのはよろしくない。


 そしてジュリウス様は龍谷へ、ドラゴンの心臓からなるエナジーストーンを取りに行かれた。



 ◆ ◆ ◆



 そしてジュリウス様が留守の間に、事件は起こった。私は家令の話に思わず耳を疑った。



「なんですって? 購入した武器や防具が届かないのに、お金だけ取られたですって?」

「はい、お金は先払いでしたので……」


「なんなの? このカダフィード公爵家が詐欺にあったと言う事?」


「商品が忽然と消えたと言うのです」

「ならばあちらの管理不足でしょう、物が届かないなら、返金を要求するわ! 皇室とも繋がりもあるはずの老舗が何たるざまよ!」



 私も今度皇室軍隊の食糧庫を襲う計画があるとはいえ、先にこんな事件に遭遇するとは……。


「金は既に支払いに使ったと申すのです」


 つまりない袖は振れないって言いたいのね。



「どうも……このタイミングだときな臭いわね、調査をするわ」


「調査をするにも情報ギルドなどに支払う為には依頼料がかかりますが」

「……私に考えがあるわ」



 私はすぐさま取り引き相手の店の周辺にいるカラスを使うことにした。人間だと高くつくなら鳥を使うわ。


 今こそ竜血の刻印の権能を使う時よ。

 私はカダフィードの鍛錬所の様子をカラス越しに見た時の事を思い出していた。


 そして、己とカラスの視覚と聴覚とを共有させ、取り引きに関連する人間の側を探ることにした。

 幸い売人達の資料は手元にあるし。



 するとカラスはどこにでもいるので、大した警戒もされずに、林で密談をする売人の話が聞けた。


 カラスの視点で私は確かに見たし、聴いた。


 ◆ ◆ ◆


「まさかカダフィード家の買った武器を横流しして、金だけぶんどるのが成功するだなんてな」


 男はニヤニヤ笑ってた。


「あの黒マントの男の話を聴いてまさかと思ったが、こうも上手くいくとは」

「でもバレたら大変だろ」


「武器と金は横流し前にしばらく小さな無人島に隠すから、見つかりっこないってあの方も言うんだぞ」

「そ、そうだな! お偉方の後ろ盾があるんだ、怖いものなんてねぇ」



 ……お偉方って誰よ? まさか、また皇太子じゃないでしょうね?

 新しい武器を補充もさせずに戦場へ私の夫を送り出そうとしてるの?


「………」


 私ははらわたが煮えくり返る思いだった。



 ◆ ◆ ◆



「セシーリア様、大丈夫ですか? そろそろ2時間ほど経ちますが」



 私はカラスを使った調査の為、執務室内にある暖炉の側の長椅子に横たわり、目を閉じてから二時間経っていた。お尻と背中が痛い。



「詐欺だったわ、犯人も割れてる」

「なんと! カダフィード相手に詐欺などという恐れ知らずがいたものですね」



「武器とお金は小さな島にあるそうだから、島の名前は売人を捕まえて直接締め上げて吐かせましょう」

「かしこまりました!」

「奴らがしらばっくれたり、逃亡しないように先に売人の家族の身柄を押さえなさい」



 今なら私はとことんまで効率重視で、冷酷になれる。



「はっ!」



 そして我々カダフィード家の者で売人の家族を確保してから、売人も捕まえた。


 私は仮面を付けたまま、奴ら二人の売人の前に現れた。

 捕らえた場所は領主の森の中の塔である。



「舐めた真似をしてくれたわねぇ。カダフィード相手に詐欺を働くなんて」



 私は売人達を前に、悪女っぽい声を作って話した。



「な、なんのことでしょう?」

「わ、我々も武器を盗まれた被害者なのです! 無体な真似はおよしください」



「お前、どこの島に金と武器を隠したんですって?」

「はっ!?」

「な……っ」


 二人の売人は一瞬固まった。



「何故それを!? って顔に書いてあるわね」

「し、知りません!」

「まだしらばっくれるのなら仕方ないわ、詐欺師達の家族を連れて来なさい」

「はっ!」



 騎士が扉を開けて戻ってきた、後ろ手で縛られた人質を連れて。夫人一人と、16歳くらいの娘と、11歳くらいの少年だった。



「あなた!」

「お父さぁん!」

「パパァ!」


「レベッカ!」

「ミランダとマークス!」


 売人達の家族を連れて来ると、奴らはさらに顔色を悪くした。



「さて、誰の爪から剥いでいく? 愛する妻から? ……あらぁ、奥さんのお腹大きいわね、妊娠中?」


「お、お待ちください! 我々は本当に何も!」


 確か調書にあったこいつの名はベンダック。



「詐欺師が往生際が悪いわね」

「奥様、流石に妊婦相手では……」



 優しいカダフィードの騎士が流石に躊躇する。

 この人達を死地へ追いやろうとしてるので、余計腹がたつ。



「人質の人数が増えてよかったわねぇ」 



 私は妊婦の腹に視線を向けて、残酷に笑ってみせた。仮面をつけていても、血のように赤い紅を塗った口元は見える。



「やめてください! 何も知らない家族には手を出さないでください!」

「そんな情があるのに何故詐欺なんてしたのかしら?」


「お、脅されたんです! 我々も仕方なく!」



 私は暖炉用の火かき棒の先を熱したものを売人のその一、ベンダックという男の目の前に突き出した。


 眼球のすぐ目の前に、熱く熱された鉄の棒が迫る。



「あなたぁ!!」


「ひっ!」

「ベンダック、それで誰に脅されたの? お前達のお偉方の後ろ盾って? 私、腕力はあまりないから、このまま時間をかけられたら、お前の顔の上にこの熱々の棒を落としそうだわぁ」



 またも悪女バリの声音を使って言ってやると、顔面蒼白の男は失禁した。



「カダフィード夫人の前で失禁なんて、無礼じゃないの。そこの売人その二、床に広がったこいつの粗相した液体を舐めて綺麗になさいな」

「ひぃ! そ、それだけはご勘弁を」



 私は火かき棒をカダフィードの騎士に一旦手渡した。



「なら、売人その二! お前、この妊婦のドレスを今から私が引き裂いて渡すから、それを雑巾代わりにして、床を綺麗になさい」



 私は己の太ももからナイフを抜きとってから、スカートの裾を掴んだ。



「きゃあ!」

「レベッカ! ああっ! くそ! 俺の上着を使ってください!」



 レベッカの夫の売人が取り乱しつつも己の上着を使えと庇おうとした。



「お前、誰に向かってクソと言ったの?」

「ああっ、申し訳ありません! 失言でした! クソはわたくしめです!」



 ビリィーーッ!!

 私は詐欺師の夫人のスカートをナイフで切り裂いた。汚れ役を騎士にさせたくなかったから、自分でやった。



「きゃーーーっ!!」

「お前の亭主、口が悪いわね」



 私が商家の女のスカートは切り裂いてもドロワーズという下着があるから、生足などの肌はまだそう見えてはいない。

 ちなみに高位貴族なら、ドロワーズの代わりにセクシーなガーターと靴下になる。



「お許し下さい! 奥様! おそらく主人も脅されてっ」

「脅されたら私の夫や大切な騎士達を不十分な装備で戦地に送っても死なせてもいいって言うの?」


「吐け! 誰の命令だ! 後ろ盾とは誰だ!?」



 焦れた騎士が売人に声を荒げた。



「く、黒マントの男……」

「ふざけるな! お偉方の後ろ盾という名前をいえ!」

「皇室の影と……ガハッ!!」

「きゃあ!! あなた!?」



 影の名を口にした売人が急に吐血して死んだ。

でも、これで絞れた。

 皇室の影を使うのはやはり皇室だ。

 黒マントの男は、かつての私を刺し殺したやつと同じ可能性がある。




「どうも契約魔術で縛られてたようね、でもまだ売人は一匹残ってる。お前、まず、金と武器を隠した島の名前を答えなさい」


「ゲルン島……」

「奥様! 確かにそんな名前の島はあります!」



 うちの騎士が叫んだ。



「こいつも黒幕の名前を吐かせようとしたら恐らく死ぬわね」

「奥様、では、いかがなさいますか?」



 騎士の言葉に私は少し考える素振りをした。



「無事に武器とお金を回収するまで、牢屋に入れておいて、家族の女達もね、男の子だけ縛って連れてくわ」


「くっ」

「パパァ!」


「島に物がなかったら、大きな金額ゆえ賠償の為にお前は死ぬまで鉱山で働いて貰うわ。夫人と娘は娼館へ、男の子供はあまり使いみちなさげだし……サメの餌かしら?」


「そんなっ! 島にあります! あるはずです! 必ず!」

「パパァ!」

「くっ!」


「男の子供を島まで連れて行くわよ。物がなかったら本当にサメの餌。それとお前達の商家の財産は全て差し押さえるから」



 私は悪女になりきって冷たく言い放つと、売人はもはや歯の根も合わず、ガタガタとただ震えていた。


 塔から出て、しばらくして騎士が遠慮がちに問いかける。



「あの、奥様、この少年、物がなかったら本当にサメの餌ですか?」



 縛られて連行される少年はうなだれてただ震えて引きずられるように歩かせている。



「保留よ……」

「かしこまりました」



 少しホッとした顔をした騎士を見て、私はこの厳しい北部に住まいつつも、なんてお人好しな騎士なんだろうと思った。


 にしても、やはり皇室相手だとわかっていても、おいそれとは手出しできない、全面戦争するにも準備がいる……。























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