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第54話 悪女

 〜 ジュリウス(ヒューゴ)視点 〜


 俺は竜谷から亜空間収納魔法に使う為の、竜の化石化した心臓ともいえるエナジーストーンを親の骸から貰って帰って来た。


 かつての俺自身の心臓からなる竜のエナジーストーンは、彼女と再び巡り合う為の願いの為に、時と時空を司るクロノス神に捧げて使った。


 今俺は竜の血を継ぐ子孫の人間の体に俺はいる。


 俺はカダフィードの温泉のある別館に戻るなり、執務室へ向かい、そして留守中に何かあったかセシーリアの護衛につけていた騎士たる部下の報告を受けることにした。



 ◆ ◆ ◆


「報告を」



 壁際に部下の騎士が三人ほど並んでいる。



「はい、武器商人が我々の金は受け取ったというのに、発注した武器を渡さないという詐欺を働きまして、その対応を奥様がなさいました」


「またカダフィード相手に随分なめた真似を」


 俺が騎士の報告を聞いている場所は執務室内で休憩するためのテーブルセットだ。低めのテーブルと、ソファだ。


 竜谷までかなりの距離を飛んで移動し、流石に疲労したため、ソファの背もたれに体を預けつつも、騎士の話を聞けば聞くほど俺はどんどんイラついてきた。



「……それで、奥様がまるで悪女のように振る舞い、奴らを尋問されて……詐欺師の夫人のドレスを例のナイフで切り裂かれ……」



 ドガン!!

 俺は椅子から立ち上がり、己の足でついにテーブルを蹴り割った。

 腹が立って仕方なかったからだ。詐欺師と、そしてうちの騎士達に。



「何故セシーリアにわざわざ汚れ役をさせた!?」

「も、申し訳ありません!」



 俺の激昂を受け、青ざめた騎士は床に膝をつけて頭を垂れた。



「どうせ貴様らが詐欺師の女房の妊婦に同情めいた態度を示したのだろう!? 貴様らは一体誰の護衛騎士なのか! 詐欺師の女の騎士なのか!?」


「いいえ! カダフィードの騎士であります! 面目しだいもございません!」



「貴様らが敵にまで甘いから、セシーリアがわざわざ悪役をやって泥をかぶった! 主人が泥をかぶるのをのうのうと見ていただけか、貴様ら!」


「どんなお叱りも処罰も甘んじて受けます!」

「職務怠慢でむこう三年、減俸だ、貴様らは!」



「旦那様!?」


 急にバタンと執務室の扉を開けてセシーリアが駆け込んで来た。

 普段はこんな無作法はしないのだが。



「セシーリアか、なんだ?」

「怒鳴り声と凄い音が……あっ! 何故うちの騎士達が床に平伏しているんですか!?」


「主人より詐欺師の家族を優先した愚かな騎士を躾けている」

「違うのです! 叱らないであげてください! 私は好きで悪役をやりました!」


「好きでやっただと?」

「尋問をスムーズに行う為に、詐欺を働いた者達に畏怖の感情を植えつけたくて、わざと悪女のように振る舞いました!」


「わざわざ汚れ役をして、泥をかぶる貴婦人がいるか!?」



 さてはまた優しさから騎士を庇っているな!?



「ここにいます! どこぞの俳優さんも言っていましたが、悪役ってけっこう楽しいものですよ! 普段は言えないようなセリフが言えて、ストレス解消になるとか、ほら、暴言とか残酷なセリフとか、普段は言えないものでしょう? 私は楽しかったので怒りを鎮めてください!」


「楽しい……だと?」

「はい! ですから、彼らを許してください、私が勝手にやったことです」


「……殴ったりはしてない、かわりに三年ほど減俸に処す」

「三年はあんまりです! せ、せめて半年……」


 まだ庇ってるな……。


「チッ、お前がそこまで言うのなら…、1年分の減俸だ、何も無しでは示しが付かない」


「そ、そうなんですか……1年分……。ごめんなさいね、私が好き勝手やったばかりに」

「いえ、私が甘すぎたのです」


 何故かセシーリアが騎士に謝罪している



「騎士たる貴方達の優しさは美徳です」

「はいはい、相変わらず慈悲深いな」


「……ジュリウス様、私はさっき嘘をつきました」


 真面目くさった顔をして、セシーリアが俺を見つめる。



「なに?」

「悪役のフリ……ではなく、私が悪でした」

「は?」


 また何か言い出した……。



「私が容赦ないのは元からですわ、色々酷い目にあってきた記憶が沸々と蘇り、怒りで、つい」

「悪?」

「はい、私は元から悪女なんです」


「悪女がわざわざろくに金も払えない辺鄙な村に騎士を引き連れ、ゴブリン退治に行くのか?」

「身内にしか優しくないなら、善とは言えませんよね?」



 ああ言えばこう言う……。どれだけ騎士を庇いたいのだ、この女は。



「……はいはい、悪女、悪女な」

「ジュリウス様! バカにしてますね!? 2回も言うの止めてください!」



 セシーリアは真っ赤になってぷんすかと怒りだした。こんな単純な女が悪女とは恐れ入ったぞ、逆にな!



「ハハハ! 我が妻たる悪の公爵夫人が言うから仕方ない、じゃあ減俸1年分に減刑してやるから貴様らはもう下がれ」

「はっ! 閣下と奥様の温情に感謝致します!」



 騎士達は速やかに執務室から退室した。



「ジュリウス様! さっきから笑うのは止めてくださいませ! それより島に武器とお金の確認に行った騎士の部隊と魔法使い達の報告がそろそろ来る頃ですよ!」

「ああ、そうだな」



 しばらくセシーリアは真っ赤になって怒っていた。……かわいらしく、愛おしい女だ、本当にな。








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