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第56話 魔法の収納

 我々は湿り気を帯びた洞窟内に足を進めた。

 そしてついに奴らが横取りしようとした、カダフィードの購入品の武器防具とお金が山となって存在したのを発見した。



「さて、私のあの鍵の出番ね」 

「これらを一気に収納する為に、このドラゴンのエナジーストーンもいるのだろう」


「はい、ありがとうございます。これで予行練習もできます」



 ドラゴンの心臓からなるヒューゴ様の親の遺体から取って来たという石を、両手で大事に受け取った。


 その石は赤く、大きなルビーのようだった。



 私は青の塔の魔法使いの協力を得て、あらかじめ鍵には術式を魔法使いに組み込んでもらっている。


 そして、首から下げていた鍵を魔法陣の中心に差し込んでから鍵を回し、ドラゴンのエナジーストーンを魔法陣に嵌め込むと、魔法陣が強く輝く。


 私は一旦魔法陣から離れ、次にまとめて収納するイメージを脳内に思い浮かべ、



『一括収納』


 そう呟いたら、自分の思い浮かべた通りに物資が輝く魔法陣へと雪崩込むように収納された。



「おお……」



 同行者達が一様に感嘆のため息を漏らした後、



「これは……とても……便利ですね」



 同行していた護衛騎士が一連の作業を見守りながらそう呟いた。



「そうなのよ、この為に私は来たの……コホッ」



 うっ、またこんなタイミングで咳が!!



「また咳がでたな、ではさっさと帰るぞ」

「はい、ゴホッコホン!」

「セシーリア、無理に喋らなくていい、分かってる」



 ジュリウス様に頷いて、我々はまた転移スクロールで温泉のある別邸まで帰還した。


 守りを考えると城の方が堅牢だけど、こちらの方が暖かく、私の体にいいだろうと、ジュリウス様が気を使ってくださり、やはり冬の間は別邸に来たのだ。



 こちらには温泉の熱を利用した温室もあるから、冬の間は薬草類もせっせと育てている。



 自室までジュリウス様が送ってくださった。


 火を入れた暖炉により、十分に温められていた部屋にはヤカンも湯気を出していた。

 メイド達の心配りを感じる。



「今夜も温かくして早めに寝ろ」



 ジュリウス様が私の頬を軽く優しく撫でた。

 視線も優しい。



「はい……コホンッ」




 咳をしながらも、彼の優しさに触れたせいか、私の太ももの竜の刻印が疼いた。

 体の不調とは裏腹に、私は今夜……彼が欲しくなってしまったのかもしれない。



 赤くなった顔を隠すように、私は下を向いて、急いで着替えをした。


 着替えを終えたころに、メイドから軽食が部屋の中に運ばれてきた。

 テーブルセットに温かな湯気をたてるスープとサンドイッチが並べられた。

 おまけにスコーンもついてる。



「旦那様から奥様のお食事はこちらに運ぶようにと言われましたので」



 自信の様の心遣いで食堂に行く手間を省いてくださったのだろう。



「ありがとう、いただくわ」



 メイドに礼を言ってから、温かいスープからいただいた。

 顔がまだ赤くなっているのは、食事のせいだと思わせたい。



 その夜は逃げ場を失った熱を抱いたまま、一人で眠った。


 早めに寝ろと、夫が言うので……。



 ◆ ◆ ◆



 翌朝の朝食の時に食堂にてジュリウス様と顔を合わせた。



「詐欺の件は皇室にはなんて報告をされたのですか?」

「商人が詐欺を企んだので、私の権限で裁いたと報告をしただけだ。詐欺師の証言も記録しているしな」



 詐欺をそそのかした側は今ごろやきもきしているだろうか?


 所詮武器商人も捨て駒にされたのだろうから、次の手を考えているのかも知れない。



「出征命令書で戦地に追いやるだけでも足りないのか、武器まで奪おうだなんて……」

「なるようになる。心配するな、絶対にそなたに手出しはさせない」



 ジュリウス様のこの言葉は、覚悟と自信の表れなんだろう。



「ありがとうございます」




 そして、厳しいカダフィードの冬越しの間に、私は手紙を書いたり、やれることをやる。


 皇室に勝つには味方を増やさないといけないから、春には社交もがんばる。








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