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第59話 計画始動

 真冬のとある娼館にて。


 カダフィードの騎士は皇都にある娼館に出張していた。────密かに任務を帯びて。


 それはやることやった事後、女とのピロートークの最中。

 だいたい行為に満足した後、男の口が軽くなっている頃に本格的に仕掛けていく。



「──ふう、お客さん、素敵だったわ……。わざわざ寒い時期に来て下さったのね♡」



 娼婦は深いため息を吐いた後、ベッドの中で男の逞しい胸筋を撫でつつ、甘えるような声で話しかけた。



「はは、寒いからこそ人肌が恋しくなるものだろ」

「それは確かにそうねぇ」



 娼婦はクスクスと笑う。



「俺はいつ死ぬかも分からない傭兵稼業だしな。生きてるうちに楽しまないと」

「あら、不吉なことを……」


「俺は……よ、実はある要人とも護衛任務とかで繋がりが有るんだが、カダフィードの竜血が1年か2年後に魔族との戦いに出征させられるらしくてな」


 話に信憑性を与える為に、わざと調子にのってどや顔をしてみせる騎士。


「まぁ……! 要人の方の! 腕利きなのね!」



 娼婦の方も営業トークとして感嘆する様子を忘れない。



「……これは内緒なんだが、問題は竜血が万が一にも戦死した後に、皇室命令で伯爵以上の高位家門から穴埋めに北部に人を送り込むって話があるんだよ、無論、騎士のみならず傭兵も雇って北部の防衛もするだろうが、指揮が下手くそで実戦経験が乏しいやつが来ると、俺らが困るんだよなぁ」



 そして、このようにぼやくフリで情報を流したりするのである。



「……穴埋め人材って当然後継者以外の次男以降の人になるわよね?」


 娼婦は眉根をよせた。


「そうだな」


「こちらとしてもここのお客様には次男、三男が多いから、困るわねぇ、金払いのいいお客様が北部に取られるのは……」



 娼婦は不安げな様子を見せ、傭兵を見つめた。

 頼りは貴方だけなの、また来てね! の意味である。



「お互い大変だなぁ」



 傭兵は目を伏せて娼婦の頭を撫でた。



 ──密命を受けた騎士達は、噂の種を娼館、酒場、水煙草屋、いろんな場所でうっかり漏らすようにばら撒き、密かに、少しずつ……微量の毒のように……皇都の中に広げていく……。




 ◆ ◆ ◆ 


 〜 主人公視点 〜



 凍てつくようなカダフィードの冬の朝。


 皇太子一派の企みにより、カダフィードの竜血公爵が万が一亡くなった場合の各家門からの後継者以外の貴族の派兵の噂はジュリウス様の方でやってくださるらしいので、私の方は春の社交シーズンにやる、お茶会の招待客リストを見ていた。



 暖炉の火と魔石によって温められた室内にて、私はいつもの通り、朝の身支度をしながら。



「お嬢様、もとい、奥様、春の社交のお茶会やパーティーの企画などはどうされるのですか?」


 ジュリウス様の乳母が私の髪をブラシで梳かしながら、柔らかい声で問いかけてくれた。



「詩や本の……朗読会などはどうかしら? 私のお話、メイド達にも高評価だったし」

「なるほど、貴族らしい催しですし、奥様はとてもお綺麗な声をされてますから、聞き惚れる方も多いでしょうね」


「やはり定番は恋物語かしら」

「令嬢が多い場所ならそれもいいですが、主には戦力となってくれる男性とお話をされたいのですよね?」



「令嬢との茶会の方はほぼ本命の権力者と話す為のカモフラージュの意味もあるけれど、娘経由で化粧品などの欲しくなるものをちらつかせて親を味方につける作戦もあるの……」


「ああ、なるほど、そのような商品が既にあるのですね」


「鋭意制作中よ。男性を集める時は……表向きは食事会にしましょうか。

そちらはジュリウス様の名で集めて……必要なら誰かに問われた時の為に季節の詩や神話など……知っていると夫人や令嬢との会話も弾むかもしれない内容の物語を食事がてら私が多少なりとも語っていればいい……」


「そうですね、ずっと社交をしていなかったカダフィードの会食で、どのような会話がされたのか訊く方も多いでしょうし……」


「招待した男性客にも傷によく効く薬草や洗髪剤とかのこちらから売り出す商品の説明もするわ、表向きは金稼ぎの宣伝会食だと思わせるのもいいでしょ?」

「そうですわね、それなら納得します」



 皆、お金は大事だものね。








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