〜 皇后視点 〜
ついに皇帝にとどめを刺してしまったわ。
積年の怒りと鬱憤をぶつけてしまったけど、こんな女遊びにばかり夢中になった男、自業自得よ!! 私は悪くないわ!!
そして、今は死んだ男より自分と息子の未来の為に動かないと! 私はすぐさま隠し部屋に移動した。
けれど今もまだ城内で炸裂音や敵味方が激しく戦う音が聞こえる。敵がここまで来るまでになんとかしなければ。
「カダフィードと、王弟、それぞれ領地の方へ攻め込ませなさい。なんなら夫人や家族を捕らえて動きを封じなさい」
「皇后様、おそれながら進軍は無謀です」
「どうしてよ!? 皇軍は全滅したの!?」
怒りのあまり、血が沸騰しそうだわ!
「へ、兵站が、食糧庫が空となっております! 食料無しの進軍は無謀です! 半日や1日で落とせる城ではございません!」
「なんですって!? ええい! 見張りはなにをしていたの!?」
「どうやら薬を飲まされ、眠っていたようです!」
馬鹿な!!
「それより今は一国も早く、遠くへお逃げください。この隠し部屋もいつ見つかるか……既に敵が一階に、城に入り込んでおります」
「そ、そうよ、皇城は既に破られ、半日もかかってないじゃないの!」
制御できない怒りのあまり、わなわなと体が震えるつつも、お抱えの占い師の差し出す黒い外套を被り、秘密通路のある本棚の方へ歩き出すと、騎士も私の後ろをついて来ながら説明する。
「カダフィードの攻撃力と魔力が桁違いなのです。3重に張った守護結界を破壊しました」
なんですって!? そこまで強いとは!!
「く、セシーリアを人質にします! 早く捕らえてきなさい!」
「全力で捜索いたします!」
「そうだわ、隠密衆の影にも命令を……竜血公爵の妻、セシーリアを捕らえて私の前に引っ立てなさい!!」
私がそう言うと、
『かしこまりました……』
どこからともなく返事をする声が聞こえた。
隠密の影は、私の事を大抵影から守っているのだ。そう、奥の手はまだある……。
落ち着いて……。
「そこの騎士! 美しいメイドと侍女を数人用意して」
「は? 美しい?」
何故今、そんなことを? と、言いたげな表情をする騎士。
「いいから、連れてきなさい!」
そしてしばらくした後、
「皇后様! 三人ほど連れてきました!」
メイド一人と侍女二人を騎士が連れて来た。
いずれも、なかなかの美貌の持ち主だった。
「ご苦労さま」
「こ、皇后様、早く脱出されませんと、反乱軍の賊が!」
侍女達は青ざめた顔で慌てふためいている。
「わかってるわ、今から秘密通路を使って特別で大切な貴方達を安全な所に連れて行ってあげる」
「あ、ありがとうございます!」
何故今連れて来られたのか分からないままではあったが、侍女達は私の優しい言葉に少しだけほっとしたようだ。
「皇后様、申しわけありません、慌てていて占いの道具を忘れました。ついでに外の様子を見てまいります」
老婆のしわがれた声が聞こえた、そう言えば侍女の代わりにこいつを連れていたわ!!
「ええ、早く道具を見つけてセシーリアの居所を占って知らせなさい」
「かしこまりました」
老婆の占い師はそっと隠し部屋を出て行った。動きが遅くて足手まといだし、これでいい。
私は占い師に命令をくだしてから用意していた薬を出した。
このガラスの小瓶に入っているのは速効性がある睡眠薬だ。
「でも秘密通路は他の者にバレる訳にはいかないから、この薬を飲んでちょうだい、大丈夫、眠るだけよ」
「は、はい……」
侍女達は皇后たる私の命令には逆らえず、素直に睡眠薬を飲んだ。私は騎士達に向き直り、命じる。
「眠った女達はあなた達が担ぎ、ついてきなさい」
「「「はっ!」」」
私は二つある皇城の秘密通路を使って塔へ向かう事にした。
途中で息子と合流できるかと思ったけど、運悪くもう一つの通路を使ったのか、会えなかった。
そこには黒魔術の祭壇がある。
あの当代一の美しさを誇るセシーリアが手に入るまでは、この女達を生け贄に、悪魔と契約する!