登場人物紹介。
バルテン帝国の銀髪に金色の瞳の北部公爵。
ジュリウス・ドラグ・カダフィード公爵は古代竜の血を引く竜血公爵と呼ばれ、人々の
バルテン帝国のセシーリア・ドラグ・カダフィード。現在は公爵夫人となる彼女は金髪緑眼の美女。
上記この二人が前作主人公で外伝はこの二人の息子が主人公となります。
◆ ◆ ◆
新主人公。
ジュリウスとセシーリアの息子 は現在17歳。
名前をレジェス・ドラグ・カダフィードと言う。
金髪金眼のイケメン公爵令息で現在アカデミーので寮暮らしをしている学生。
17歳のある日、落馬して突然前世の記憶を取り戻し、幼い頃とは性格が変わる。
新キャラ。
エミラ・ロングレート・ハッテンベルガー
黒髪青眼の16歳の少女。
異世界転生で同じく前世記憶持ち。
自ら登った木から落ちて前世の記憶が蘇る。
◆◆◆
俺の17歳の夏休みの頃。
アカデミーから実家に帰省し、林から突然現 れたオークに馬が驚き、落馬した。
幸いオークは側にいた護衛騎士がすぐさま斬り殺したが、その時したたかに頭を売った影響なのか、俺は前世の記憶を思い出した。
俺は日本の男子高校生だったが、運悪く車に轢かれそうな子供を助けて自分が死んだ。
そして急に戻って来た日本での記憶に心は乱れた。
テレビもネットもない、娯楽の極端に少ないこの異世界が急に色褪せて見え、退屈に思えた。
そしてこの事実を誰かに打ち明けてよいものか分からなかった。
そして誰にも相談出来ないまま、心はやさぐれ、夏休みの終わりには何食わぬ顔でアカデミーに戻った。
そして秋口のある日、俺はアカデミーでランチタイムに学食に向かう途中に、
「あーあ、また上位貴族に図書館への本の返却を押し付けられた。……せめてご褒美にBL漫画が読みたーい」
そんな女のぼやき声が聞こえた。
前方から廊下を歩いて来たのは、胸の前で分厚く重い本を四冊も抱えて運ぶ黒髪ボブカットの女子生徒。ここは異世界なのにBLに漫画だと?
俺は思わず耳を疑った。
前世で聞いたことのある単語だが、 いずれもこの異世界には無いものだったので、
「お前今なんて言った?」
つい、黒髪ボブカットの女子生徒にそう話しかけた。
「ひゃっ、す、すみません、なんでもないです!」
女子生徒は上位貴族への不満を漏らしたことを叱責されたと勘違いしたのか、青ざめた顔で頭を振った。
「さっきBL漫画がどうのと……」
「え? なんのことですか?」
目が泳いでるし、どうやら話を逸らそうとしている。
「ビーエルとは、なんのことだ?」
「は、はい? えーと、ベーコンレタス、ですかね?」
取ってつけたような言い訳だ。
「ほんとか? 怒らないから正直に言え。ボーイズラブとか受けとか攻めとか、タチとかネコの意味とは関係ないのか? さっき漫画とも言ったろ?」
「あっ!? 貴方まさか、転生者!? そしてそのクラバットの青色……2年の先輩!?」
女は持っていた本を驚きのあまり、取り落とした。カラシ色のスカーフの色で一学年下なのが分かる。
2年生なら、青、3年なら赤だからだ。
「では、やはり……後輩の1年女子、お前もか?」
これが俺とエミラ・ロングレート・ハッテンベルガーとの、出会いであった。
◆ ◆ ◆
「私は1年のエミラ・ロングレート・ハッテンベルガーと言います、家は子爵家です」
「俺はカダフィード公爵家のレジェスだ。それにしてもハッテンベルガーとは……ハッテン場みたいな名字だな」
「いくら先輩とはいえ、嫌な言い方しないでくださいませんか?」
「ハッテン場が通じるとは、やはりBL好きだな」
「何か問題でも?」
エミラはわりとふてぶてしい態度で開き直った。
「俺に被害が及ばないならお前の趣味嗜好など、どうでもいいが」
「良かったぁ!!」
エミラは破顔した。
急にざっくばらんでくだけた感じを出して来たが、日本で学生やってた時を思い出し、懐かしくて正直多少強気で無礼でも悪い気はしなかった。
「お前はいつ頃前世の記憶を思いだしたんだ? ちなみに俺は比較的最近の夏休みだ」
「あら、私も最近ですよ、夏休み休暇入る直前、木に登っていたら」
「なんで子爵令嬢が木に登るんだ?」
こいつ、さてはとんでもないお転婆娘か?
「木に登れば男子寮にいるお気にの男子生徒二人が見えたんですよ。これから夏の長期休暇になるし、しばらく会えないなってイケメン二人がイチャコラしてたのを眺めてたんですが、その時うっかり木から落ちてー」
アホか。
「……いや、待て、落ちてからBL好きを思い出したわけではないのか?」
「いいえ、BL好きは前からですね!」
なんと!!
「魂に刻まれるほどのBL好きなのか、恐れ入るぜ」
「へへっ」
「別に褒めてないぞ、それにしても本当に業の深い女だ」
「眺めてるだけなので別に誰にも迷惑かけてないと思うのです。私は壁や観葉植物のようなものなのです」
壁や植物なら覗きは罪にならないと思ってるらしい。
「ところで木から落ちてケガはなかったのか?」
「丈夫なのが取り柄なので擦り傷程度で済みました!」
「そうか」
「そういえば先輩は公爵家の方なので、さぞかし立派な騎士も多いのでしょうね?」
「まぁ……な」
にわかに雲行きが怪しい。
「先輩のお母様は侍女をお求めではないですか?」
「さては貴様、うちの騎士をウォッチ対象にしようとしてるな?」
「本当は自分でお気に入りの騎士を八人くらい雇って眺める日々を送りたいのですが、うちは貧乏なので護衛騎士は父と母にしかついてないのです」
「自分のとこの護衛騎士にめぼしいのはいなかったのか?」
「それが、残念ながら……なので、卒業後で良いので先輩からお母様にお口添えを! 誓って私は無害ですから!」
呆れた女だ。
「しかしうちの騎士にお前の好む組み合わせの男が二人いるかもわからんだろうに」
「……先輩はどう見ても一軍のイケメンなので、お父君もさぞかっこいいのでしょう?」
む? 急に何を言い出すんだ、こいつは。
「父は母一筋で同性には興味ないぞ」
「知ってます! カダフィード夫人は傾国の美女レベルで先代の王の息子も夢中になってイカれちゃったという伝説の!」
確かに皇太子がかつてうちの母にとち狂ったのは有名な話だ。母は今でも美貌が衰えない美魔女のような人なのだ。
「まあ、そのへんは間違いではないが」
「ともかく、類は友を呼ぶ的に美形の周りには美形が複数いると私は思います! レジェンド先輩が冬期休暇に実家に戻られるなら、私荷物持ちでもしますから、遊びに行ってもいいですか!?」
この……BLカプを見たいが為に俺の荷物持ちをするなどと……まったくおかしな女だな。
「ところで俺の名はレジェスであって、レジェンドではない」
「すみません、顔がもうレジェンド、国宝級だと思いまして!」
「口の上手いやつだ。気が向いたら連れてってやるよ」
「ヤッフー! お靴を舐めましょうか!?」
「もっと人としての尊厳をもて」
俺はぴしゃりと断った。
しかし、この喜色満面で俺の靴を舐めると言うとんでもない女に呆れながらも、うっかり笑ってしまったのだった。