「パイセン、この学園、調理実習とかありませんよね、つまんないです」
ハッテンベルガーがアカデミー内の庭の木陰で昼寝してる俺のところにきた。
「貴族のお嬢様は料理など通常しないからな」
「あれば手作りのマドレーヌとか差し入れに渡せたのに……少女漫画にもあったのに……」
「休みの日に作れば?」
「1人で作るのはちょっと……」
「お前もしかして自分が食べたいだけなのでは?」
「バレましたか、先日の醤油ラーメン、美味しかったです」
「今日はラーメンではなくて、学食だった」
俺は食事の後、昼休みにゴロンしてたのだ、芝生の上で。
「そうですね、薬剤室にいませんでしたし」
「ラーメンを求めて行ったのか?」
「ええと、なんとなく?」
ハッテンベルガーはお腹をさすってる。空腹なのか……。
「やれやれ、哀れなやつだ」
「テヘペロ♡」
「午後、サボって抜け出すか? どこかで食べ物を食わせてやってもいい」
「なんと! サボりなんてお坊ちゃまらしからぬ発想!」
「なんとでも言え」
「お供します!」
「ははっ」
なんとも力強い返事だと、俺は笑った。
「でも、学園にバレたらどう言い訳するんです?」
「俺の家は公爵家だから、そう怒られない気がする」
「ずるい」
「お前は俺の付き添いって事にしてやるよ」
「そうか! 従者ポジなら!」
そして予鈴が鳴ったが、俺達は無視してアカデミーの裏にある高い壁をこっそり風魔法で越えた。
ハッテンベルガーは、風魔法とか無理って言うから、仕方なく俺が抱えて飛んだ。
「パイセン、風魔法使えるなんてすごいですね」
「逆にお前は何が使えるんだ、貴族なら一種くらいは魔法使えるんだろ?」
「火です……チャッ◯マンレベルの」
「チャ◯カマンレベルとか……哀れな……」
「お肉とか炙る時にはお役に立てます!」
「おー、その時は頼むわ」
前世はともかく、こちらの世界で授業中に抜け出したのは初めてで、少しだけドキドキした。ガラにもなく……だ。
「パイセン! あそこにガレット屋が!」
確かにハッテンベルガーの指し示す先には出店があった。
「クレープならもっとよかったろうにな」
と、言いつつも、約束なのでガレットの屋台へと向かう。
「パイセンのお力でクレープ屋を出して下さい」
「清々しいまでの、他力本願だな」
「えへへ、このガレット二つください!」
俺はもう昼食を食ったからいらないと言う間もなく、ハッテンベルガーが二つ注文してしまい、
「はい! かしこまり!」
店主もそう答えてしまった。
でもその蕎麦粉のガレットにはベーコンとしめじのようなキノコとチーズと卵が使われていて、なかなか美味そうだったので、おやつ代わりに食うことにした。
「美味しい!」
早速立ち食いするハッテンベルガー。
「そうだな」
「あのぉ、ところでお嬢さんたち、その制服、アカデミーのものではないですか? 授業はどうされたんですか?」
「特権階級なので、少し抜けてきた」
俺は堂々と言った。
「な、なるほど、流石特権階級!」
屋台の店主は納得した。これが貴族パワー!
「こんな堂々としたサボり文句言う人、初めて見ました!」
目を丸くして俺を見るハッテンベルガー。
「お前が空腹そうだったから施してやったんだぞ、食堂行くには遅い時間だったし」
「はっ! ノブレスなんちゃら!」
「ノブレス・オブリージュ」
「あとはタピオカミルクティーでもあれば」
などと、ハッテンベルガーがほざく。
「何がタピオカだよ、ただのジュースで我慢しろ」
「あ、もしやジュースまで奢ってくださる!?」
「そこに果汁100%のジュース屋がある」
良さげな出店をみつけてしまったのだ。
「やっふー!」
「りんごとオレンジがあるぞ、どちらにする?」
「えーと、じゃあパイセンが選ばない方で」
この女はきゅるんとした目で俺を見てきて、明らかにかわいこぶってる。
「もしかしてシェア目当てなのか?」
「だめですかぁ?」
「まったく欲張りなやつだな、仕方ねーから許すが」
「やったー! 許された! パイセン優しい!」
喜ぶハッテンベルガーを横目に、俺はオレンジとりんごジュースを頼み、りんごをハッテンベルガーに、オレンジを自分のものにした。
「りんごジュース美味しい!」
「よかったな」
隣で美味しそうに料理ジュースを飲んでる姿を見守る俺。
「パイセンはオレンジ飲まないんです?」
「先にお前がこっちも一口飲んでいいぞ」
「なんでですか?」
「男が口付けた後は嫌ではないのか?」
「そんな訳ないじゃないですか、自分の顔を鏡見たことないんですか?」
「無いわけないだろ、ったく、気を使ってやったのに」
「パイセン紳士過ぎる……」
「うるせー、早く飲め、やらんぞ」
「飲みます!」
それは俺達の、アカデミー生活中、初めてのサボりタイムだった。