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第81話 目撃

   堂々とエスケープをしたわりに、俺はやはりカダフィード公爵家の嫡男であり、成績も優秀な為、あんまり厳しくは怒られない。


    ハッテンベルガーも俺の従者として同行させたと俺が言ったので、たいして怒られてない。



    が、しかし説教の後で、



「カダフィード君、サボりのペナルティ代わりといってはなんだが、秋の豊穣祭の舞い手をやって欲しい」

「え? 舞い手?」

「ああ、豊穣の舞を舞ってもらう」



    マジか。甘かった。なんのペナルティもなしになるという考えはやはり甘かった。



「……わかりました」



    ここで頑固に断ると、俺はともかくハッテンベルガーが心配だ。



「カダフィード先輩はかっこいいので、きっと舞い手をやっても映えますね!」

「やれやれ、のんきなやつ」



    このアカデミーでの豊穣の舞いは男女ペアになって踊るものだ。


    麦の穂を手に、ステージ上で舞うのだ。晒し上げだ。花形の役割りとはいえ、中身が日本人の俺には恥ずかしい。



「先生、俺のパートナー舞い手の女性は誰がやるんですか?」

「カーネリアン公爵令嬢だ、フロリアーナ・ラ・カーネリアン」

「なるほど、三年生の綺麗どころですね」

「1個しか年齢は違わないから、かまわないだろう、身長もカダフィード君の方が高い」



   授業をサボったのは俺だ、今回は仕方ない。

教師の言うとおりにしよう。



   ◆ ◆ ◆



    そして流石にぶっつけ本番とはいかず、豊穣祭の舞いにはリハーサルがある。


     翌日の昼休みのことだった。大急ぎでサンドイッチを腹に詰め込んで、俺は待ち合わせの場所に向った。


    アカデミーのメインストリートの両サイドには幻獣や精霊達の像が立ち並ぶ。


    わざわざ竜血家門の俺へのアピールか、ドラゴン像の前にて、同じ舞い手の公爵令嬢が待っていた。

    バラのように赤い髪が印象的な令嬢だ。



「ごきんよう、カダフィード公爵令息」

「わざわざ学園内で公爵令息なんてつけなくていいですよ、先輩」



   一応アカデミー内では生徒同士の激しい派閥争いを避けたいとか、のびのび交流させたいという建前から、親の爵位や身分差をあまり気にしないようにせよ。という決まりがあった。



「じゃあ、カダフィード君?」

「はい、カーネリアンさん」

「家名でなく、フロリアーナでいいわ」



   おっと、ファーストネームが許された。



「今日は練習だけど、よろしくね」

「練習場所は武芸館を使えるそうですね」

「ええ」



    我々は場所を体育館的な武芸館へ移した。

    そして、待ち構えていた先生に木の枝をわたされた。



「今日は木の枝なんですね」

「リハーサルだから、麦の穂ではない。こちらのほうが散りにくいんだ」


「なるほど」



    俺とフロリアーナは榊の木の枝に似てる木の枝を先生にわたされた。


    そして魔道具の蓄音機みたいなものから音楽が流れ、それに合わせて踊ることになった。

    日本でも体育の授業にダンスがあったが、だいぶ恥ずかしかった。


    これは神と大地に豊穣を願う為に必要な儀式だと、無理矢理自分を納得させる。




「今日はお疲れ様カダフィード君、休憩室でお茶をご一緒しない?」



   40分ほどカーネリアン家の令嬢と一緒に踊っていたら、だいぶ砕けた雰囲気になっていた。



「そうですね、のどは確かに潤したい」



    そう言って休憩室に行くと、なんと、



「「あっ!!」」



    なんと生徒二人がいちゃついていたのだ。

    女子生徒の制服は乱れ、男子生徒は女の尻を掴んで揉んでいた……。


    学園の休憩室をホテル扱いしてたとは!

    こんなお貴族様学校でこんな事もあるのかと、逆に驚いた。


    俺とフロリアーナは、呆然として固まってしまったが、いちゃついていた男女は慌てて着衣の乱れをなおし、バタバタと休憩室を出て行った。



「ち、ちがう休憩室を使いましょうか」



   フロリアーナも情事の導入部的なシーンを目の当たりにし、顔を赤くして違う部屋に行きたがってる。

   先程生々しい現場を見てしまったので仕方ない。



「まぁ、はい、そうですね……」



   変な空気が場を支配していた。








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