堂々とエスケープをしたわりに、俺はやはりカダフィード公爵家の嫡男であり、成績も優秀な為、あんまり厳しくは怒られない。
ハッテンベルガーも俺の従者として同行させたと俺が言ったので、たいして怒られてない。
が、しかし説教の後で、
「カダフィード君、サボりのペナルティ代わりといってはなんだが、秋の豊穣祭の舞い手をやって欲しい」
「え? 舞い手?」
「ああ、豊穣の舞を舞ってもらう」
マジか。甘かった。なんのペナルティもなしになるという考えはやはり甘かった。
「……わかりました」
ここで頑固に断ると、俺はともかくハッテンベルガーが心配だ。
「カダフィード先輩はかっこいいので、きっと舞い手をやっても映えますね!」
「やれやれ、のんきなやつ」
このアカデミーでの豊穣の舞いは男女ペアになって踊るものだ。
麦の穂を手に、ステージ上で舞うのだ。晒し上げだ。花形の役割りとはいえ、中身が日本人の俺には恥ずかしい。
「先生、俺のパートナー舞い手の女性は誰がやるんですか?」
「カーネリアン公爵令嬢だ、フロリアーナ・ラ・カーネリアン」
「なるほど、三年生の綺麗どころですね」
「1個しか年齢は違わないから、かまわないだろう、身長もカダフィード君の方が高い」
授業をサボったのは俺だ、今回は仕方ない。
教師の言うとおりにしよう。
◆ ◆ ◆
そして流石にぶっつけ本番とはいかず、豊穣祭の舞いにはリハーサルがある。
翌日の昼休みのことだった。大急ぎでサンドイッチを腹に詰め込んで、俺は待ち合わせの場所に向った。
アカデミーのメインストリートの両サイドには幻獣や精霊達の像が立ち並ぶ。
わざわざ竜血家門の俺へのアピールか、ドラゴン像の前にて、同じ舞い手の公爵令嬢が待っていた。
バラのように赤い髪が印象的な令嬢だ。
「ごきんよう、カダフィード公爵令息」
「わざわざ学園内で公爵令息なんてつけなくていいですよ、先輩」
一応アカデミー内では生徒同士の激しい派閥争いを避けたいとか、のびのび交流させたいという建前から、親の爵位や身分差をあまり気にしないようにせよ。という決まりがあった。
「じゃあ、カダフィード君?」
「はい、カーネリアンさん」
「家名でなく、フロリアーナでいいわ」
おっと、ファーストネームが許された。
「今日は練習だけど、よろしくね」
「練習場所は武芸館を使えるそうですね」
「ええ」
我々は場所を体育館的な武芸館へ移した。
そして、待ち構えていた先生に木の枝をわたされた。
「今日は木の枝なんですね」
「リハーサルだから、麦の穂ではない。こちらのほうが散りにくいんだ」
「なるほど」
俺とフロリアーナは榊の木の枝に似てる木の枝を先生にわたされた。
そして魔道具の蓄音機みたいなものから音楽が流れ、それに合わせて踊ることになった。
日本でも体育の授業にダンスがあったが、だいぶ恥ずかしかった。
これは神と大地に豊穣を願う為に必要な儀式だと、無理矢理自分を納得させる。
「今日はお疲れ様カダフィード君、休憩室でお茶をご一緒しない?」
40分ほどカーネリアン家の令嬢と一緒に踊っていたら、だいぶ砕けた雰囲気になっていた。
「そうですね、のどは確かに潤したい」
そう言って休憩室に行くと、なんと、
「「あっ!!」」
なんと生徒二人がいちゃついていたのだ。
女子生徒の制服は乱れ、男子生徒は女の尻を掴んで揉んでいた……。
学園の休憩室をホテル扱いしてたとは!
こんなお貴族様学校でこんな事もあるのかと、逆に驚いた。
俺とフロリアーナは、呆然として固まってしまったが、いちゃついていた男女は慌てて着衣の乱れをなおし、バタバタと休憩室を出て行った。
「ち、ちがう休憩室を使いましょうか」
フロリアーナも情事の導入部的なシーンを目の当たりにし、顔を赤くして違う部屋に行きたがってる。
先程生々しい現場を見てしまったので仕方ない。
「まぁ、はい、そうですね……」
変な空気が場を支配していた。