目次
ブックマーク
応援する
4
コメント
シェア
通報

第83話 チャーシューラーメン

   舞いの練習の後に、一旦寮に戻って風呂に入り、それからチャーシューを作るので薬剤室にてハッテンベルガーと待ち合わせた。



「濡れ髪色っぽいですね、パイセン」 

「男のセリフを取るな、ハッテンベルガー。乾かす時間が惜しかったんだよ」


「私は濡れ髪晒してませんので、セリフを取るもくそもないのです」

「あーはいはい、今からお前をチャーシュー作りのアシスタントに任命する。まずは豚肉の下処理からだ」


「うぃーす、将来侍女になるためだと思って色々やります」 



   公爵夫人の侍女になりたいやつがうぃーす! はないだろ? と、思いつつも、母の前ではないから、ここはスルーする。



「豚バラブロック、そして肩ロースを叩いてやや形をそろえてからキッチンペーパーで拭き、全体に塩を軽く振って30分ほど置く」

「30分も待つんですか……」


   ハッテンベルガーはあからさまにしょげた。


「臭み取りと味の染み込みを良くするためだ、この隙に俺は髪を乾かす。お前は生姜を薄切りにして、ニンニク4欠片を潰しておいてくれ」


「いいですけど、ニンニクは素手で潰すのですか?」


   なんでそんなワイルドな発想になるんだよ。


「包丁の平たい面とかあるだろ」

「なるほど」


   そして俺は窓際に移動し、魔法の杖で風を起こしてドライヤー代わりにした。フオオーッとな。


「えー、次に豚肉を糸で縛り、紐が固定されやすいように肉に軽く切れ目を入れる」

「それ、省略しませんか?  糸はあったけど、タコ糸が分からなくてぇ」


  そういやこっちでは凧上げなんかしないし、タコ糸くださいなんて店で言っても分からんな。似た糸は多分あるだろうけど、店主への説明が面倒。


「確かに丸くしなくていいなら糸巻きは省略しても問題ないよな。では焼きの作業な。フライパンで油を熱し、先に薬味の生姜を炒める」

「うぃーす」


  言われるままにフライパンで炒めてくれるハッテンベルガー。 俺はその作業を横目に砂時計を用意した。  


「生姜は煮汁の容器に移動させ、フライパンでは先に豚バラの方から、次に肩ロースの順番で表面全体に焼き色がつくまで中火で焼く。約7分くらいだ。よし、砂時計をひっくり返すぞ。こうすることで香ばしさが増し、肉汁が閉じ込められるのだ」


「うぃーす」

「次に煮込みの作業だ、これもお前がやってみろ」

「はい」


   真剣に覚えたいのか、急にキリッとした顔になるハッテンベルガー。


「鍋、いや、そこにある深めのフライパンに醤油、酒、水、砂糖、にんにく、生姜、長ねぎを入れ、混ぜ合わせる。焼き色をつけた豚肉を鍋に入れ、中火で沸騰させよ」

「はい、司令官!」


  なんか俺が司令官ポジになった。


「沸騰したら弱火にし、蓋をして約1時間~1時間半、時々肉を裏返しながら煮込む。煮汁が1/3程度になるまで煮詰めるのだ」

「かしこまり!」


「そして冷ます。火を止めてフライパンの中で粗熱が取れるまで冷ます。あ、煮汁に浸したままな。これで味がしっかり染み込むってもんだ」


  そう語りながら俺は鍋を用意し、麺とスープの準備をはじめた。


「なるほど」

「そして冷めたら肉を取り出し、好みの厚さにスライスする」

「はい! いよいよクライマックスですね!」


  うきうきしつつ肉を切り分けるハッテンベルガー。俺はその隙に小ネギを刻む。


「そして茹でたラーメンのトッピングとして今スライスしたチャーシュー、そして刻みネギを盛り付ける」


   俺は湯気の立つラーメンの入った器を二つテーブに置いた。美味そうな香りがしてる。


「はい!」

「あ、煮汁を少量かけるとさらに風味が増すとか言うから一応かけるぞ」 


   煮汁を少しかけた。


「はい!! 美味しそう! これで完成ですね!」

「おうとも」


   そして、二人で箸を手に取り、


「いただきます!」 をした。


  モグモグモグモグモグモグモグモグ。

   チャーシューも 麺も美味い!!

  スープも飲んでみよう。……こくん。うん、いい味だ!


「美味しい! とても美味しい……! チャーシュー柔らかい!」

「ああ、柔らかくて美味いな」

「チャーシューラーメン、アカデミーの食堂でも食べられるようになるといいなぁ」


「そうだな、売店にいちごミルクが入荷したなら、そのうちラーメンも入るといいな。普通の令嬢が麺をすする姿は想像できないが」

「別にずるるっとすすらなくても食べられるじゃないですか」

「まあ、確かに」



   このようにして 本日は薬剤室で料理教室をしてしまったが、食欲の秋なので……仕方ないよな。





この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?