舞いの練習の後に、一旦寮に戻って風呂に入り、それからチャーシューを作るので薬剤室にてハッテンベルガーと待ち合わせた。
「濡れ髪色っぽいですね、パイセン」
「男のセリフを取るな、ハッテンベルガー。乾かす時間が惜しかったんだよ」
「私は濡れ髪晒してませんので、セリフを取るもくそもないのです」
「あーはいはい、今からお前をチャーシュー作りのアシスタントに任命する。まずは豚肉の下処理からだ」
「うぃーす、将来侍女になるためだと思って色々やります」
公爵夫人の侍女になりたいやつがうぃーす! はないだろ? と、思いつつも、母の前ではないから、ここはスルーする。
「豚バラブロック、そして肩ロースを叩いてやや形をそろえてからキッチンペーパーで拭き、全体に塩を軽く振って30分ほど置く」
「30分も待つんですか……」
ハッテンベルガーはあからさまにしょげた。
「臭み取りと味の染み込みを良くするためだ、この隙に俺は髪を乾かす。お前は生姜を薄切りにして、ニンニク4欠片を潰しておいてくれ」
「いいですけど、ニンニクは素手で潰すのですか?」
なんでそんなワイルドな発想になるんだよ。
「包丁の平たい面とかあるだろ」
「なるほど」
そして俺は窓際に移動し、魔法の杖で風を起こしてドライヤー代わりにした。フオオーッとな。
「えー、次に豚肉を糸で縛り、紐が固定されやすいように肉に軽く切れ目を入れる」
「それ、省略しませんか? 糸はあったけど、タコ糸が分からなくてぇ」
そういやこっちでは凧上げなんかしないし、タコ糸くださいなんて店で言っても分からんな。似た糸は多分あるだろうけど、店主への説明が面倒。
「確かに丸くしなくていいなら糸巻きは省略しても問題ないよな。では焼きの作業な。フライパンで油を熱し、先に薬味の生姜を炒める」
「うぃーす」
言われるままにフライパンで炒めてくれるハッテンベルガー。 俺はその作業を横目に砂時計を用意した。
「生姜は煮汁の容器に移動させ、フライパンでは先に豚バラの方から、次に肩ロースの順番で表面全体に焼き色がつくまで中火で焼く。約7分くらいだ。よし、砂時計をひっくり返すぞ。こうすることで香ばしさが増し、肉汁が閉じ込められるのだ」
「うぃーす」
「次に煮込みの作業だ、これもお前がやってみろ」
「はい」
真剣に覚えたいのか、急にキリッとした顔になるハッテンベルガー。
「鍋、いや、そこにある深めのフライパンに醤油、酒、水、砂糖、にんにく、生姜、長ねぎを入れ、混ぜ合わせる。焼き色をつけた豚肉を鍋に入れ、中火で沸騰させよ」
「はい、司令官!」
なんか俺が司令官ポジになった。
「沸騰したら弱火にし、蓋をして約1時間~1時間半、時々肉を裏返しながら煮込む。煮汁が1/3程度になるまで煮詰めるのだ」
「かしこまり!」
「そして冷ます。火を止めてフライパンの中で粗熱が取れるまで冷ます。あ、煮汁に浸したままな。これで味がしっかり染み込むってもんだ」
そう語りながら俺は鍋を用意し、麺とスープの準備をはじめた。
「なるほど」
「そして冷めたら肉を取り出し、好みの厚さにスライスする」
「はい! いよいよクライマックスですね!」
うきうきしつつ肉を切り分けるハッテンベルガー。俺はその隙に小ネギを刻む。
「そして茹でたラーメンのトッピングとして今スライスしたチャーシュー、そして刻みネギを盛り付ける」
俺は湯気の立つラーメンの入った器を二つテーブに置いた。美味そうな香りがしてる。
「はい!」
「あ、煮汁を少量かけるとさらに風味が増すとか言うから一応かけるぞ」
煮汁を少しかけた。
「はい!! 美味しそう! これで完成ですね!」
「おうとも」
そして、二人で箸を手に取り、
「いただきます!」 をした。
モグモグモグモグモグモグモグモグ。
チャーシューも 麺も美味い!!
スープも飲んでみよう。……こくん。うん、いい味だ!
「美味しい! とても美味しい……! チャーシュー柔らかい!」
「ああ、柔らかくて美味いな」
「チャーシューラーメン、アカデミーの食堂でも食べられるようになるといいなぁ」
「そうだな、売店にいちごミルクが入荷したなら、そのうちラーメンも入るといいな。普通の令嬢が麺をすする姿は想像できないが」
「別にずるるっとすすらなくても食べられるじゃないですか」
「まあ、確かに」
このようにして 本日は薬剤室で料理教室をしてしまったが、食欲の秋なので……仕方ないよな。