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第86話 熱を出した

通り雨に降られ、ハッテンベルガーに上着を貸し、アホなことに風邪をひいた。



「おはようございます」

「……ああ……おはよう……ニールか」

「はい、ニールです。ところでレジェス先輩、声、枯れてますね」

「あーーどうやら風邪だ……」



同じ寮にいる、後輩の男が朝食の為に食堂に降りて起きて来ない俺を心配して、部屋までまで来た。優しげなイケメンの茶髪の男なのだが、家門は侯爵家だ。かなり高位。



名をニール・シル・ライン・エヴェレストと言う。エベレストみたいな名前だ。



実は、このアカデミーには変な伝統があった。


入学式で先輩が新1年生に入学おめでとうって、胸に飾る花を贈る伝統。


俺はたまたまコイツに赤い花飾りを贈った。

相手は自分で選んでいいって、システムだったので。


たまたま近くにいて、このアカデミーに咲く桜の花を眺めていた、この男にだ。


そう、この学園、なぜか桜が庭園にあるのだ。

はじめはアーモンドの木とか、似てるけど違うものかと思ったが、ほんとに桜だった。


それ以降、なんとなく懐かれたりしてる。

BL 好きなハッテンベルガーに話すと無駄に喜びそうなので、なんとなく秘密にしてる。




「流血って風邪を引くんですね」

「俺も初めてで驚いてる」

「何か欲しいものがありますか?」



と言っても、この世界にはゼリー飲料も、スポドリも、アイスもない。


「売店のいちごミルクに氷結魔法をかけたやつ……」



魔法を使えばいちごミルクシャーベットになるのでは?



「コールドの魔法持ちなんて、いましたかね、先輩以外に」

「俺が自分でやるから、いちごミルクだけ買って来てくれたらいい、金はそこの机の一番下の引き出しの中だ、これ、鍵」



寮生に与えられる鍵付きの机なので、手首に付けてるブレスレットの鍵をブレスレットごと外してニールに投げた。


「おっと!」


ニールは驚きつつも、ちゃんとブレスレットを受け止め、鍵を開けて小銭を持って部屋を出た。


しばらくして、ニールが売店からいちごミルクを、買って来てくれた。

手にはなんと桃までもってる。


「どうしたんだ? その桃は」

「家から送られて来た果物があったのを思い出しまして、当家も貿易には力を入れてますから」

「あー、なるほど」



そういや他国との貿易をするのに、エヴェレストの貿易船を、エルシードは買っていた気がする。エヴェレストは貿易と造船業をやってるから。


俺はベッドの上で上半身を起こし、買って来てもらったカップ入りいちごミルクをカチンコチンにならない程度にアイスフェアリーを使ってシャーベット状にして食べた。


冷たくて美味い。



「桃はどうします? ナイフで切りましょうか?」

「ああ、そうしてくれたら助かる、まるかじりしたらびしょびしょになるこら」



ナイトテーブルにある果物ナイフと、棚にある皿を使い、ニールは桃を簡単に食べられる姿にしてくれた。

一口サイズにして、フォークもつけてくれたのだ。



「うん、こっちも美味い……」



口に含むと、桃の芳醇な香りと甘味が口の中に広がった。……完食したのでまた横になった。



「布、水つけて絞りますね」



陶器の洗面器に水を入れ、タオル代わりの布を手にして水に浸け、いちごミルクシャーベットと桃を食べた後に、また横たわっていた俺の額の上に置いてくれた。


ひんやりして気持ちがいい。



「甲斐甲斐しい男だな」

「レジェス先輩の後輩ですから」

「……ニール、もう行け、朝の授業に遅れるぞ」


「はい、先輩は本日、風邪で欠席だと、寮長に伝えておきます」

「ああ……ありがとう」



それから ……俺はなんか猛烈に眠くなってきて、また眠りに落ちた。


眠りに落ちる前に、ハッテンベルガーはちゃんと新しい予備の上着を注文できたのかなぁ?と思ったりした。


二度寝から復帰すると、昼過ぎてて、ナイトテーブルには誰かが置いてくれたサンドイッチと、紅茶があった。



そして、俺がハッテンベルガーに貸したはずの制服の上着も椅子の背もたれにかかってた。

ハッテンベルガーは男子寮には入れないはずなので、きっと誰かに預けたんだろう。


サンドイッチの皿の下にメモ書きがあり、サンドイッチ食べてください、ってのと、1年女子のハッテンベルガーから先輩から借りたらしい上着を預かったので、椅子にかけておくとの走り書きがあった。



「なるほどな、ハッテンベルガーはニールに会ったんだな……変な妄想をしてないといいが……」







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