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第88話 ガラス瓶に

アカデミーの行事で、秋の課外学習として島に行く事となった。

いわゆる自然教室ってやつであり、この学習はなんと2年と1年が合同でやる授業だ。


現地にて自分らで食材を得て食べ、レポートを出すって授業だ。


しかし、何も採れなかった場合を考えて材料の持ち込みは一応許可されている。

流石貴族学園、サバイバルかと思いきや、かなりぬるい。


そして2年はその時面倒を見る、一緒に過ごす1年生を二人まで選べる。


そして当日、船に乗り、それから島の港に着いた。

船から降りたら花の飾りの道ができていた。ハネムーンでもないのに派手だな。


島民の歓迎ぶりがすごい。

貴族の通う学園の生徒が来るから、金を積んでるのかもしれない。


桟橋を降り、浜辺に着いてから俺は奴らと合流した。秋空の下、浜辺を駆けてくる、二人の人影。



「パイセン!!」

「レジェス先輩!」



ハッテンベルガーとニールしかさほど親しい者がいない俺には、他に選択肢はなかった。まぁ、慣れてるやつらだから、気がねがいらない。



「おお、来たか」

「パイセン! まず、浜辺で何をしますか!? 綺麗な貝殻を探しますか!? 願いを書いて瓶に詰めて海に流したりしますか?」



側に来るなりハッテンベルガーは元気にまくし立てた。遊ぶ気満々だな。



「瓶を海に流す……? そうだな、美味しいお米が欲しいとでも書いておくか。稲の絵を添えて」

「なるほど! では私は……己の夢を書きます」



チラリとニールの方を見てから、どうやら言葉を選んだハッテンベルガー。俺とニールの関係にも夢を見てるからな、こいつはな。

ニールの方は何のことかさっぱり分からず、首を傾げるだけだ。


多分、瓶に入れるメモに書く内容は……イケメン二人のイチャコラBLシーンが見たいとか、仲の良いイケメン騎士を複数雇えますように! とかだろう。



「ところでコメってなんですか? レジェス先輩」

「ライスのことだ、あれにもそこそこ種類がある筈でな、もっと美味しい品種のやつをもとめてる」

「そうなんですか」


「さしあたって森で狩りをするか、最悪取れなくても先日自作したチャーシューや玉ねぎがあるから、炒飯が作れる」

「ヤッフー!!」


ハッテンベルガーがはしゃいだ声をだした。


「するとレジェス先輩、海で魚とかは採らないんですか?」


ニールは目の前が海なので、そっちのが手軽だと考えたのだろう。



「夏も終わってるし、海に入るとクラゲがいるんじゃないか?」

「ああ、あの刺してくる透明感のある生き物……図鑑で見ました」


「ここに打ち上げられたクラゲいますよ!」



いつの間にかハッテンベルガーがクラゲの側に移動してた!



「むやみに触るなよ! ハッテンベルガー!」

「分かってますよパイセン! 特に色の濃いクラゲは毒持ちの可能性が高いですし! 紫とか青とか!」

「……ふぅ、分かってるならいいが」



俺は魔法の袋から瓶と万年筆と便箋セットを三つ出し、2つを後輩二人に渡して、そのへんの大きな流木に座り、自分の瓶に入れる物を用意することにした。


便箋にこの植物を探していますと稲の絵と米粒を描いて、金貨1枚と銀貨1枚の2枚セットもついでに入れた。


光りものがあれば、誰か食いつくだろうという魂胆だ。


俺は海に向かって力いっぱい瓶を放り投げた。


すると降り注ぐ秋の陽光に照らされた海の青と白い波に飲まれ、瓶は一瞬で見えなくなった。


海に流すガラス瓶に願いを託すのであれば……本来ならもっとロマンチックなことを書くべきなんだろうが、こいつらにそんなことを書くところを万が一にも見られたくない。恥ずかしい。


そしてニールやハッテンベルガーも瓶を海に投げた。




「ニールさんは何を書いたんですか? 好きな人と結ばれたいとか書きました!?」



ハッテンベルガーが早速ニールに食いついている。



「え、大切な人が幸せになりますようにと」

「そ、その大切な人って?」

「はは、さぁ、誰でしょうね?」



ニールは笑顔ではぐらかした。それではめちゃくちゃ想像の余地を与えてしまうぞ、ニールよ。相手は腐女子だぞ。



「な、なるほど、秘めたる恋なんですね!」

「恋とは一言も言ってませんが」

「だって家族とか相手なら秘密にする必要ないですよね……」

「ええ〜?」



ニールは困ったように笑った。



「あまり深掘りするな、消されるぞ……」



あえて低い声で俺がそう言うと、



「ひえ! ニールさんは実は二面性のある腹黒系イケメンでしたか!」



と、俺の冗談に乗って返すハッテンベルガー。



「なんなんですか、お二人は〜」



俺達のふざけたノリに苦笑しつつ困惑するニールは真人間だ。可哀想にな。








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