島の湿った空気の中で、俺が空を見上げると黒い雲が立ち込めて来た。
「……雨が降りそうだ、雨宿りできる場所を探すぞ」
「あ、そういえば船は?」
ハッテンベルガーがキョロキョロしながら海上にあったはずの俺達が乗ってきた大きな船を探す。
「もう帰ったんだろ、この生き残り授業が終わった頃に戻ってくると教師も言ってたし」
「ワオ〜、貴族の子女相手になかなかのスパルタですね」
「我々貴族は王命で戦場に派遣されることもあるのだし、多少は厳しい状況に慣れておけと言うことだろうな」
「僕、木の下に置いといたリュック回収してきます!」
「あ! 私も!」
木の下に置いておいた荷物を取りにニールとハッテンベルガーが走った。
「どうぞ、先輩の分です」
ニールが俺の文まで取ってきてくれた。
「ありがとう」
「では、洞窟を探しますか」
ニールがそう言ったとたん、どざーーっ!!
と、突然スコールのような雨が我々を襲った。
「雨、もう降ってきたな」
「びしょ濡れになりましたね」
「大丈夫、下は水着です、島なので!」
ハッテンベルガーが胸を張るが、
「でも冷えるし、雨に濡れるここでは火も使えないから洞窟に避難するぞ」
「「はーい」」
俺は胸から下げていたペンデュラムのペンダントを振り、それに従い進路を決定し、見事洞窟を発見した。
その洞窟の入り口はかなり大きく、奥もなかなか深いようだった。
「パイセンのペンデュラムパワー凄いですね」
ハッテンベルガーが洞窟の黒っぽい岩肌を眺めつつも思わず感心する。
「これはヒマレア水晶でできているからな」
「霊山と言われるパワースポットですね」
ニールの言葉に頷く俺は、羽織っていた長袖シャツを脱いだ。濡れたものを着ていると気持ち悪い。
「びしょ濡れだ、火を焚いて温めないと」
俺がそう言った瞬間、
「ああーーっ!!」
ハッテンベルガーが叫んだ。
「どうした、お前、大きな声を出して」
「何故私はここに!?」
「落ち着けよ、洞窟探して一緒に来たからだろ」
俺は当然なことをツッコんだ。
「そうだけどそうではなくて! 島でドキドキ遭難イベントで、何故私のような邪魔者がここに!という意味です!」
ああ、腐女子のたわごとだったか。
「おまえも濡れてるんだぞ」
「私のことはそのへんに生えてる植物、あるいは岩壁だと思ってください」
そして壁と同化でもしたいのか、岩壁に近寄るハッテンベルガー。
「あんまり壁際に行くと、虫が居るかもしれんぞ」
「ひっ!!」
「あ! そこにフナムシみたいなのが!!」
ニールが虫を発見した。
「きゃーーっ!! 流石に虫は苦手です! 早くお二人は抱き合って体温を分け合ってください!!」
「なに言ってんだ、ハッテンベルガー。今から火を焚くんだよ、俺とニールが抱き合う必要はない」
「どこに濡れてない薪があるというのかね!?」
ムス◯みたいな口調でまくしたてるハッテンベルガー。そのネタ俺にしか通じないぞ。
「ほら、洞窟の少し先に何かの巣だったのか、枝がたくさんある」
「パイセン冷静すぎるっす!」
「ただ、俺はお前達に謝らないといけないかもしれない」
俺が薪にする枝を集めつつそう言うと、
「何をですか?」
と、ニールも上着のシャツを脱ぎ、小枝を集めを手伝いつつ俺に問う。
「煙が出ると洞窟の奥から蝙蝠や虫等がびっくりして出てくる可能性がある」
「ぎええーっ!! 火を炊くのを諦めて抱き合っていただいていいですか!? 私のことはお気になさらず!」
なんとも色気のない悲鳴をあげるハッテンベルガー。
「虫や蝙蝠に恐怖を感じつつも自分の欲望を満たそうとするとは、流石だなお前」
「しこし、蝙蝠はこんなに騒いでても出て来ませんね、本当にいるんでしょうか?」
そう言ってニールは洞窟の奥の暗がりを見つめた。
「やつらはそんなに耳も良くないし、目もほぼ見えてない、ただ超音波には反応する」
「チョウオンパ?」
ニールが聞き慣れない単語をオウム返しした。
「パイセン、超音波は人間は出せませんよね?」
「人間にも超音波は出せなくもない、状況により」
「どうやるんですか?」
ニールが興味深いと言った風情で俺を見た。
「鼻をすする音だ、蝙蝠に出て来てほしくないなら、鼻をすするな」
「ひぇー! 風邪ひいてたら詰み! でも煙たてても出るなら、どのみちやつらが飛び出してくる危険はありますよね!?」
ハッテンベルガーは、己の体を怖ごわと抱きしめ震えあがる。
「その時は僕を盾にしていいですよ、ハッテンベルガーさん」
「ニールさん紳士!」
ハッテンベルガーはニールの言葉に感心はしたが、
「あー、でも男子の間に挟まりたくない! 邪魔したくない!」
百合の間に挟まる男は有罪みたいなことを言っていた。
「勝手にそんな関係にするな」
「あはは、ハッテンベルガーさんは面白いなぁ」
洞窟の奥にいるなら火をつけるとガスなどの危険性が有るが、入り口付近だから酸欠にもならんし、なんとかなるだろう。
『エンチャント・ファイア』
俺はハッテンベルガーに呆れつつも、火魔法で容赦なく薪に火を着けた。