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第六話 剣の試練

野盗に襲われた村人たちの悲痛な訴えを聞き、宗則は、自らの力と向き合い、彼らを救う決意をする。


「…どうか…お助けください…お侍様…」


村長の懇願する声が、宗則の心に重く響く。

彼は、鏡の試練で見た自らの心の闇を思い出し、怯えていた。

しかし、目の前の村人たちを見捨てて、逃げることなどできなかった。


「…私が…必ず…皆さんを守ってみせます…!」


宗則は、震える声で、そう言った。

その言葉は、彼自身への誓いでもあった。


その時、宗則の背中に、あの焼けるような感覚が走った。

同時に、耳元で、八咫烏の声が響く。


「…これが…お前の…『剣の試練』…じゃ…宗則…」


「…己の力…を…制御し…人々を…守れ…!」


宗則は、ゆっくりと息を吸い込み、心を落ち着かせた。

八咫烏の言葉が、彼に勇気を与えてくれた。


宗則は、村人たちを森から離れた安全な場所へと避難させた。

そして、一人、森の入り口へと向かった。


夕闇が迫る森は、不気味な静けさに包まれ、木々の間からは、獣の唸り声や、不気味な虫の音が聞こえてくる。

時折、枯れ葉を踏む音が、静寂を破り、宗則の緊張感を高めた。


宗則は、八咫烏の導きによって、森の中心部にある、古びた祠へとたどり着いた。

祠の周りには、邪悪な気配が漂い、宗則の背中のあざが、激しく熱を帯び始める。

まるで、この場所に、何か恐ろしいものが潜んでいることを、警告しているかのようだった。


宗則は、祠の前に立ち、深呼吸をする。

そして、両手を胸の前で合わせ、白雲斎から教わった結界の呪文を唱え始めた。


「臨兵闘者皆陣列在前…!」


しかし、彼の力は、制御することが難しく、結界は、なかなか完成しない。

焦りと不安が、宗則の心を蝕んでいく。

彼の額から、冷や汗が流れ落ち、手は震えていた。


その時、黒い羽根が、宗則の目の前に、ひらひらと舞い降りてきた。

八咫烏が、彼の前に姿を現したのだ。


「…宗則…お前の心…が…乱れておる…心を…静め…澄ませ…そして…力…を…一つに…」


八咫烏の言葉は、静かだが、力強く、宗則の心に響き渡った。


宗則は、深呼吸を繰り返し、心を無にしようと試みた。

雑念を払い、ただ、目の前の試練に集中する。

守るべきもの…それは…目の前の村人たち…そして…この戦乱の世に苦しむ…全ての人々…。


徐々に、彼の背中のあざから放たれる光は、安定し始め、白い霧も、静かに渦を巻くようになった。

宗則は、自らの力を、制御できるようになってきたことを実感した。


「…感じるのじゃ…宗則…お前の…内なる力…を…」


八咫烏は、宗則の目をじっと見つめ、言った。


「…その力…は…決して…恐れるものではない…それは…お前を…そして…人々を…守るための…力…じゃ…」


宗則は、八咫烏の言葉に、勇気づけられた。

彼は、再び、結印を結び、呪文を唱え始めた。


「臨兵闘者皆陣列在前…急急如律令…!」


今度は、彼の声に、迷いはなかった。

宗則の背中のあざは、眩い光を放ち、白い霧は、さらに濃く、森全体を覆い尽くした。

霧は、渦を巻き、やがて、巨大な光の壁へと変化していく。

それは、目に見えない壁となり、邪悪なものを寄せ付けない、強力な結界だった。


森の奥から、野盗たちが姿を現した。

彼らは、十人ほどの集団で、顔には、傷や刺青があり、残忍な雰囲気を漂わせていた。

先頭に立つのは、鬼熊と呼ばれる大男だった。

鬼熊は、顔に大きな傷があり、片目に眼帯をしていた。

彼は、巨大な鉞を肩に担ぎ、威圧感たっぷりに歩いてくる。


「…おい…あれを見ろ…!」


「…何だ…あれは…!?」


野盗たちは、結界に阻まれ、驚愕する。

彼らは、目に見えない壁に阻まれ、身動きが取れなくなっていた。


鬼熊は、怒り狂い、鉞を振り上げて結界に斬りかかった。

しかし、鉞は、結界に弾かれ、鬼熊は、よろめいた。


「…ぐぬぬ…この結界…何者だ…!?」


「…まさか…陰陽師…!? 」


鬼熊は、恐怖に慄きながら、森の奥へと姿を消した。

野盗たちは、リーダーを失い、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。


宗則は、力を使い果たし、その場に倒れ込んだ。

しかし、彼の顔には、安堵の表情が浮かんでいた。


「…よくやった…宗則…」


八咫烏は、宗則に、優しく語りかけた。


「…お前は…剣の試練を…乗り越えた…」


宗則は、八咫烏の言葉に、深く頷いた。

彼は、自らの力で、村人たちを守ることができたのだ。


「…しかし…試練は…まだ…終わらぬ…宗則…」


八咫烏は、鋭い眼光で宗則を見つめ、告げた。


「…次なる試練…『火の試練』…が…お前を…待ち受けている…」


八咫烏は、そう言うと、夜空へと舞い上がり、闇の中に消えていった。


宗則は、八咫烏の言葉に、新たな不安と、同時に、期待を感じるのだった。


(続く)

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