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第十四話 陰謀の兆し

鞍馬山の試練を終え、京の都に戻った宗則は、春蘭の屋敷で、彼女と再会した。



「…お帰りなさいませ…宗則様…」



春蘭は、静かに微笑んだ。

彼女の表情は、以前よりも柔らかく、宗則は、彼女が、自らの成長を認めてくれたように感じ、安堵した。



「…花山院様…私…」



宗則は、鞍馬山での出来事を、春蘭に詳しく報告しようとした。

三つの試練、泰山府君との出会い、そして、彼が授かった新たな力…。



しかし、春蘭は、宗則の言葉を遮り、静かに言った。



「…全て…分かっております…宗則様…」



彼女の言葉は、静かだったが、力強かった。

宗則は、春蘭の言葉に、自らの能力が、すでに、彼女に見抜かれていることを悟り、驚きを隠せない。



「…あなたは…今…大きな…運命の…渦中に…います…宗則様…」



春蘭は、宗則の目をじっと見つめ、静かに続けた。



「…この都…そして…この国…を…守るために…あなたは…自らの力…を…使わなければなりません…」



「…しかし…私は…まだ…」



宗則は、言葉に詰まった。

彼は、まだ、自らの力に、自信を持つことができなかった。



「…心配いりません…宗則様…私が…あなたを…導きましょう…」



春蘭は、宗則に、優しく微笑みかけた。

その笑顔は、宗則の不安を、和らげるものだった。



「…さあ…参りましょう…宗則様…今宵…あなたを…ある人物に…紹介したいと…思っております…」



春蘭は、宗則を促し、屋敷の中へと案内した。



その夜、宗則は、春蘭と共に、公家の屋敷で行われる雅な宴に招待された。

屋敷は、豪華絢爛で、多くの貴族たちが集まっていた。

美しい着物、華やかな装飾、雅な音楽…。

宗則は、その華やかさに圧倒されながらも、周囲を警戒していた。



(…都の公家たち…彼らは…一体…何を考えているのだろうか…?)



宗則は、白雲斎の言葉を思い出した。



「…都は…魑魅魍魎が跋扈する…恐ろしい場所…じゃ…」



宗則は、緊張しながら、春蘭の後ろを歩いた。



「…宗則様…こちらへ…」



春蘭は、宗則を、一人の若者の前に連れてきた。



「…こちら…藤原蓮様…私の甥…でございます…」



若者は、宗則に、優雅な微笑みを向けた。



「…藤原蓮と申します…お会いできて光栄です…宗則殿…」



蓮は、宗則に、深々と頭を下げた。

漆黒の髪、透き通るような白い肌、切れ長の瞳。

彼は、高貴な紫色の着物を身にまとい、その立ち居振る舞いは、優雅で、洗練されていた。



(…この方が…蓮様…?)



宗則は、蓮の美しさに、一瞬、見惚れてしまった。

しかし、次の瞬間、彼は、春蘭の言葉を思い出した。



(…彼は…人を操る術に長けている…用心しなければ…)



宗則は、蓮の言葉の裏に隠された本心を見抜こうと、彼の目をじっと見つめた。



宴の間、蓮は、宗則に、親しげに話しかけてきた。



「…宗則殿…この都の政は…腐敗しております…二条尹房殿は…禁断の術を求め…帝を…操ろうと…企んでおります…このままでは…この国は…滅びてしまうでしょう…」



蓮は、憂いを含んだ表情で、そう言った。



「…しかし…私は…まだ…未熟者…私に…一体…何が…できるというのでしょうか…?」



宗則は、戸惑いながら、答えた。



「…宗則殿…あなたは…『泰山府君祭』の術を…習得したと…聞いています…」



蓮は、宗則の目をじっと見つめ、静かに言った。

その瞳には、底知れぬ野心が渦巻いていた。



「…その力…私たち…近衛家…のために…貸していただけませんか…?」



宗則は、蓮の言葉に、背筋が凍る思いがした。

彼は、蓮の真意を感じ取った。

蓮は、宗則の力を使って、近衛家の権力を拡大しようと企んでいるのだ。



「…わたくし…まだ…その力…を…制御できるか…分かりません…」



宗則は、蓮の申し出を、やんわりと断った。



「…そうですか…残念です…」



蓮は、少しだけ、表情を曇らせた。

しかし、すぐに、いつもの優雅な微笑みを浮かべた。



「…では…また、近いうちに…お会いしましょう…宗則殿…」



蓮は、意味深な笑みを浮かべると、闇の中に消えていった。

宗則は、蓮の言葉に、言い知れぬ不安を感じた。

その時、彼の背中のあざが、かすかに、熱を帯びるのを感じた。

それは、まるで、何か…不吉なことが…起こる前兆…のようだった。



(続く)

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