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第二十一話 師の想い

永禄六年(1563年)春。

山間の白雲斎の寺には、桜の花が咲き乱れ、春の息吹が感じられた。


信長との同盟と引き換えに、宗則は織田家に仕官することとなった。

春蘭は、宗則に、信長の下で藤原家のために力を尽くすようにと告げ、彼を送り出した。

彼女の瞳には、不安と期待が入り混じっていた。


宗則は、綾瀬と共に、尾張へと向かう道中、白雲斎の寺に立ち寄ることに決めた。

これから信長に仕えるにあたり、師である白雲斎に報告し、助言を求めたかったのだ。


「師匠、わたくし、信長様に仕えることになりました」


宗則は、白雲斎に、深々と頭を下げた。


白雲斎は、宗則の報告を聞き、静かに頷いた。


「そうか、信長殿は稀代の英雄じゃ。だが、彼もまた、わしと同じ闇を抱えておる」


白雲斎は、遠くを見つめるような目で、静かに語った。


「宗則、お前は、わしのような過ちを繰り返してはならぬ。お前の力は人々を救うためにある。それを決して忘れてはならぬぞ!」


白雲斎は、宗則の肩に手を置き、力強く言った。

彼の言葉には、深い悲しみと、強い決意が込められていた。


「春蘭は難しい立場にいる。その選択が時には厳しいものであったとしても、藤原家のためであることを信じるのだ」


白雲斎は、意味深な言葉を続けた。


「彼女は闇を抱えている。その闇は、お前を飲み込むかもしれない。気をつけろ、宗則」


「春蘭様…ですか?」


宗則は、白雲斎の言葉に、驚いた。

春蘭様は闇を抱えている…?

一体どういうことなのだろうか?


「わしはこれ以上何も言えん。あとは、お前が自分の目で確かめるのじゃ」


白雲斎は、宗則の目をじっと見つめた。

彼の瞳には、深い悲しみと、強い決意が宿っていた。


宗則は、白雲斎の言葉の意味を、理解しようと努めた。


(春蘭様は…一体…?)


宗則は、春蘭への想いと、師の言葉の間で、心が揺れ動いた。


「師匠、私は、春蘭様の決断を信じ、これからも藤原家を守るために力を尽くします」


白雲斎は、宗則の言葉に、満足そうに頷いた。


「よし、ではお前がこれから進む道が決まったことを祝おう」


白雲斎は、宗則に、酒を注いだ。


二人は、静かに杯を交わし、宗則の旅立ちを祝った。

酒の温かさが、宗則の心を、少しだけ和らげた。


「宗則様、信長様は、確かに、危険な人物かもしれません。しかし、私は信じています。宗則様なら、必ず、信長様を正しい道へと導くことができると」


綾瀬は、宗則に寄り添い、静かに言った。

彼女の言葉は、宗則の心を支えるものだった。


翌日、宗則は、白雲斎の寺を後にした。


「師匠、私は、必ず、あなたの教えを胸に刻み、この乱世を生き抜いてみせます!」


宗則は、心の中で、師に誓った。


二人は、険しい山道を、尾張へと向かって歩き始めた。

やがて、彼らの前に、巨大な城が見えてきた。

それは、信長の居城…清洲城だった。


(信長様…)


宗則は、信長との出会いに、期待と不安を胸に、清洲城へと歩みを進めた。


(続く)

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