永禄六年(1563年)春。
山間の白雲斎の寺には、桜の花が咲き乱れ、春の息吹が感じられた。
信長との同盟と引き換えに、宗則は織田家に仕官することとなった。
春蘭は、宗則に、信長の下で藤原家のために力を尽くすようにと告げ、彼を送り出した。
彼女の瞳には、不安と期待が入り混じっていた。
宗則は、綾瀬と共に、尾張へと向かう道中、白雲斎の寺に立ち寄ることに決めた。
これから信長に仕えるにあたり、師である白雲斎に報告し、助言を求めたかったのだ。
「師匠、わたくし、信長様に仕えることになりました」
宗則は、白雲斎に、深々と頭を下げた。
白雲斎は、宗則の報告を聞き、静かに頷いた。
「そうか、信長殿は稀代の英雄じゃ。だが、彼もまた、わしと同じ闇を抱えておる」
白雲斎は、遠くを見つめるような目で、静かに語った。
「宗則、お前は、わしのような過ちを繰り返してはならぬ。お前の力は人々を救うためにある。それを決して忘れてはならぬぞ!」
白雲斎は、宗則の肩に手を置き、力強く言った。
彼の言葉には、深い悲しみと、強い決意が込められていた。
「春蘭は難しい立場にいる。その選択が時には厳しいものであったとしても、藤原家のためであることを信じるのだ」
白雲斎は、意味深な言葉を続けた。
「彼女は闇を抱えている。その闇は、お前を飲み込むかもしれない。気をつけろ、宗則」
「春蘭様…ですか?」
宗則は、白雲斎の言葉に、驚いた。
春蘭様は闇を抱えている…?
一体どういうことなのだろうか?
「わしはこれ以上何も言えん。あとは、お前が自分の目で確かめるのじゃ」
白雲斎は、宗則の目をじっと見つめた。
彼の瞳には、深い悲しみと、強い決意が宿っていた。
宗則は、白雲斎の言葉の意味を、理解しようと努めた。
(春蘭様は…一体…?)
宗則は、春蘭への想いと、師の言葉の間で、心が揺れ動いた。
「師匠、私は、春蘭様の決断を信じ、これからも藤原家を守るために力を尽くします」
白雲斎は、宗則の言葉に、満足そうに頷いた。
「よし、ではお前がこれから進む道が決まったことを祝おう」
白雲斎は、宗則に、酒を注いだ。
二人は、静かに杯を交わし、宗則の旅立ちを祝った。
酒の温かさが、宗則の心を、少しだけ和らげた。
「宗則様、信長様は、確かに、危険な人物かもしれません。しかし、私は信じています。宗則様なら、必ず、信長様を正しい道へと導くことができると」
綾瀬は、宗則に寄り添い、静かに言った。
彼女の言葉は、宗則の心を支えるものだった。
翌日、宗則は、白雲斎の寺を後にした。
「師匠、私は、必ず、あなたの教えを胸に刻み、この乱世を生き抜いてみせます!」
宗則は、心の中で、師に誓った。
二人は、険しい山道を、尾張へと向かって歩き始めた。
やがて、彼らの前に、巨大な城が見えてきた。
それは、信長の居城…清洲城だった。
(信長様…)
宗則は、信長との出会いに、期待と不安を胸に、清洲城へと歩みを進めた。
(続く)