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第二十二話 稲葉山城への道

永禄六年(1563年)初夏。

尾張国、清洲城。


宗則は、信長と対面し、その圧倒的な存在感に畏怖の念を抱いた。

信長の鋭い眼光、力強い言葉、そして、周囲に漂う威圧感…。

宗則は、自らが、戦国の世を揺るがす巨大な力に、巻き込まれたことを、改めて実感した。


「それがし、東雲宗則と申す。信長様にお仕えできること、光栄に存じます」


宗則は、深々と頭を下げた。


「うむ。白雲斎の弟子と聞いておる。知略に長けた男だと」


信長の声は、低く、力強かった。

その声は、まるで雷鳴のように、宗則の心に響いた。


「師匠の教えを、少しばかり…」


宗則は、謙遜した。


「良い。わしは、そなたのような、才のある男を求めていた」


信長は、宗則に満足そうに頷いた。

その眼光は、宗則の能力を見極めようとする、鋭いものだった。


「権六!」


信長は、勝家を呼び出した。


「はっ!」


勝家は、信長の前に進み出た。

彼の体躯は大きく、鎧を身にまとった姿は、まさに戦場の鬼のようだった。


「宗則を、そなたの家臣に加えよ。その知略を、存分に活かせ」


信長は、勝家に命じた。


「宗則、そなたは、権六の下で、わしのために力を尽くせ」


「はっ! ありがたく、お受けいたします!」


宗則は、信長と勝家に深く頭を下げた。


こうして、宗則は柴田家の家臣となった。

信長は、織田家を一層強大にするため、適材適所を重視し、宗則のような知略に長けた人物を巧みに活用しようとしていたのだ。


「宗則、そなたには、わしの軍師として、働いてもらう」


勝家は、豪快に笑いながら言った。


「わしは、戦のことしか分からぬ。そなたの知恵を、わしの武力で、天下に示そうぞ!」


彼の言葉は、力強く、宗則の心に響いた。


(この人は…本当に…強い…!)


「はっ! 全力を尽くします!」


宗則は、勝家の言葉に力強く答えた。


宗則は、柴田家の屋敷に移り住み、勝家の軍師として働き始めた。

信長に仕えることへの不安は、まだ消えない。

しかし、勝家の力強い言葉と、彼から感じる武人としての純粋な熱意に、宗則は、わずかながらも、希望を感じていた。


数日後、宗則は、勝家から呼び出された。


「宗則、只今、美濃との国境付近で、小競り合いが頻発しておる。敵は、斎藤龍興。道三亡き後、美濃を治めておる若造じゃ」


勝家は、厳しい表情で言った。

彼の言葉には、戦場を生き抜いてきた男の、凄みがあった。


「龍興は、若いが、侮れぬ相手だ。油断すれば、痛い目に遭うぞ」


「はっ」


宗則は、気を引き締めた。


「そこで、宗則、そなたに、策を練ってもらいたい。いかにして、龍興を討ち、美濃を平定するか…」


勝家は、宗則に期待を込めて言った。


「かしこまりました」


宗則は、深く頭を下げた。


宗則は、早速、美濃の情勢について調べ始めた。

彼は、地図を広げ、敵の城の配置、兵力、そして、周辺の地理などを、丹念に分析した。

特に、信長が狙う稲葉山城の守りと、それを支える支城の配置を、注意深く確認した。


(龍興は、若く、経験不足…しかし、油断は禁物だ… そして…稲葉山城は…難攻不落の堅城…)


宗則は、慎重に、策を練り始めた。


数日後、宗則は、勝家の前に、自らの策を披露した。


「勝家様、それがしは、調略と奇襲を組み合わせた作戦を提案いたします」


宗則は、地図上の稲葉山城周辺に点在する、いくつかの小さな城に印をつけた。


「まず、稲葉山城を支える支城を、調略によって落とします。 特に、この三つの城…」


宗則は、その三つの城を指さした。


「鵜沼城、加治田城、そして、最も重要な、岩村城。 これらの城を落とせば、稲葉山城は孤立し、補給路を断たれることになります」


「なるほど…」


勝家は、頷きながら、地図を睨んだ。


「しかし、これらの城は、いずれも、斎藤家の重臣が守っている。容易に寝返るとは思えぬが…」


「そこが、それがしの腕の見せ所です」


宗則は、静かに微笑んだ。

彼の瞳には、陰陽師としての自信が宿っていた。


「それがしは、陰陽師としての能力を使い、彼らの心を揺さぶり、信長様への内応を促します」


「ほう…」


勝家は、興味深そうに宗則を見た。

彼は、陰陽道に対して、半信半疑といった様子だった。


「具体的には、どうするのだ?」


「まず、稲葉山城の西に位置する、鵜沼城の城主・稲葉山城守良通殿に接触いたします」


宗則は、地図上の鵜沼城を指さした。


「稲葉良通殿は、かつて斎藤道三様に仕え、その才を認められた人物です。 しかし、龍興殿の代になってからは、冷遇されているという噂を耳にしました」


「なるほど…」


勝家は、頷いた。


「良通殿は、道三様の娘婿であり、龍興殿にとっては叔父にあたる人物。 彼が信長様に寝返れば、斎藤家にとって大きな打撃となるでしょう」


「うむ…」


勝家は、宗則の言葉に、深く頷いた。


「それがしは、良通殿に、信長様の器量と、天下統一への大望を伝え、彼を、信長様のもとへ導きます。 そして…必要であれば…陰陽師としての能力を使い…彼の深層心理に働きかけ…彼の心を…信長様へと向けさせます…」


「ふむ…そこまで言うなら…やってみる価値はあるかもしれぬ…」


勝家は、宗則の言葉に、わずかに期待を込めた。

彼は、宗則の知略と、陰陽師としての能力に、賭けてみようと思ったのだ。


「よし、宗則。お前の策を実行せよ。わしは、お前の知略を信じる」


「はっ! 必ずや、ご期待に応えてみせます!」


宗則は、深く頭を下げた。

彼は、綾瀬と共に、鵜沼城へと向かった。


(稲葉山城守良通…あなた様は…一体…どのようなお方…?)


宗則は、道中、良通の人物像を思い浮かべながら、策を練っていた。


(私は…あなた様の心を…動かせるのだろうか…?)


宗則は、不安と期待を胸に、鵜沼城へと歩みを進めた。


(続く)

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