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第二十四話 疑心の連鎖

二条家の屋敷は、一見平穏に見えた。

美しい庭園には、色とりどりの花が咲き乱れ、池には錦鯉が優雅に泳いでいた。

しかし、その美しさとは裏腹に、屋敷の空気は、重く、冷たかった。


二条尹房は、書斎で一人、考え込んでいた。

彼の顔には、深い皺が刻まれ、目は、鋭く光っていた。


(近衛派め…何を企んでいる…?)


尹房は、近衛派の動きを、警戒していた。

信長との同盟が成立し、勢力を増す近衛派は、もはや、無視できない存在となっていた。 しかも、信頼厚い筆頭家老・斎藤蔵人の裏切り。

それは、尹房の心を、深く傷つけ、彼を、疑心暗鬼に陥れていた。


(彼らは、信長と手を組み、二条家を滅ぼそうとしている…)


尹房は、近衛家の狙いを感じ取っていた。


(蔵人を懐柔したのも、彼らの策略だったのか…?)


尹房は、蔵人の裏切りを、どうしても信じることができなかった。

蔵人は、尹房の父である前当主の代から、二条家に仕えており、その忠誠心は、疑う余地もなかったはずだった。


(それとも、蔵人は、近衛家に脅されていたのだろうか?)


尹房は、様々な可能性を考え、苦悩していた。


(油断はできぬ…)


尹房は、家臣たちにも、警戒を強めるよう、指示を出していた。

しかし、彼の心は、底知れぬ不安に蝕まれていた。


数日後の朝、二条家の家臣たちは、重苦しい雰囲気の中、会議室に集まっていた。

尹房は、家臣たちの顔を見渡した。

彼らの表情には、不安と動揺の色が浮かんでいた。


「近衛前久が、関白の座に居座り続ければ、我ら二条家は、窮地に立たされるであろう」


尹房は、家臣たちに、危機感を訴えた。


「何か、良い策は…?」


「殿、近衛家に…対抗…するには…我々…も…信長…様…と…手を…組むしか…ありませぬ…!」


「しかし、信長様は、危険な人物です…!」


「それでも、このままでは、二条家は、滅びてしまいます…!」


家臣たちは、それぞれの意見を主張し、激しく議論を交わした。

しかし、有効な対策は見つからない。

近衛家は、信長という強力な後ろ盾を得て、ますます勢力を拡大していた。


その時、家宰が、尹房に近づき、耳元で囁くように言った。


「殿、愛猫の失踪事件ですが、新たな情報が入りました」


家宰の顔色は、悪く、額には脂汗が浮かんでいた。


「どうやら、裏で糸を引いていたのは、近衛派の者たちのようです」


尹房は、家宰の言葉に、驚きを隠せない。


「彼らは、我々の下働きに目をつけ、金で釣って、猫を盗ませたようです」


「そして、その猫を、わざと目立つ場所に捨て、我々二条家の評判を落とそうとしたのです」


尹房は、怒りで、身体が震えるのを感じた。


(近衛め…そこまで…卑劣な…真似…を…!)


尹房は、拳を握りしめ、歯を食いしばった。


「しかし…なぜ…蔵人は…」


尹房は、再び、蔵人の裏切りについて、考え始めた。


(蔵人は、近衛家に脅されていたのか…?)


(それとも、彼もまた、近衛家の甘い言葉に惑わされたのか…?)


尹房は、疑心暗鬼に陥り、誰を信じれば良いのか分からなくなっていた。


その頃、尾張では…


宗則は、柴田勝家の屋敷の一室で、綾瀬から受け取った手紙を読んでいた。


「春蘭様は蓮様の真意が分からず、不安です…」


春蘭の言葉が、宗則の心に、重くのしかかった。


(春蘭様…)


宗則は、春蘭の不安を、感じ取ることができた。


その時、綾瀬が、口を開いた。


「信長様は、『人心掌握』に長けた陰陽師を探しておられます。

信長様は、人の心を操る術を使い、自らの野望を達成しようとしているのかもしれません」


「人心掌握…?」


宗則は、綾瀬の言葉に、不吉な予感を感じた。


(信長様は、一体、何を…?)


(私は、都へ戻らなければならない…!)


宗則は、決意した。

その時、彼の背中のあざが、熱く脈打つように感じた。


(宗則…)


宗則は、心の中で、八咫烏の声を聞いた。


(お前の行くべき道は、そこにある…)


宗則は、綾瀬に、密かに、都へ戻る準備をするように指示した。


「綾瀬、お前は、私の忠実な部下…だよな…?」


宗則は、綾瀬の目をじっと見つめた。


「はい、宗則様。私は、いつでも、あなたに従います」


綾瀬は、静かに答えた。

しかし、彼女の表情は、依然として、感情を読み取ることができなかった。


「ならば、私に協力してほしい」


「かしこまりました、宗則様」


綾瀬は、深く頭を下げた。

彼女の瞳には、冷たい光が宿っていた。


(蓮様は、一体、何を企んでおられるのでしょうか?)


綾瀬は、心の中で、呟いた。


(続く)

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