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第二十五話 二条家の落日

二条尹房は、愛猫の失踪事件以来、心穏やかならぬ日々を送っていた。

彼は、この事件が、近衛家による陰謀の始まりだと感じていた。


(近衛派め…そこまで卑劣な真似を…!)


尹房は、拳を握りしめ、歯を食いしばった。

愛猫の失踪は、単なる嫌がらせではなかった。

近衛派は、巧妙な策略によって、二条家の評判を傷つけ、人々の信頼を失墜させようとしていたのだ。


(このままでは、ジワジワと、我々は追い詰められていく…!)


尹房は、家臣たちを集め、広間で対策を協議した。

家臣たちは、近衛家に対抗するために、様々な策を提案するが、尹房は、どれも決定打に欠けると感じ、苛立ちを募らせる。


「近衛前久が、関白の座に居座り続ければ、我ら二条家は、窮地に立たされるであろう」


尹房は、家臣たちに、危機感を訴えた。


「何か、良い策は?」


「殿、近衛家に…対抗…するには…我々…も…信長…様…と…手を…組むしか…ありませぬ…!」


「しかし、信長様は、危険な人物です…!」


「それでも、このままでは、二条家は、滅びてしまいます…!」


家臣たちは、それぞれの意見を主張し、激しく議論を交わした。

しかし、有効な対策は見つからない。

近衛家は、信長という強力な後ろ盾を得て、ますます勢力を拡大していた。


「ならば、こうするしかない!」


尹房は、決意を固めたように、言った。


「我々は、朝廷に働きかけ、近衛前久を関白の座から引きずり下ろす!」


尹房は、近衛家の動きを、注意深く監視することにした。

そして、機会があれば、反撃に出るつもりだった。


数日後、家宰が尹房に新たな情報を伝えに来た。


「殿、愛猫の失踪事件ですが、新たな情報が入りました」


家宰の顔色は、悪く、額には脂汗が浮かんでいた。


「どうやら、裏で糸を引いていたのは、近衛派の者たちのようです。彼らは、我々の下働きに目をつけ、金で釣って、猫を盗ませたようです」


「そして、その猫を、わざと近衛家の屋敷近くで衰弱した状態にして、見世物小屋に売っていたようです」


尹房は、怒りで、身体が震えるのを感じた。


(近衛め…そこまで…卑劣な…真似…を…!)


尹房は、拳を握りしめ、歯を食いしばった。

しかし、怒りに任せて行動しては、相手の思う壺だ。

尹房は、冷静さを取り戻し、家臣たちに指示を出した。


「近衛家の悪事を暴くのじゃ!」


「はっ!」


家臣たちは、尹房の言葉に、奮い立った。

彼らは、近衛家のスキャンダルを探し、尹房を陥れようとする動きを阻止するために、奔走した。


その頃、尾張では…


宗則は、柴田勝家の屋敷の一室で、瞑想にふけっていた。

信長に仕え始めて数ヶ月、彼は、自らの能力を、戦という場で使うことに、迷いを感じていた。


(本当にこれで良いのだろうか?)


その時、彼の背中のあざが、熱く脈打つように感じた。

同時に、彼の脳裏に、不吉な映像が浮かんだ。

それは、春蘭が、苦しげな表情で、何かを訴えている姿だった。


(春蘭様!?)


宗則は、急いで目を開けた。

彼の心は、不安でいっぱいだった。


(都で何かが起こっている…!)


宗則は、自室に戻り、机に向かった。

そして、筆と紙を取り出し、春蘭に宛てて、手紙をしたため始めた。


「春蘭様、お元気でお過ごしでしょうか? 尾張では、信長様のもと、日々修行に励んでおります。しかし、最近、都のことが気にかかって仕方がありません。近いうちに、都へ戻りたいと考えております。何か、私にできることがあれば、遠慮なくお申し付けください」


宗則は、手紙を書き終えると、それを綾瀬に手渡した。


「この手紙を、春蘭様に届けてほしい」


「かしこまりました、宗則様」


綾瀬は、深く頭を下げた。

彼女の瞳には、冷たい光が宿っていた。


(蓮様は、一体、何を企んでおられるのでしょうか?)


綾瀬は、心の中で、呟いた。


宗則は、勝家の部屋を訪ねた。


「勝家様、それがし、しばらくの間、都へ戻りたいと考えております」


「都へ? なぜだ、宗則?」


勝家は、宗則の申し出に、驚いた様子を見せた。


「実は、都の親族から手紙が届きまして、どうやら体調を崩しているとのこと。しばらくの間、看病してやらねばならぬと…」


宗則は、嘘をついた。

彼は、信長様に、本当の理由を話すことができなかった。


「そうか…それは仕方がない。家族は大切じゃ…」


「ご心配なく、勝家様。それがし、必ず、戻ってまいります。そして、信長様のお役に立てるよう、精一杯努力いたします」


宗則は、勝家に、深く頭を下げた。


(私は、必ず、都へ戻る。そして、春蘭様を、守る!)


宗則は、心の中で、誓った。


(続く)

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