永禄十年(1567年)秋。
尾張国、清洲城。
信長は、美濃の斎藤龍興を追放し、美濃を平定した。
そして今、天下に最も近い男として、上洛を決意する。
広間には、信長の家臣たちが集い、重苦しい空気が漂っていた。
信長は、上座に座り、家臣たちを鋭い眼光で見据えていた。
その姿は、まるで猛虎が獲物を狙うかのようであり、家臣たちは、その威圧感に、息を呑んだ。
「皆の者、わしは、上洛を決意した!」
信長の言葉は、轟く雷鳴のように、広間に響き渡った。
「将軍・足利義昭様を奉じて、京の都へ入り、天下に号令する!」
信長の言葉に、家臣たちは、興奮を隠せない様子だった。
誰もが、信長の天下統一への野望に、心を震わせていた。
「恐れることはありません! 我らが、信長様のために、道を切り開きましょう!」
柴田勝家は、力強く言った。
その言葉には、信長に対する絶対的な忠誠がにじんでいた。
「うむ、頼むぞ、権六」
信長は、勝家に、期待を込めた眼差しを向けた。
そして、信長の視線は、宗則へと移った。
「宗則、そなたはどう思う?」
信長は、静かに尋ねた。
その声は、静かだったが、宗則の心に、重くのしかかった。
「浅井、朝倉、共に、手強い相手となります」
宗則は、信長の鋭い視線に、緊張しながら答えた。
「特に、浅井長政は、信長様の妹君・お市の方を娶り、同盟関係にありますが、朝倉家とは、古くからの主従関係にあります。信長様の上洛を阻むため、朝倉義景の要請に応じ、裏切る可能性は高いでしょう」
「朝倉義景は、名門の誇り高く、保守的な人物です。彼は、信長様の革新的な思想を危険視し、必ずや、上洛を阻止しようと動くでしょう」
宗則は、陰陽師としての能力を使い、二人の武将の性格や能力、そして、彼らがどのような行動を取るのかを予測した。
「なるほど」
信長は、宗則の言葉に、深く頷いた。
「宗則、そなたは、わしに仕えることに、迷いは…ないか…?」
信長は、宗則の目をじっと見つめ、静かに尋ねた。
宗則は、信長の言葉に、心が揺さぶられた。
(信長様は、本当に、この乱世を終わらせることができるのだろうか?)
(それとも、私は、ただ、彼の野望に加担しているだけなのだろうか?)
宗則は、自らの使命と、信長への期待の間で、葛藤していた。
その時、宗則は、春蘭の言葉を思い出した。
(信長様は危険な人物です。しかし、藤原家にとって、必要な存在でもあります)
そして、白雲斎の言葉を思い出した。
(宗則、お前は、わしのような過ちを繰り返してはならぬ。お前の力は人々を救うためにある。それを決して忘れてはならぬぞ!)
宗則は、深呼吸をし、心を落ち着かせた。
「それがし、信長様の天下統一が、この乱世を終わらせる最善の道だと信じております」
宗則は、静かに、しかし力強く言った。
「良い」
信長は、宗則の言葉に、満足そうに頷いた。
「宗則、そなたの知恵を、わしに貸せ」
「はっ!」
宗則は、信長の言葉に、力強く答えた。
「では、上洛の具体的な計画を話そう」
宗則は、地図を広げ、信長に、上洛の具体的な計画を説明し始めた。
「まず、我々は、美濃から近江へと進軍し、浅井長政の居城、小谷城を攻略します。そして、朝倉義景を討伐した後、京の都へと進軍するのです」
「そのために、私は、あらかじめ、近江、そして、越前の国人衆に接触し、調略を進めておきます」
「信長様のお力と、私の知略で、必ずや、上洛を成功させましょう」
宗則は、信長の上洛を成功させるために、自らの能力「泰山府君祭」を使うことも辞さない覚悟を決めていた。
信長は、宗則の言葉に、満足そうに頷いた。
「うむ、頼もしい、宗則」
信長は、宗則に、期待を込めた眼差しを向けた。
宗則の隣に控えていた綾瀬は、静かに信長を見つめていた。
彼女の表情は、相変わらず能面のように無表情だったが、その鋭い眼光は、信長の言葉の一つ一つを、逃さず捉えていた。
(続く)